第3話 謎の奇病と毒聖女の推理
麗華が後宮に来てから一週間。後宮の人々の間で、彼女の「毒聖女」としての評判は日に日に高まっていた。
しかし、次なる事件は毒ではなく、奇病として現れた。
「麗華様、大変です!」
侍女が駆け込む。案内されたのは、若い女官の一室。ベッドに横たわる女官は、顔色が蒼白で、体中に小さな紅い斑点が現れていた。呼吸は乱れ、明らかに命に関わる状態だ。
「症状を教えてください」
私は女官の脈と顔色、呼吸のリズムを観察する。症状は明らかに、ただの病気ではない。
「……これは、合成毒が混入した可能性があります。しかし、自然界の毒ではありません」
私は前世の知識と、新たな能力を組み合わせて推理する。現代日本で学んだ毒物学の知識が役に立つ場面が、こんなところで再び訪れるとは。
「侍女、この女官の食事や水の出所をすべて確認してください」
ほどなくして、問題の原因が判明した。女官の飲んだ水に、後宮の別の女官が密かに調合した未知の化学物質が混入されていたのだ。微量で人に症状を出す巧妙な毒。だが、私の能力なら即座に中和できる。
「落ち着いて。大丈夫です」
手早く解毒薬を調合し、女官に与える。数分後、赤い斑点は薄れ、呼吸も落ち着いた。女官はかすかに笑みを浮かべ、涙を流す。
「麗華様……命を救っていただいて……ありがとうございます!」
私は小さく微笑むだけだ。後宮で名声を得るつもりはない。私の目的は、毒と薬の真実を追求することだけ。
しかし、その直後、背後から低い声が響く。
「ふふ、麗華様は今日もやはり恐ろしいな」
振り向くと、昨日の宦官が、影のように立っていた。今回は茶会の時よりも不気味さが増している。
「あなたは一体……」
宦官は薄く笑みを浮かべる。
「後宮には私のような者が他にもいる。貴女の才能を侮ったわけではない。ただ……興味深い」
私は冷静に目を細める。興味深い? つまり、後宮の毒や陰謀のネットワークは、単なる一人の宦官ではなく、複数の者が関わっているということだ。
心の中で静かに決意する。
――この後宮の毒と陰謀を、徹底的に解析し尽くしてやる。
その夜、麗華は自身の研究室で資料を整理し、今回の事件の経緯を分析した。毒の成分、影響範囲、混入経路――全てを記録する。
そして、思った。
――未知の毒を作れる者は、この後宮に他にもいる。単なる事件では済まない――。
麗華の目は、冷静かつ鋭く光った。後宮の闇を暴き、究極の解毒剤を完成させるまでは、一歩も引かない。
そして、彼女の耳に微かに囁くような声が届く。
「麗華……君の力は、後宮に必要不可欠だ」
皇帝だ。甘く落ち着いた声で、またもや好意を示している。
しかし、麗華は心の中で一言だけつぶやく。
――恋愛など、研究の邪魔にしかならない。
こうして、後宮の小さな奇病事件も解決された。しかし、麗華の前には、さらに大きな陰謀が待ち受けていることを、彼女はまだ知らなかった――。