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世界が答えを求めた日。私は、語らなかった。  作者: 冴統 亜弥惟智


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第4話:東の異変

数週間後。

最初は、小さな速報だった。

《東日本沿岸部で潮位上昇を観測》

研究室の誰もが、最初は軽く受け取った。

余震の影響。

地殻の調整。

想定内。

だが。

遅い。

あまりにも、遅い。

地震の直後ではない。

数週間後。

“後から来る”。

それが、嫌だった。

みこと「津波警報は?」

千里「出てない」

紗奈「引き波も観測されてない」

神代がモニターを拡大する。

神代「これは津波じゃない」

壁に映る映像。

港の防潮壁。

そこに刻まれた水位線。

その線が。

ゆっくりと。

ゆっくりと。

上がっている。

潮位計の数字。

1cm。

3cm。

7cm。

増える。

止まらない。

みこと「……上昇速度、一定です」

神代「波じゃないな」

千里「高潮でもない」

紗奈「気圧は安定」

仮説。

検証。

否定。

また仮説。

どれも決め手がない。

原因不明。

分からないことが、恐怖を膨らませる。

数字だけが確実。

9cm。

12cm。

15cm。

「いつか止まる」

その言葉が、少しずつ削られていく。

みことの胸が重くなる。

父は東沿岸勤務。

インフラ保守の現場責任者。

まだ、繋がる。

そう思い、電話をかける。

呼び出し音。

一回。

二回。

三回。

父「もしもし」

声は落ち着いている。

みこと「水位、見てる?」

父「騒ぎすぎだ」

背後で金属がぶつかる音。

怖いときに工具箱を開ける、父の癖だ。

みことは、その癖を知っている。

父「潮は上がるもんだ」

だが。

背後でサイレンが鳴る。

遠くない。

近い。

父「避難指示は出てる」

みことの指が冷える。

父「だが大丈夫だ。俺は助ける側だ」

短い沈黙。

雑音。

怒鳴り声。

走る足音。

父の声だけが、平常を装っている。

父「心配するな」

通信が少し揺れる。

みこと「無理しないで」

父「お前は数字を見てろ」

ぶつり。

通話終了。

研究室に戻る。

潮位計。

23cm。

28cm。

止まらない。

神代「広域データ出せ」

マップが表示される。

東の沿岸線だけが、じわじわと色を変える。

西は、静かだ。

みことは画面を睨む。

偏り。

分布が不自然だ。

エネルギーの抜け方が、片側に集中している。

“どこかが失っている”。

その感覚。

東だけが、何かを失っている。

千里「……なんで東だけ」

責める声ではない。

ただ、疑問。

だがその問いが、研究室の空気を重くする。

数字が増える。

35cm。

41cm。

47cm。

現実が、固くなる。

みことの手が震える。

胸の奥に、嫌な既視感。

まだ思い出せない。

だが。

この偏りは。

偶然にしては、整いすぎている。

東だけが。

選ばれているように見える。

その瞬間。

背筋が、冷えた。

——何かが、始まっている。


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