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咲「お久しぶりです、斗羅さん、弖怒さん。」
咲と慎一がおじぎすると、斗羅と弖怒はどの御三家の主人たちより親しみやすい笑顔で会釈した。
斗「久しぶりだね。」
琴「お姉ェ、さっきしなかったんだから今度はちゃんと挨拶するんだぞ!」
はしゃぎながら歌琴は歌箏を無理矢理前に出してきた。
歌箏は真っ赤になってどうにか退こうと歌琴に対抗する。
弖「こら、歌箏。ちゃんと挨拶しなさい。」
慎『歌箏って呼んじゃったらどっちだか分かんねぇじゃん。』
慎一がフッと笑っていると、母親に言われてようやく観念したらしい歌箏が、背を向けたまま顔だけ慎一の方を向いた。
箏「……こんにちは。」
小さな声でそれだけ言うと、歌箏は油断した歌琴を押しのけてようやく弖怒の後ろに逃げた。
咲「こんにちは、ソウちゃん。」
咲の挨拶に、弖怒の後ろから顔を出しもしない。
その様子を、歌琴が茶化した時だった。
琴「お姉ェホントに恥ずかしがりだね~。」
箏「うるしゃい!」
慎『………しゃい?』
歌箏は一瞬静止した後、弖怒の背中に顔を押し付け始めた。
歌琴は大喜びだ。
琴「あはははははははは! うるしゃいだって! あはははははははははははッ!!」
斗「こら、キン! あんまり笑ってやるんじゃない!」
琴「だっておかしいんだもん!」
歌琴は必死で呼吸を整えながら答える。
弖怒は呆れたような顔で慎一に言った。
弖「騒がしくてすいませんねぇ。歌箏は舌足らずだからあんまり喋りたがらなくて、そのせいではないんでしょうけどすごく内気なんですよ。」
慎「…いや、そのせいでしかないような…」
弖「え?」
慎「あ、いや、別に…。」
変な空気を終始歌琴の笑い声が飾っていた。
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咲「それじゃあ私たち、そろそろ戻ります。」
斗「うん、わざわざありがとな。」
咲「いえいえ。」
琴「え~、もう戻っちゃうの?」
何とか落ち着いた歌琴が、今度はあからさまに嫌そうな顔と声で言う。
それにまた弖怒が口を出した。
弖「わがまま言わないの。深裂ちゃんと…え~~…」
慎「あ、慎一です。」
弖「親日君だってご飯食べたいんだよ?」
慎「いや、親日じゃなくて…」
弖「え?」
慎「あ…何でもないです。」
何故か引き下がった慎一と、ブスッとした歌琴をよそに、咲はまた会釈をした。
咲「では、失礼します。」
斗「うん。悪によろしくな。」
咲「はい。」
弖「気を付けてね。」
咲「はい。」
慎『何に気を付けるんだ…。咲も普通に返事してるし。面白いなこの2人。』
2人は碧鬼灯家に見送られてその場を後にした。




