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この作品は、以前書いていた作品を一部設定を引き継いで、完全に書き直したものです。
かなりブランクがあるので、リハビリ作品となります。
徐々に文量を増やしていきたいと思ってます。
何をしようにも眠い。頭では起きなくては、と思っているのに、ただひたすらに眠い。そんな日が皆にもあると思う。
それが、ぽかぽかと暖かい心地良い陽気の日なら、なおさら。
そう。だから、長かった学校が終わって気が抜けた私が帰りの電車で、ついうとうとと眠りこけてしまったのも仕方がないことだったのだ。
たとえ、その電車が私の知らぬ間に脱線事故を起こしてしまったとしても。
◇
異世界転生。そんな言葉が一瞬頭を過ぎった。
日本ではまず見られない、それこそアニメやゲームの世界くらいでしか見ることのないだろう、桃色の髪に同じく桃色の瞳の幼女。格好は、やはりゲームに出てくるようなサキュバスに似た幼い容姿には不釣り合いな扇情的なもの。そして、背には蝙蝠を思わせる小さな翼。ちらっと見えたのは、先端がトランプのスペードのように尖った尾。
そんなファンタジーを具現化したような存在が、目の前にいる。じっと、期待と羨望と……、それと少しのほんの少しの畏怖、だろうか? そんな感情が入り混じった眼差しで、私を見ている。
「魔王さま、……でよろしいのですよね?」
見た目通り、可愛らしい声が幼女から聞こえた。
眠りから覚めたばかりのようなぼんやりとした頭では、“魔王”、それが誰を指した言葉だったのか、即座には判断がつかなかった。
私が無言でいるのを肯定と取ったらしき幼女は跪き、頭を垂れた。
「魔王さま、本日より貴女様にお仕えすることになりました、ミルカディア・クイックシュタインです。よろしくお願いいたします」
未だはっきりしない意識の中で、私が魔王と呼ばれる存在で、その魔王たる私に配下に加わったのだと、理解した。
しかし、理解はしたが納得は出来なかった。
たとえうまく回転してくれない頭でも、私が運命を左右する異常事態に巻き込まれていることが分かるからだ。
そも、魔王といえば悪の象徴ではないか。よくある王道な話では、魔物を統べる魔王は、どこからともなく現れる勇者によって討伐される。つまりは、勇者に討伐されるほどの悪事を魔王ははたらくわけだ。いや、物語によっては悪事をしていなくても討伐されていた。要するに、魔王は善悪に関係なく、勇者の、しいては人類の敵な訳だ。
正直、私は魔王には向いていない、善良な一般市民だった。間違いなく、普通な至って普通な高校生だったのだ。寧ろ、今も一般人なつもりなのである。
そう! 断じて、異世界転生らしきものをしたことも、転生先が魔王であるらしいことも、認める訳にはいかないのだ!
私が無言なせいか、尚も頭を垂れ続けている幼女を見なかった事にして、私は現実逃避に精を出す。
いっそのこと、先程から完全覚醒しない頭に身を任せ、もう一度眠りにつこうか。
次に起きた時には、これは全て悪い夢だったのだと安心出来ることを祈って。