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授業後の掃除も終わり、慎一は帰路に就いた。
部活に所属していないので、すぐに帰れるのだ。
なので、サッカー部でエースとして活躍している勇気と一緒に帰ることはない。
そして慎一も、帰宅部のレギュラーとしての確固たる自信を持ち合わせていたので寂しくはなかった。
他人と一緒に帰るような、寂しがりが寂しがってするような情けない帰宅を許していなかった。
そうしていないとやっていられないという寂しい気持ちが大半を占めていたのには気付かないようにしていた。
家に帰ったら何をしようかと考えながら歩いていると、道の前方に何か変な人影が見えた。
電柱に手をつき、もう片方の手で口を押さえ、今にも吐きそうになっているそれは、明らかに咲だった。
慎『あれ、南さん…具合悪いのか?』
慎一は少しペースを上げて咲に近づいた。
慎「南さん。」
咲「!? えっと…確か…隣の席の……」
近くで見ると顔も気の毒なほど真っ青だ。
喋り方も苦しそうにしている。
慎「東 慎一だ。それより、大丈夫か? 具合悪そうだけど。」
咲「わ、私には…近づかないでって…」
今にも倒れそうな様子でそんなことを言ったので、慎一の中の正義感に火がついた。
こう見えて、割と正義感は強いのだ。
強すぎて、幼い頃はアニメやゲームの敵キャラに本気で憤り、これまでにいくつものテレビを割ってきた。
慎「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ! 学校そんなに遠くないし、保健室行こう。マジでヤバいなら救急車呼ぶし。」
携帯を取り出そうとした慎一の手を、咲が抑えた。
いきなりゼロ距離になったので、慎一は激しく戸惑った。
そんな慎一を、咲は涙目で見上げて懇願する。
咲「お、お願いです…、救急車だけは……。」
慎一はそれまで咲に抱いていた変人意識も忘れて勝手にときめいていた。
慎「わ、わ、わ、分かった分かった! じゃあ保健室まで行くぞ。歩けるか?」
咲は慎一の手を離さずにうつむいて答えない。
しかし、痙攣を起こしているように小刻みに震えている。
慎「…お、おい、南さん?」
慎一は咲の肩を揺らした。
と、いきなり咲は慎一の両肩をガシッと掴み返してきた。
慎一が驚くのと同時に、にわかに血色の回復した咲が、うっとりとした顔を慎一の顔に近付けてきた。
口が、どことなくそれっぽい。
慎『で~~~~~~~~~~~~~~~~!?? ち、ちょっと待て!! いきなり何だコレ!?』
焦りまくりながら口には出さない。
咲の柔らかそうな唇が、触れずとも慎一の口を塞いでいた。
慎一は安いラヴコメ的展開にうすら寒ささえ感じつつ、あまねく神々に感謝した。
慎一の口は、もう咲を受け入れる形になっていた。
そして、つい目を思いっきり閉じた。
慎『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!』
ガチュッ
何やら変な音が、慎一のすぐそばで聞こえた。