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なろラジ7参加作品

きみとの距離を縮めるため、僕は自転車を作った(ザウアーブロン男爵の場合)

「もっとゆっくりお会いしたいです」


 久々に会ったレナ嬢は、悲し気に顔を伏せた。


「す、すみません。森の見回りが忙しく、時間が取れなくて。つい先日の嵐でも何本も木が倒れ、川に岩も流され──」

「……それは、貴方(あなた)様のお仕事なので承知しておりますけども……」


 僕の職業は森林管理官。行政役人だ。

 木材として大切な木がとれる森林を管理し、育成計画を立て、伐採本数を記録する。

 書類を作成して上層部に提出するのも面倒だが、一番大変なのが移動。


 町や畑を作るために大森林が切り開かれ、結果、あちこちに森が点在する形になってしまった。

 何十(キロ)も離れた森と森とを移動し、確認し、そんなことをやっていると、あっという間に時間も月日も経ってしまう。


 おかげで恋人のレナ嬢とは滅多に会えず、彼女に不自由を強いている。このままでは破局を迎えないかと心配だ。


(くうっ、僕の代で男爵家が断絶したら、この仕事のせいだぞ)


 "馬で移動すれば良い"と言う人も多いが、僕は馬が苦手だ。

 かといって悪路が多く、馬車だと小回りが利かない。

 従って移動は徒歩が多くなる。


(作るか……! 移動に適した何かを……!)


 そう、上役に汚い文字を責められ、タイプライターだって開発したんだ。移動器具くらい、こう、車輪を応用して、どうにか──。



 こうして僕は二つの車輪を(つな)ぎ、(またが)って、足で地を蹴って進む自転車(ラウフマシーネ)を発明するに至った。


(よし! これでレナ嬢に会える時間が大幅に増えた。これなら彼女だって──)

 

「不満です」

「え゛っ」

「たまにしかお会い出来ません」

「ええ……」


 (なん)てことだ。まだ駄目らしい。

 それなら。


「では結婚しますか? 一緒に住めば、毎日会うことが出来ます」


 覚悟を決めて、僕が言うと。


「はい」


 世界一美しく、レナ嬢が微笑んだ。


「ずっとそのお言葉を待っていました。なのに、カール様ってば道具まで発明なさって。すごいと尊敬申し上げますが、(ニブ)い、とも感じました」


 嬉しそうに笑う彼女の頬を涙が伝い、宝石よりも(まぶ)しく煌めく。


「え、え、本当に? 受けていただけるのですか?」


 僕の問いかけに、レナ嬢はもう一度大きく頷いたのだった。





「では自転車の開発秘話を聞かせてください」

「それは勿論(もちろん)、恋人に捨てられそうになったから──、んんっ」


 新聞の取材に、僕は咳払いをする。


「僕は馬が苦手で、森林間の移動が大変だったので」


 自転車は、森林管理官カール・フォン・ドライスが移動のために作ったと、後世に伝えられている。




 お読みいただき有り難うございました!

 なろラジ3作目はキーワード『自転車』で書きました。自転車と聞いた時から、もう森林管理官カールのエピソードで書きたくて!(笑)


 ドイツのカール・フォン・ドライスが作ったドライジーネ(作中ではドイツ語のラウフ(走る)マシーネ(機械))はキックボードの原型のようなものだったみたいです。

 人類が車輪を発明してから5000年、二輪走行で直接人が乗る構想はレオナルド・ダ・ヴィンチ以降は、彼だったとか。

 ちなみにカール・フォン・ドライスはタイプライターとか、楽譜タイプライターだとか、ひき肉器だとか、いろいろ発明する方だったようです。すごい✧(๑0ω0๑)

 なお、お話のレナ部分は創作です。本では馬の世話が苦手で、森林間を移動するために開発したとありました(;´∀`) カールぅ……。


※カール・フリードリヒ・クリスティアン・ルートヴィヒ・フライヘア・ドライス・フォン・ザウアーブロン(1785-1851) カール・フォン・ドライスで知られてますが、爵位はザウアーブロン男爵。1848年(三月革命)に貴族の称号ほか諸々の権利を捨てたそうです。

────

参考文献:

『めんどくさい図鑑』小学館,2023年

『身近すぎて気づかない、偉大な発明図鑑』日経ナショナルジオグラフィック,2024年

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― 新着の感想 ―
あ、これは知らなかったですね。発明秘話とか、大好きなのに(^.^; 史実+創作部分で1000文字というのは厳しい制約だと思いますが、お見事です。面白かったですよ(^o^)/
史実をもとにすごくかわいいほっこりエピソードを発明したんですね、みこと。様。 カールも脱帽でしょう。
すごく面白かったです! 必要は発明の母ですね。 史実を織り交ぜた、キュンとしてキレのある楽しいお話をありがとうございました^^
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