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ぼんやりと天井を見つめる。
……知らない天井だった。
「っ!?」
ガタッと音を立てて立ち上がる。同時に、誰かが掛けてくれたらしき毛布が滑り落ちる。何故か、知らない場所で椅子に座って眠っていたらしい。座って寝ていたせいで、身体の節々が痛い。首を回したら、ごきっと小さく音が鳴った。
辺りをきょろきょろと見渡す。そうして、なんとなく、見覚えがある部屋のような気がしてくる。なんというか薄暗くて、悪趣味な部屋だった。例えるなら、RPGのラスボスの部屋。しかし、ラスボスの部屋にしては狭くて、物足りない部屋である。
でも、仮にこの部屋が王の間的な位置づけの部屋だとしたら、私が座ってる椅子は……。恐る恐る、振り返る。おどろおどろしい悪魔を象った背もたれを直視する。悪魔の黒い宝石の目と目が合ってしまった。
……慌ててサッと目を逸らした。私は見ていない。私は何も見ていない。禍々しい悪魔の玉座など見ていない。
現実逃避気味に考える。
いったい、ここはどこなのだろうか。
前日の、この椅子で寝る前までの記憶を掘り返す。
普通に学校に行って、普通に帰りの電車に乗ったところまではしっかりと覚えている。だが、その後がどうにも曖昧だ。よほど昨日の私は眠かったらしい。でも、はっきりしていることもある。
無事に家に辿り着けなかった。
ということだ。でないと、攫われたにしろ、それ以外の何かが起こったにしろ、明らかに自宅ではないこの場所に私が居ることが説明できない。
ひとまず、何者かに誘拐されたのだと仮定する。こう言うとナルシストみたいだが、私はそこそこ容姿が優れていると自負している。そして、流石にお嬢様と言われる程ではないが、家も私立高校に通わせてもらえる程度には裕福だ。これだけでも、誘拐された可能性は考えられる。
しかし、電車内で誘拐など有り得るのか。内側から開かないように部屋に鍵が掛かっている可能性はあるものの、拘束もされずに放っておかれるものなのか。それ以前に現代日本にこんな悪趣味な部屋をこしらえている建物が存在するのだろうか。……遊園地ならありそうだが。
だがまあ、以上のことから、誘拐の線は薄そうである。
それなら、他にどんな可能性があるというのか。非現実的なことならいくつか思い浮かぶ。
トリップ、転生、召喚……。
どれも空想の中でしかないような話だ。まあ、そういったような小説を暇な時に読んでいたから、密かに憧れていたりなんかもする。
しかし、そんなことが現実に起こりえてなるものかと、頭を振る。とそこで違和感を感じた。
髪の毛以外に揺れるものはないはずなのに、どうも頭の上に何かが乗っているような気がするのだ。
途轍もなく嫌な予感を感じながら、頭に触れる。
明らかに、普通の人間にあってはならないものが頭上に4つ。柔らかいものが2つに、渦を巻いた硬いものが2つ。
見事に動物の耳と、角である。
「マジでか……」
呆然と呟く。
これはどう考えても、夢でない限り、異世界転生している。
それも、人間以外に!
いつ死んだのか、どうやって死んだのかだとか考えるべき事を即座に放棄する。
それよりも重要なことがあるからだ。
この感じからいって、獣人かな。獣人だといいな。獣人だとしたら何の動物かな。などと、一生懸命部屋を見ないようにして、思う。
本格的に現実逃避をしていたところ、コンコンとノックが響く。
「ハイッ」
考え事をしていたせいで、反射的に答えてしまった。