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「おはようございます。魔王さま」


 ミルカちゃんが呼ぶ声で、今日は目が覚めた。

 あれ、なんで私寝てるんだっけ……。ああ、MP枯渇で気絶したのか……。弱いな私。

 自己嫌悪で気落ちしている私を見かねたミルカちゃんが、比較的明るい口調で提案した。


「今日は、城の外に出てみましょうか!」


 創造した魔羊の様子も知りたいし、迷宮も確認しておきたいので、私は頷いた。




「予想以上に狭い。いや、予想通り狭い」


 城の外に出て真っ先に持った感想がそれだった。


「文句言わないでください。これでも、初期迷宮としては上等なんですから。なんたって、小さいとはいえ、島と城がありますし。普通は、さほど広くない小部屋程度しかくれないんですよ?」

「まあ、そうだろうけど」


 私は周囲をぐるりと見回す。

 ミルカちゃんが言っていた通り絶海の孤島だった。崖下からは荒れ狂う波の音が響き、空はどす黒く分厚い雲に覆われている。植物といえば、薄気味の悪い形の枯れ木が数本だけ。小さいながらも威圧感のある魔王城。雰囲気だけは抜群である。――ただし、狭い。

 3匹の魔羊は、暇そうにその辺をうろちょろしている。アイツ等、餌とかは必要ないのだろうか。そういえば、この世界に来て既に数日経っているが、一度も食事をしていない。空腹を感じることもない。どうやら、食事が必要ない身体らしい。ミルカちゃんも食事している様子がないし、魔物自体が食事を必要としないのかもしれない。いや待てよ、確か魔羊って魔物ではないではないか。


「ミルカちゃん、魔羊達って餌ってどうしてんの?」

「迷宮産の生物は、迷宮に漂っている魔素で生きているので、食事の必要はありません」

「なるほどね」


 厳密には魔物ではなくとも、迷宮産なら食事不要か。食事のことを考えなくていいのは正直助かる。しかしこの言い方では、私達は必要みたいにも聞こえるが。


「私達は食べなくていいの?」

「私は悪魔系の魔物なので、空気中の魔素さえあれば大丈夫です。魔王さまは、魔獣系の魔物なので本当は必要なはずなんですけどね、眠り羊は特殊で魔素だけでも大丈夫みたいですね。しようと思えば、食事も可能ですよ。どうしても、娯楽色が強くなってしまいますが」

「そういうことなら、今度何か作ろうかな?」

「一通り、落ち着いたらお願いします」

「はーい……」


 ミルカちゃんの咎める視線から目を逸らし、先程から気になっていたおどろおどろしい両開き扉を指差す。その扉は見上げる程に巨大でありながら、悪魔を象ったらしい意匠はとても精巧で、魔王城の入口よりも豪華であった。しかし、その扉の裏にはただ崖があるのみで、一見して存在理由が分からない。だが、おそらくあれは……。


「あれが、迷宮の入口?」

「そうです。厳密には、この孤島も迷宮扱いですけどね」


 私は、つかつかと歩いて、扉に近付く。そして、両手で押し開こうとしたところで、取っ手があることに気付き、それを掴んで引いた。ギィーと音を立てて、扉がひとりでに開いた。

 中は完全な暗闇ではなく、薄暗い程度だったので、私は足を踏み入れる。

 そこは、正方形の形をした小部屋だった。反対側に、背後の扉ほどではないが、そこそこ立派な扉があるので、あれがヒト族の大陸に繋がっているのだろう。つまり、現在、迷宮部分はこの小部屋1つのみである。一応【創造】を使って、迷宮マップを確認してみるが、そこにも小部屋と孤島と城だけが映されていた。なるほど、これは早く対策しなければまずい。改めて、そう思った。


「魔王さま、ダンジョンポイントを使って、迷宮を拡張しましょうよ」


 そう言われて、私はDPを確認する。迷宮レベルの近くにDPの残量の表示が出現していた。DP残量は、15ポイント。“魔物創造”に消費したMPときっちり同じだけDPがたまっている。

 “迷宮拡張”をタッチすると、画面が切り替わった。背景がマス目状の迷宮マップと“罠”など数種類の文字が表示された。小部屋の大陸側の中央をDPを10ポイント使って、1マス伸ばしてみる。ゴゴゴッという重低音が鳴り止むと、大陸に繋がる扉と小部屋の間に1m四方の短い通路が出来ていた。1m四方で1マスということらしい。それが10ポイント。

 これはこれは……。MPが少ない私にはとことん優しくない仕様である。魔物を作って、迷宮も拡張して、罠とかも設置して……、完全にキャパシティを超えている。本当にこんなんでやっていけるのか。いやいやいや、絶対無理でしょ……。でも、やらなきゃ殺られるし……。

 投げ出したい気持ちをどうにか抑えて、もう1マス伸ばす。今度は、DPを5ポイント、MPを5ポイント消費した。当然、MPを使用したので、だるさが全身を襲う……と思ったら、身体が軽くなっていた。


「もしかして……」


 直感に従って、プロフィールを出現させる。予想通り、レベルアップしていた。


「魔王さま、どうされたんですか?」


 不思議そうに問いかけてくるミルカちゃんに上機嫌で答える。 


「レベルが上がったんだよ!」

「なんと! おめでとうございます! 魔王さま!」


 ミルカちゃんも我がことのように喜んでくれた。先程とは一転、気分が高揚したままステータスを眺める。



Lv.2

HP 30/30

MP 20/20



 HPとMP以外の他の能力値には変化がなかったが、HPとMPは倍の数値になっている。これだけでも、かなり嬉しかった。気絶までして創造したかいがあった。

 小さな一歩だけれど、確実に進めていることが分かっただけでも良かったと感じられる、初めてのレベルアップだった。

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