第5話 後宮を揺るがす陰謀と毒聖女の決断
麗華が後宮に来てから二週間が経った。後宮内の小規模な毒事件や奇病はすべて解決され、民衆の間では「毒聖女」の噂が広まっていた。
だが、その評判に目をつけた者たちが、今度はより大きな陰謀を仕掛けようとしていた。
「麗華様、奥様方の間で体調不良が続出しています!」
侍女が慌てて報告する。部屋を訪れると、側妃や女官たちが一斉に倒れており、症状は前回までの奇病とは異なる――強い発熱、呼吸困難、幻覚症状まで伴っている。
「……なるほど、今回は大規模な毒仕込みね」
私は淡々と現場を観察する。空気中に漂う微かな化学臭、使用された水や食事、香料まで細かく分析する。今回の毒は複雑な合成物で、複数の陰謀者が関与していることは明白だった。
私は手早く解毒薬を生成し、倒れた者たちに与える。数分後、呼吸は安定し、表情にも安堵が戻った。
「麗華様……命を……」
感謝の言葉を受けるが、私は軽く微笑むだけ。目的はあくまで毒と薬の解析だ。
その後、私は事件の全貌を推理する。
――密室や宴席、香料や水……あらゆる経路に仕掛けられた毒。後宮内の複数の勢力が連携している。誰か一人ではなく、皇帝周辺の一部の宦官や側妃も絡んでいる可能性がある。
分析の結果、毒の調合には特殊な技術が必要で、現代日本の毒物学でも解析は難しい。しかし、私の能力なら全成分を即座に見抜き、解毒可能だ。
事件解決後、皇帝が控え室に呼び寄せる。甘く落ち着いた声で言う。
「麗華……君の力は後宮に必要不可欠だ」
しかし私は毅然として答える。
「ありがとうございます。でも、私は研究のためにここにいるだけです。恋愛や情緒の問題には関わりません」
皇帝は少し戸惑った表情を見せるが、何も言わずに頷いた。
その夜、麗華は後宮内の毒ネットワークを整理し、事件の因果関係をすべて記録する。複雑に絡み合った陰謀の糸――それは、後宮全体を揺るがすほどの大規模なものだった。
――この後宮の闇を、すべて解き明かすまでは、一歩も引かない。
麗華の目は冷静に光る。毒と薬の真実を解き明かし、究極の解毒剤を完成させるまでは、後宮の誰も、麗華の手から逃れられない。
そして、遠く離れた陰で、陰謀者たちの計画は次の段階へと進み始めていた――。