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Carmilla! 〜Crimson Lip Like Blood〜  作者: 隠埼一三
Episode Ⅰ 『彼女の唇は鮮血のように赤く』
5/14

1-5

 吸血鬼事件対策本部が発足してほどなく、オカルト研究部の面々は放課後すぐに街へと繰り出した。


 時刻は午後七時ちょうど。事件現場となった公園は森彼方駅からほど近く、恭介たちが住む撫蘭町からは電車で一駅の距離にある。


 日が暮れた駅前は、もうすぐクリスマスということもあってイルミネーションに彩られていた。夜にもかかわらず、人通りは多い。ロータリーでは仕事帰りのサラリーマンがバスを待ち、大学生くらいのカップルが駅前の明るい街並みに繰り出している。


 まるで吸血鬼事件など存在しないかのような風景だった。あるいは、知っていても「自分には関係ない」と割り切っているのかもしれない。いずれにせよ、街はいつも通りの顔をしていた。


 だが、恭介の目にはその「いつも通り」の中に、どこか不自然な違和感が映っていた。


 それは交番前に立つ警察官の様子だった。腹回りにやや貫禄のある中年の警官が、ただ立っているだけにしては鋭すぎる視線で、通行人をひとりずつ確認するように目を光らせている。


「……妙だな」

「何が?」

 

 隣にいた陽子が顔を上げ、問い返してくる。


「事件の影響だろうけど、警察、やけに警戒してるように見えないか?」

「……あ、言われてみれば」

 

 陽子も交番の方へ目を向けた。

 

「確かに。いつもならこんな時間、交番の前にお巡りさんいないもんね。警察も警戒してるんだ、きっと。また誰かが襲われるかもしれないって……」

「そんな馬鹿な」

 

 気のせいであってほしいと、恭介は思った。


 妹の興味本位につきあって街へ出たのに、本当に警察が動くような差し迫った状況なら、冗談では済まされない。犯人が本当に吸血鬼かどうかはともかく、警察が警戒態勢を敷いているという事実は、次の被害を想定しているからに他ならない。


 『好奇心は猫をも殺す』という言葉が脳裏をよぎる。深入りすれば、ただでは済まないかもしれない。


その時、不意に、サイレンを鳴らさずにパトランプだけを点灯させたパトカーが、ゆっくりと駅前通りを横切っていった。周囲に不安を与えないよう配慮しているのかもしれないが、その静けさがかえって不気味だった。


 恭介としては、できればこの場から足を洗いたかった。


「……まあ、いいじゃん」

 

 陽子が交番から視線を戻し、目を輝かせて言う。

 

「面白くなってきたじゃない! やっぱこの事件、ただの都市伝説的な噂の立つ何かじゃなかったんだよ!」


 その無邪気な瞳を見て、恭介は思わずため息をこぼした。


「……何が『面白く』だよ。陽子が襲われたって、俺は逃げるからな」

「お兄ちゃんってば、けっこう薄情だよね……」

「馬鹿言え。お前みたいに危ないとこばっか首突っ込む奴に振り回される俺の気にもなれよ」

「じゃあ、帰ればいいじゃん」

「ああ、そうさせてもらう――」

「えっ、恭介くん帰っちゃうの?」

 

 背後から聞き慣れた声が飛んできて、恭介はぎょっとして振り返った。


「やっほ~、お待たせぇ」


 そこには、くすんだピンクのキャミソールにモコモコとしたボレロを重ね、ミニ丈の白いチュールスカートとニットのレッグウォーマーを合わせた深憂が、軽く手を振って立っていた。


 恭介は一瞬、目を見開いて固まった。


 ハッキリ言って、深憂の私服センスはオシャレだ。

 ファッション誌とかSNSで見かける流行りをそのまま抜け出してきたみたいで、どこか近寄りがたい華やかさがある。

 普段、自分はといえば着る物に頓着もなく、安くて無難なやつを近所の量販店で選んで済ませているだけ。

 そんな庶民派な自分からすると、彼女の服装は完全に別世界だった。


「かっ、帰らないよ! むしろ喜んでついて行くさ!」


 あわてて両手を振って弁明する兄の姿に、陽子は呆れたように息をついた。


「……ほんと、お兄ちゃんってわかりやすいよね……」


     ◆


 駅前のバス停のある方向を抜けて、南へ。

 コンビニのある角を左へ、後藤と表札のある家を右へしばらく歩いていくとその公園は見えてくる。

 公園に到着するや否や、捜査と称した活動が始まった。

 陽子の意味不明な呪文と怪しげな道具による「魔術による現場検証」、深憂のスマホによる地味な調査、恭介はと言えば、ただ缶コーヒーを飲みながら通行人をぼーっと見ていた。

 

「やっぱり、吸血鬼の仕業に違いないよ……!!」

 

 陽子がベンチから立ち上がり、一体どこを見ているのだというくらいに空を仰いで拳を握る。それはもう理屈も糞も無いくらいの、決め付けの甚だしさである。

 そんな彼女に、ベンチ座って缶コーヒーを飲んでいた恭介が白い息を吐きながら呟いた。

 

「んなわけないだろ……」

 

 缶コーヒーを片手に、恭介が白い息を吐きながらぼそりと返す。

 確かに事件は不可解だった。目撃者なし、血痕もなし、被害者も行方不明のまま——。

 でも、それだけで「吸血鬼」と決めつけるには、陽子の理屈は雑すぎた。


「ねえお兄ちゃん、私の魔術、信じてないでしょ?」

「信じてない。オカルト部員だけど現実主義なんでな。魔術なんてある訳無いだろ、陽子のは色々と胡散臭いしな。それに犯人が安易に吸血鬼だってのも思ってない」

「むー……じゃあいいもん! 私が本物の吸血鬼をここに連れてきて、真相を証明してあげる!」


 そう言って、陽子は勢いよく踵を返すと、公園を駆け出していった。

 恭介はその背中を見送りながら、溜息交じりにぼやく。


「本当に吸血鬼だったら、戻ってくるころにはお前も吸血鬼だよ……」


 そんな二人のやり取りを、恭介に隣り合わせでベンチに座っていた深憂が微笑ましく目を細めて見ていた。くすりと笑みをこぼすと、口を開いた。

 

「私は恭介君と逆の意見で吸血鬼の仕業だと思ってるけどな。実際、証拠がないのは確かなんだけど」

「吸血鬼の仕業、ね」

 

 そう呟いて、恭介は缶コーヒーの残り一滴を飲み干すと言葉を続ける。

 

「何らかの証拠を見つけたとして、犯人が吸血鬼かは別として真相に辿り着いたら危ない目に合うような予感はするな」

「予感?」

「嫌な予感って奴かな。今ここに、吸血鬼事件の犯人が来てたりしてたら……ってね」

「ああ、犯人は現場に戻ってくるってやつだよね?」

「そうそう」

 

 恭介がゴミ箱に向かって空になったコーヒーの缶を投げた。

 放たれたそれは放物線を描いて目標に向かうが、ぎりぎりのところでゴミ箱の縁に当たって跳ねてしまった。狙いのはずれた缶は、地面に落ちてカラカラと音を鳴らした。

 

「それが本当に吸血鬼だったら……って思うとね、余計にそう考えてしまうよ。そんなことありえないとは思うけどさ」

「やっぱり、恭介君は吸血鬼の存在を信じることができない?」

 

 深憂が少し眉を寄せて言うのを背中に、缶を拾ってゴミ箱の中に入れる。そしてベンチに座り直すと、困ったような表情を深憂に向けた。


「うーん……今朝のホームルームでの話じゃないけどさ。吸血鬼は実在しますって言われて、はいそうですかって信じるのは簡単じゃないよ」

「なるほどね……」


 その返答に、深憂は唇に人差し指を当て、しばらく考える素振りを見せる。そして何かを思いついたのか、ぱっと明るい表情を浮かべて言った。


「じゃあ、私が吸血鬼のハーフだってこと、証明してあげる」

「え?」


 ぽかんとした恭介に、深憂はにこりと微笑む。


「吸血鬼の存在を信じてもらうには、まず私がそうだって示すのが一番だよね?」

「そ、そりゃ証拠があるなら信じるけど……」

「でしょ? だから、ちょっと協力してくれる?」

「協力って……何を?」


 問い返す恭介に、深憂は一瞬だけ視線を逸らし、頬をわずかに朱に染める。


「今、二人っきりだよね……?」

「ああ、陽子はあっちに行っちゃったし」

「周りにも誰もいない……よね?」


 恭介が視線を巡らせる。吸血鬼事件直後の夜の公園は人気がなく、ただ静寂だけが広がっていた。


(……一体何をする気なんだ?)


 深憂は吸血鬼らしい何かを見せるつもりなんだろうか。でも、そんなに恥ずかしがることって……?


「誰もいないよ」

「……よかった」


 深憂はほっと息をついたかと思うと、急に身体を寄せてきた。


「じゃあ、今からちょっとした実験をするするから……抵抗しないでね?」


 隣に座る恭介の胸元へ、ふわりと身を預けてくる。


「うわっ!?」


 思わず身体を引きそうになるが、それより先に、深憂の腕が背中に回され、ぎゅっと抱きつかれる。

 女性特有の柔らかな感触が、服越しに伝わってきて、恭介の頭が一瞬真っ白になる。


「動かないで……」


 低く囁かれたその声に、恭介の鼓動が跳ねる。


「……これくらいで、ドキドキしてるかな? ちゃんと反応してる?」

「い、いや、そりゃ……してないとは言えないけど……!」


 しどろもどろになる恭介に、深憂は首をかしげるようにしてじっと見つめてきた。


「んー……? ちょっと思ったより反応薄いなあ。もうちょっと刺激、いるかも……」

「へ?」


 間の抜けた声が漏れた次の瞬間──


 深憂はゆっくりと上体を起こすと、恭介の手を取った。ひんやりとした指先が絡んだかと思うと、そのままするりと、自分の胸元へと導いていく。


 恭介が慌てて手を引こうとした、その刹那だった。


 深憂の身体がふいにぐらりと傾く。思わず前のめりになった彼女を、咄嗟に支えようと恭介は手を伸ばした。


 その手が──


 見事に、彼女の胸元を捉えていた。


「——っ……!」


 柔らかく、温かい感触が、掌に広がる。まるで理性を試すようなその感触に、恭介の思考が一瞬で吹き飛んだ。

 何かを言いかけた口は開きっぱなしになり、顔はみるみる朱に染まっていく。


「……あ」


 鼻先を、つうっと温かい液体が伝う。


「ふふっ……よかった。やっぱ恭介くんは、こうじゃないと」


 深憂が唇にいたずらっぽい笑みを浮かべ、すっと顔を近づけた。そして、はむっと恭介の鼻を甘噛みする。

 舌のざらついた感触が、彼の鼻先を這い、伝った液体をぬぐいとっていく。唇と鼻の接触が解かれたあと、深憂はしてやったりと笑った。


「えへへ、ちょっとダメ押しだったけど……一応作戦通りかな? ほんと、恭介くんってそういうとこ、可愛いよね」


 恭介は思わず「やられた……」と内心でうめいた。


 悪戯が成功して満足げな彼女の表情。恥じらっていたかに見えたさっきの態度も、すべては──演技だったのか。


「……深憂さん、また俺をからかって……。本当は血が吸いたかったんじゃないか……」


 むすっと唇を尖らせる恭介に、深憂はぺろりと舌を出した。


「ごめん。でも、怒らないで。血を吸いたいって言っちゃったら、噛まないといけなくなるから」

「……それって。もしも深憂さんが正直に言って、俺が承諾したら……」


 言葉の続きを口にできなかった。脳裏に浮かんだのは、深憂が自分の首筋に顔を寄せ、牙を立ててくる光景。


 その意図を察したのか、深憂は小さく首を振った。


「私は、吸いたくなんてないから……」

「え?」

「だって、私には……吸血鬼の牙があるから。それを、恭介くんの首に立てるなんて、絶対にしたくない」


 その言葉に、恭介はぎょっとして深憂の顔を見る。彼女の唇の隙間からのぞいたのは、まるで獣のような鋭い犬歯─


「やっぱり……噛まれたら、吸血鬼になっちゃうのか……?」

「わかんない。試したことないし」

「深憂さんの思いこみ……とかじゃないかな? 確かに八重歯はちょっと鋭いけど、もし本物の吸血鬼だったら、今ごろ問答無用で噛まれてたはずだよ」

「……少なくともね。私の中に、吸血鬼の血が流れてるのは、本当だよ」


 深憂が真剣な表情になって、じっと恭介を見つめてくる。


「見て」

「何を……?」

「私の目。すぐにわかるから」


 促されるままに、恭介は彼女の瞳をのぞき込む。


 その瞬間──深憂の瞳が、淡い碧から、にじむようにほの赤く染まっていった。


「……これって……」


 恭介が思わず息を呑むと、深憂は小さく頷いた。


「人の血を舐めたとき、こうなるの。小さい頃、一度だけ、偶然ね。そのときに気づいたの。ああ、私には吸血鬼の血が混ざってるんだ、って」


 視線を外し、深憂は遠くを見るようにまぶたを伏せた。その表情はどこか怯えたようで、戸惑いと哀しみが混じっていた。


「それまでは、ずっと自分のことを普通の人間だと思ってた。血を吸いたいなんて思ったこともなかったし、日差しの中でも平気で暮らしてた。友達と笑って、何の疑いもなく生きてたのに」


「深憂さんが吸血鬼の血を持ってるってことは……もう、わかった。でも……どうしてハーフだって?」


 恭介の問いに、深憂はそっと口元に笑みを浮かべる。


「ママが人間だったからよ。私が舐めたのは、ママの血だったの。そしたら、瞳が赤く染まって……それを見てママ、静かに教えてくれたの。『それは、あなたがパパの血を引いてるからよ』って」


「じゃあ……お父さんが、吸血鬼だったってことか」


 深憂はわずかに目を細め、視線を夜空へと移した。街灯の光の届かぬ高みに、星のまたたきを探すように。


「うん……でも、私はパパのこと、知らないんだ。物心ついたときには、もう家にはいなかった。写真もないし、声も覚えてない。ただ……ママの話だと、フランス人の吸血鬼だったらしいの。私の髪の色や、牙みたいなこの八重歯も、きっとその血のせいなんだと思う」


 そう言って、彼女はアッシュブロンドの髪をかき上げた。月光の代わりに、街灯の下でわずかに光るその髪が、どこか異国の影を宿しているように思えた。


 深憂の赤い瞳が、そっと空から降りてくる。再び恭介を見つめ、真っ直ぐに言葉を紡いだ。


「だから、今回の事件……きっと、本物の吸血鬼が関わってると思ってる。もし犯人を追っていけば、行方知れずのパパに、会えるかもしれないって。……たとえ会えなくても、パパを知ってる人には、きっと……」


 そう言った彼女の瞳に、ふと寂しげな色が差す。笑っているはずなのに、どこか無理をしているように見えた。


 恭介は、その手をそっと握った。


「……大丈夫だよ」


 ただの興味本位じゃない。彼女は、家族を、そして自分の過去を追いかけている。その思いの強さに、恭介は気づいていた。


 静かに、その手を胸の高さまで持ち上げる。


 真剣な目で、言葉を告げた。


「俺も、この事件の調査に協力するよ。……最初は正直、気乗りしてなかったけど。今はもう、やるしかないって思ってる。深憂さんの話、聞いたらさ……やらないわけにはいかないだろ」


 言い終えたとき、深憂の瞳がわずかに揺れた。


「恭介君……」


 小さくつぶやいた声は、驚きと、ほんの少しの安堵を含んでいた。


 恭介の手を、深憂がぎゅっと握り返す。


 紅に染まっていた彼女の瞳が、ふわりと血の気を引かせながら、再び穏やかな碧眼へと戻っていった。


「……それじゃ。お礼、しなくちゃね」


 静かに、でもどこか決意のこもった声で、深憂はそう言った。


「え? いや、そんなのは別に──」


 言い終わる前に、深憂がそっと身を乗り出してきた。

 そして、まるで迷いなど一切なかったかのように、彼女の唇が恭介の唇に触れた。


 ほんのり熱を帯びた、やわらかな感触。

 そして口内に微かに広がる、あの独特な味──鉄分。

 彼女が舐め取った、さっきの鼻血の名残だ。


 甘さと苦さと、そして温もり。

 その全てが混ざり合って、恭介の頭の中は真っ白になった。


 ──まるで、唇の色までもが血の味を帯びているかのように。


 深憂の唇は、まさに鮮血のように赤く、鮮やかだった。


 離れたくない、と思ったその矢先。

 深憂はそっと身体を引いて、唇の距離をあけた。


「ねぇ、恭介君」

「……ん?」

「血、吸っていい?」

「ええっ!?」


 唐突な一言に恭介の全身がこわばる。

 だが、深憂はくすっと笑って小さく首を振った。


「冗談だよ」

「……ま、まったく。冗談になってないから」


 ついさっき、自分の唇に本物の血の味を乗せてキスしてきた相手だけに、その冗談には妙なリアリティがあった。

 恭介はまだ残る唇の熱にそっと指をあてる。

 あの唇──目に焼きついて離れない。まるで、記憶の奥に染み込んでいくように。


「ちっ、血を吸われるのはちょっと勘弁だけど……。も、もう一回、キスなら──」

「見~~~~た~~~~ぞ~~~!!」

「ぎゃああああっ!?」


 突然の絶叫に、恭介はベンチから飛びのいた。


 背後にいたのは、妹・陽子。ベンチの背もたれの向こうから顔を出し、じと目をこちらに向けている。頬はぷくりと膨らみ、唇はしっかりとぶりぶりとした「3」の形。


「よ、陽子っ!? いつからそこに!?」

「私がちょっと目を離した隙に、何だよ! ベンチでいちゃついて、しかもキスとか! キスとかぁあああ!!  ……隠れてするなら、せめて車の中にしろー!!」

「国民的バンドの曲タイトルかよ!?」


 言うが早いか、恭介は猛ダッシュでその場を離れた。陽子が鬼の形相でそれを追いかける。


「このスケコマシぃぃいいい!! お兄ちゃんとしてあるまじきぃぃぃ!!」


 その様子を見送りながら、深憂はくすりと笑った。

 夜風に揺れるアッシュブロンドの髪の奥、彼女の唇はまだ、かすかに紅を残している。


 ──まるで、本当に鮮血をまとったかのように。


 事件の手がかりは何ひとつ得られなかったが、恭介にとっては忘れられない一夜になった。

 深憂の秘密に触れたこともそう。

 そして──彼女の唇に触れたことも。


(……変なこと言っちゃったけど、まあ、なんとかなるだろ。ほんとに吸血鬼だったら……その時はその時だ)


 妹に追いかけ回されながらも、恭介はどこか浮ついた幸福感に包まれていた。

 このときの彼は、まさかこの先──

 自分たちがとんでもない事件に巻き込まれることになるなど、夢にも思っていなかった。

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