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世界が答えを求めた日。私は、語らなかった。  作者: 冴統 亜弥惟智


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第7話:記憶の声

夜。

研究室に、みことは一人残っている。

電灯は半分だけ点いている。

蛍光灯の白が、途中で途切れ、影が濃い。

外では車が走る音。

遠くで救急車。

音はあるのに、室内だけが少し遠い。

モニターに向き直る。

東の水位は、まだ上がっている。

地殻圧の矢印は、東へ向かって揃っている。

偶然の偏り。

そのはずだった。

みことは数列を並べ替える。

重ねる。

ノイズを削る。

ある瞬間。

複数の波形が、ぴたりと一致する。

揃いすぎている。

自然のばらつきではない。

みことの指が止まる。

一致。

その言葉に、父の横顔が重なる。

あの人は、答えよりも「理由」を気にする人だった。

その瞬間。

頭の奥が、じわりと熱くなる。

キィン、と高い音。

耳鳴り。

だが、室内に音源はない。

「……」

遠い声。

誰の声か分からない。

自分の内側でも、外でもない。

視界が白く弾ける。

高台。

海を見下ろす塔。

空は青ではなく、白い。

都市が広がっている。

同じ高さの建物。

整いすぎた道路。

生活音が少ない。

完成した文明。

塔の中心。

巨大な円環装置。

内部で光が脈打っている。

みことの中で何かが繋がる。

これは、観測ではない。

ただ測り、記録する仕組みではない。

均衡式。

世界全体のエネルギーを均すための式。

どこかが過剰になれば、

どこかが引き受け収束先となる。

収束先は偶然では決まらない。

計算で導かれる。

収束先=被害を引き受ける場所。

偏りが限界に達すれば、

式は“そこ”を示す。

みことはそれを疑わない。

それは理論を学んだ感覚ではない。

知っていた感覚だ。

ルシェル。

その名が自然に浮かぶ。

彼女は均衡式を管理していた。

均衡式が導き出した収束先を選択する立場。

均衡式は公開されない。

国家にも共有されない。

“一人だけが知る”。

それが制度だった。

共有すれば、次の“選択者”が生まれるから。

光が強くなる。

都市が静かに沈む。

音がない。

白。

はっと、戻る。

研究室。

蛍光灯。

夜。

みことは椅子を強く握っている。

指先が冷たい。

画面の数字が並んでいる。

その並びは、

さっき見た光の脈動と同じ規則を持っている。

みことは、ゆっくり息を吐く。

これは推論ではない。

思考でもない。

思い出したのだ。

自分が、あの場にいたことを。

そして。

均衡式が示すものを。

東の赤が、さらに濃くなる。

偏りが臨界に近づいている。

もし均衡式が完成すれば。

収束先は、決まる。

みことの喉が、ひどく乾く。

それは未来の予測ではない。

かつて、経験した構造だった。

画面の数字が、静かに並ぶ。

まるで。

もう答えを知っているみたいに。

研究室は静まり返っている。

みことは、動けない。

記憶が、完全に戻ったわけではない。

だが。

構造だけは、はっきりと掴んでいる。

そして、その構造が。

今、現代で再び動きはじめていることを。

みことは、理解してしまった。


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