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慎一がどうしようかと焦っていると、すぐに勇気と木葉も咲の異状に気付いた。
勇「南さん、どうした? 具合悪そうだけど。」
木「大丈夫?」
咲は何も答えずにトロンとした目で宙を見ている。
顔は紅潮していた。
木「熱があるのかもしれない。」
と、木葉がいきなり近寄ってきた。
咲は泳いでいた目線を木葉に集中させるや否や、自分のバッグをひっつかんで素早く立ち上がった。
木葉はあまりに素早い咲の挙動に驚いて立ち止まった。
木「咲ちゃん…?」
咲「あ、その…おトイレ借りていいですか? ちょっと吐き気がするので…。」
木「え、ええ、部屋出て右に行ったらすぐよ。」
咲「ありがとうございます。」
咲は慌てて部屋から出て行った。
慎一が見ている前での一瞬の出来事だったが、実際誰も入って来れないトイレに閉じこもって波が引くのを待つのは良い考えだ。
"吐き気がする"というのもとっさのハッタリだろう。
ひとまずは安心か……。
と、慎一が安堵の息を漏らした時、勇気と木葉が意味深な表情で見つめ合っているのに気付いた。
そして、2人は小さく頷いた。
慎『何だ、一体?』
勇「慎一。」
いきなり名前を呼ばれて、油断していた慎一は激しくドキッとした。
慎「な、何…?」
勇「南さんって…もしかしたらさ…。」
慎『まさか…バレたのか!? あ、有り得ない! ちょっと具合悪そうになっただけだぞ!!?』
勇気が、核心に触れる前の小さな息を吸う。
その次に出てくる言葉が的外れであるのを祈った。
慎『バレてませんように!!!』
勇「妊娠してる?」
慎『あぁ~、良かった、バレてなかっ………?』
最初こそイメージしていた最悪のパターンでなかったので安心したが、的を外れすぎた矢が、風にあおられてこっちに飛んできた。
慎「んなワケねぇだろォ!!!!!」
慎一は思わずテーブルをバンと叩き、衝撃でクッキーがちょっと浮いた。
勇「え、だって今、吐き気がするってトイレに…」
慎「思考が短絡的すぎるよ!!」
木「でも、ちょっと普通じゃなかったわよ。具合悪いにしては少し嬉しそうだったし…。」
慎「愛想笑いだよ!」
勇「こないだ家行ったんだろ? チャンスはなくはない。」
慎「俺そんな男気ないよ! わずかばかりの証拠でそんな疑惑かけるのやめろ!!!」
慎一が最後までツッコみきると、2人はまた目を見合わせて小さく頷いた。
疑問が確信に変わったといった表情をしている。
慎『………ホント、何考えてんだ?』
慎一が息を整えていると、不意に勇気がニカッと笑った。
勇「悪ぃ悪ぃ、冗談だよ。」
慎「た、タチ悪ィ~~~~~~~~~~~……。しかも何で蓮樹さんまで一緒に…。」
木「ゴメンね、ちょっとノリで。それより、咲ちゃんの様子見てきてあげたら?」
慎「あぁ…、うん。」
2人とも手の平を返したようににこやかだ。
慎一は色々腑に落ちないまま、咲を追って部屋を出た。




