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プロローグ

友人である篠崎直彦からその電話がかかってきたのは、中学3年の一月。

俺が受験にまだ受験勉強ににあくせくしていたころだった。


直彦は開口一番にこう言った。


「雪人。VRゲームやろうぜっ!」


「・・・はぁ?」


「だからVRだよVRMMORPG!」


「いや、そんなことはわかってる。俺がわからないのは何だって今そんな話がお前からでてくるのかってことだ。・・・・・・お前受験はどうした。」


直彦も雪人と同じ高校を受ける予定のはずだ。


「推薦でギリギリ受かった。だからよ~やろうぜVRゲーム」


「アホかっ!! こっちは受験勉強でかかりきりなんだ! ゲームなんてやってる暇はない! 受験が終わってからにしろっ!」


直彦の脳天気な物言いに、受験ストレスでピリピリしていた雪人はキレて勢いよく電話を切った。


それから3ヶ月。

無事に志望校に入学できた雪人は、浮かない顔をして入学式を受けていた。

あの電話からこれ、直彦と話していない。

顔をあわしても避けられる。

やはり言い方が悪かったのだろうか、少々言葉が悪かったか……いや、あの場合は言わずに入られなかっただろう。

それに、あれぐらいなら直彦とは長いつきあいだ、いつもとは言わずとも何度か言ってしまったことはあった。

しかし、今回は何故避けられているのか。


(何かしたかなぁ…)


やや憂鬱な気分のまま教室に入った雪人が中にはいると、ざわつく教室の窓際の席には直彦が座っていた。

なんと同じクラスだったらしい。

ふと、直彦がこちらを向いた。


(え、あ、どうしよう、また避けられるかも)


雪人は自分が長いつきあいの幼なじみと絶縁になるなんてことは気まずい、とても気まずい。

なにせ人づきあいの苦手な雪人にはコミュニケーション能力が欠如しているのだ。

このままでは灰色の高校生活を過ごすことになるだろう。

それは嫌だ、絶対に嫌だ。

しかしその時、直彦と目が合い向こうもこちらに気がついた。


(なんか言わないと、でも何も思いうかばねぇ!!)


テンパる雪人をよそに、直彦は席を立ちツカツカと早足で歩いてくる。

そして直彦は、ガッと雪人の肩をつかんでこう言ったのだった。


「VRゲームやろうぜっ!!」






入学式があった日の放課後。


雪人の家に直彦が遊びに来た。

それを迎えた雪人は少しだけ乾いた笑顔だった。


「いやー、雪人の受験終わるまでつらかったぜ。一緒に始めるために3ヶ月も待っちまった。まあ他のをやってたからいいんだけどな」


かなりのゲーマーである直彦が新しく買ったゲームを積んだままにしているのはつらいものがあったのだろう。

やっと始められるとあって、直彦との顔はうきうきとしている。


「別に、いいけどな・・・」


疲れた顔で言う雪人。

直彦に避けられたと思っていたのはただの自意識過剰だったのかと落ち込んでいた。

そんな雪人の内心を読んだのか、直彦は唐突に謝った。


「ごめんな雪人、最近避けちまってて」


「……なんでお前が謝るんだよ」


自分の自意識過剰ではないのかと不思議そうな顔をする雪人。

それに対して直彦は真剣な顔をして言う。


「いや、オレがお前の顔見たらゲームの話しちまいそうでさ、だから避けてたんだ」


そのくだらない理由を聞いて、雪人は一気に脱力した。

そして改めて思うのだ、こいつはこういう奴なんだと。


「そんな理由で避けられてたのか、俺」


「いやだってよ、これめっちゃ面白いんだって。もしもお前と話したら絶対これの話しちまうぐらい面白いんだって」


やっぱりこいつはバカであほでゲーマーなのだと雪人は再認識した。


「ほー、どんなゲームなんだ?」


半ば投げやりにだがゲームについて雪人に聞かれて、直彦は嬉しそうに語り出した。


「まずなんていっても感覚が限りなく現実に近いことだな」


「んなもん今までもあっただろ? “VRで最も現実に近い感覚”とか謳い文句にしてるヤツ。

そんな大したもんじゃなかったが、味覚とか酷かったし」


「あああれな、味がベタ塗りな感じでなぁ~。

・・・だけど安心しろこれはあれとは違う。

マジで現実と変わらないんだ、いやアビリティを取れば現実より料理の味を深く感じられるって話だし、現実越えてるな」


「なんだアビリティって」


「まあ待て、アビリティの話はまた後だ、まずは他の話をさせてくれ。」


直彦がとても話したそうな顔をしたので、雪人は黙ってうなずいた。


「よし、まずは種族が5種類選べてな、種族ごとに外装のオプションが付けられる。

何よりも種族ごとの能力の上昇率に偏りがあるんだ、ヒューマンならプラスもマイナスもなくほぼ平均的に。ビーストなら力と素早さがプラス、賢さと器用さにマイナスって具合だ。

さらに16種の基本職から2つを選べるジョブ。これにもそれぞれ補正値が割り振られてるんだ。この3つを選ぶと能力の成長バランスが他とは違う、自分だけのアバターが出来上がるんだ。

人とかぶる事はめったにない。かぶっても成長させれば千差万別に変化する。どうだすごいだろう」


「なるほど、そりゃ確かにすごいな。どんなキャラでも作れるってことか。」


「そう! 戦う生産者、戦う料理人、前線で戦う魔法使い、まさになんでもござれってわけだ。

さっき話したアビリティの組み合わせを合わせればもうほんとに何だってできる。」


「そうか、でも一つ聞きたいんだが・・・」


「なんだ?」


「そのゲーム、なんて言うんだ?」


「あれ? 言ってなかったっけ? つうか知らない?」


「受験勉強中だったんだよ。」


「おお悪い悪い、よしそれじゃあ・・・パンパカパーン!!」


そう言って直彦が鞄からごそごそと何かを取り出す。

それはVRゲームの箱だった。


「これがLast Frontier Onlineだっ!!」


その箱にはLast Frontier Onlineと書かれていた。


「へーこれが」


箱を手にとってよく見る雪人、その横で直彦は二つ目(・・・)のLast Frontier Onlineの箱を取り出した。


「・・・なんで二つあるんだ?」


「ふふーん、それはお前のだぜ、雪人」


「え、いや、そんなもらえねえよ、高いだろ?」


「いーんだよ、バイトで稼いだ金だ、俺がどう使おうと俺の勝手だろ?」


「でもなぁ・・・」


「それに、俺はお前とゲームやりたかったんだよ」


「・・・」


どうしてこいつはこうもこっぱずかしいこと真顔で言えるのか。


「なっ?」


「わかったよ、でも金はちゃんと返す、それぐらいの貯金はあるからな」


「おお、そうしてくれると助かるぜ、今ちょっと金欠でな。でもその前に、早速やろうぜ。

俺のは持ってきたからよ。」


そう言ってVR装置をバックから取り出してみせる直彦。それを見て雪人は苦笑した。


「しかたねーなぁ。いっちょやるか!」


雪人も部屋に転がっていた自分のVR装置を手に取った。



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