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目が覚めると、身体のだるさが嘘のようになくなっていた。休息を取るとMPはきちんと回復してくれるらしい。
身体を起こして、「んーっ」と伸びをする。しばらく、ぼーっと虚空を見つめていたが、そういえば、ステータスは見たけど、スキルとかはよく確認していないな、と思い立ち、ステータスを出現させる。
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種族特性/《過剰睡眠欲》《眠りへの誘い》
クラス特性/《不老》《DP獲得》《ステータス閲覧》
スキル/【創造】【闇魔法Lv.1】【鑑定Lv.1】
称号/宵闇の魔王
加護/邪神の加護
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改めて見ると、普通に考えておかしい表記が目白押しだ。
特に特性! パッと見、どんな効果かまるで分からないよ! 字面だけ見ると、あまり良い物には思えない。
詳しく見ることが出来るだろうか、と、当たり障りのなさそうな《DP獲得》をタッチしてみる。すると、右側にステータスを同じように、黒い文字が浮かび上がり、効果説明が現れた。【創造】と同じように、画面が切り替わるのかと予想していたが、全然違った。もしかしたら、システムだとか、何かそういうものが根本的に違うのかもしれない。
それはともかく、折角出したのだから、説明文を読む。
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《DP獲得》
迷宮主、魔王のクラス特性。
特性効果/MPによる迷宮拡張・魔物創造、侵入者撃退・退治、迷宮レベルアップ時にDPを獲得出来る。
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まあ、ミルカちゃんが言っていた事と同じことしか書かれていない。それに、少し微妙な気持ちになりながら、他の怪しい特性を順番に確認していく。
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《過剰睡眠欲》
眠り羊の種族特性。
特性効果/保持者は、常時状態異常[睡眠]になる。
備考/クラスが魔王の為、効果緩和。
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《眠りへの誘い》
眠り羊の種族特性。
特性効果/付近の生物を強制的に状態異常[睡眠]にする。【状態異常耐性】等のスキル、特性を持っている生物には効果がない。
備考/クラスが魔王の為、on/offの切り替えが可能。
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《不老》
魔王のクラス特性。
他にも、上位種はこの特性を持っていることがある。
特性効果/老化せず、寿命による死がなくなる。不死ではない。
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《ステータス閲覧》
迷宮主、魔王のクラス特性。
特性効果/配下のステータスを閲覧可能。
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《眠りへの誘い》強い。on/offの切り替えがなくても強い。これがあって何故、最弱なんだ眠り羊よ。
どう考えても、《過剰睡眠欲》のせいだな。常時[睡眠]状態なら、何をされても起きることがないのだろう。少し距離をとった場所から攻撃されてしまえば終わりだ。能力値は私のステータスから察せる通り、軒並み低いのだろうし。なるほど、弱いな。
それと、いくら緩和されているお陰で起きていられるとはいえ、少し経ったらすぐ眠くなりだすのはやめて欲しい。これも耐性スキルを獲得出来たら、克服出来るのだろうか。そんなことを考えていたそばから眠気が……。首を振って、無理やり起こす。
魔王の特性の方は、便利特性といったところか。私も女であるし、若々しい姿を維持出来るのは嬉しい。配下のステータスも見れた方が何かと便利だろう。
特性は一通り見たことだし、スキルを確認する。
【創造】は既に一度使ったので、【闇魔法Lv.1】に目を移す。
魔法である。憧れの魔法である。レベル1では対したことは出来ないだろうが、そもそもが前世には魔法など、存在さえしなかったのだ。ワクワクが止まらない。既に、魔羊を一匹創造しており、魔法染みたことはやっているが、それとこれとは別なのである。
だがしかし、ここで魔法を使ってみろ。私のMPはたったの10! たちまちにMP切れで倒れ、そこに《過剰睡眠欲》が合わさり、また寝てしまうではないか!
私は魔法を使ってみたい欲をグッとこらえ、【鑑定Lv.1】を見る。大体どんなものか分かるが、こういうものは使ってみるのが一番だろうと、座っているベッドに使用してみる。幸い、魔法や【創造】と違ってMPは消費しないようだし。
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ダブルベッド
魔王御用達のベッド。上質な素材で出来ている。
特殊効果なし
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ふむふむ、物の名称と簡単な説明、特殊効果が分かるようだ。これはただのベッドだった為、レベル1でも普通に見れたが、高位の物だったりすると、高いレベルが必要になってくるのだろう。
さて、と。あと残っているのは称号と加護だが……。特に何か効果がついている訳でもない称号はともかく、問題は加護である。“邪神”の加護である。私は魔王なのだから、邪神の加護が付いていても何もおかしくはない。寧ろ、私をこの世界に呼び出したのがこの邪神である可能性すらあるが……。
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邪神の加護
邪神によって施された加護。
加護効果/CHRプラス補正、クラス“魔王”取得、スキル【闇魔法】取得、称号“宵闇の魔王”取得
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能力値補正CHRだけかよ! 通りで、これだけ他より高かった訳だ。
よくあるRPGなんかだと、あまり重要視されない能力値だが、ここは現実。当然、あった方が良い関係を築けるに違いないので、感謝はしておく。魔王が普通の人々と交流する機会があるのかとかいう根本的な問題は置いておく。
魔王はともかく、【闇魔法】が加護によるものということは、普通の方法では取得できないスキルなのだろうか。……自分だけの魔法、良いなぁ。思わず、顔がにやけてしまう。
「魔王さま、何ニヤニヤしてるんですか?」
「ひょえっ!?」
あ、変な声出た。……じゃなくて!
「ミ、ミルカちゃん、いつの間に来たの?」
「今さっきですけど……」
「そうなんだ……。あ、そうだ、あの魔羊はどこにいるの?」
あからさまな話題逸らしだが、魔羊の行方は気になる。この城の規模は、本当に城なのか怪しいレベルで小さいようだが、起きたらこの部屋にはいなかった。まさか、あの玉座の間にいるんじゃあるまいな……。
「あの子なら、城の外にいますよ」
ミルカちゃんは、不審げに私を見たものの、答えてくれた。
「外?」
この城の外ってことは、迷宮にいるのだろうか。まだ、迷宮には一切手を付けていないため、現在の状況を全く把握出来ていないが、魔羊一匹が過ごせる程度のスペースはあるのかもしれない。
「ああ、まだ言ってませんでしたね。この魔王城、実は絶海の孤島に建っているんですよ。ですから、外で放し飼いしています。そんなに広い場所はないですが……。まあ、それも迷宮レベルを上げれば広がりますし」
絶海の孤島! それは予想外だった。迷宮レベルを上げれば広がるということは、孤島自体が迷宮の一部なのだろう。下手したら、この魔王城さえ、迷宮の一部なのかもしれない。それなら、この狭さにも納得がいく。
あれ? 絶海の孤島だと、誰も迷宮攻略に来れなくないか……?
私が疑問に思ったことが伝わったらしく、ミルカちゃんが説明する。
「迷宮の入口が、ヒト族が住む大陸に繋がってます。幸いにも、出現した位置が深い森の奥なので、暫く発見されることはないと思いますが、早めに迷宮を整えた方が良いですね。魔王さまのMP量だと大変だと思いますが……」
ミルカちゃんが、心から心配そうな表情で私を見てくる。
ここまで配下に心配される魔王って……。私は、少し落ち込むが、命が懸かっているのである。当然といえば、当然であった。
どうせならMPチートつけてくれれば良いのに、と対した補正の付かない加護をくれた邪神に心の中で抗議してみるものの、所詮は邪神である。ロクなことにならなさそうだ。
MPが少ないなら、少ないなりに頑張ろうと、魔羊を二匹創造する。一気に身体を虚脱感が襲い、ミルカちゃんが慌てる声を聞きながら、私は気を失った。