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第3話 カッコつけて言うなら

 気が付くと、俺は目を閉じたまま石畳のような地面に突っ立っていた。


 ゆっくり目を開けると、慣れない空気の匂いと共に、未知の風景が飛び込んでくる。

 青い空。

 白い雲。

 どこまでも広がる、幻想的な中世ファンタジー風の――、


「……あれ? なんか思ってたのと違うな」


 正しくは、灰色の雲に覆われた真っ暗な夜。

 生暖かい風に、星一つ見えないどんよりとした霧の中。


 今俺がいるのは、倒壊した西洋風の家屋がぼんやりと並ぶ、埃塗れの寂れた街並み。

 ……要するに廃墟だ。


「スタート地点が廃墟ってどうなんだ?」


 そう思ったが、霧の向こうに人影が見えた。

 どうやら人は住んでいるらしい。

 前屈みになっているので年寄りだろうか?


 あれかな。

 若者がいなくなった街で老人だけが残っているとか、そんなお約束だろうか。


「すみませーん!」


 ひとまず声をかけてみよう。


 そう思って呼びかけるが、人間の反応は返って来なかった。

 代わりに、霧の中に居た人影はこちらを振り向き、うめき声をあげながら目が合った。


「うぼぁ」

「ぐるるるるる」


 どうやら人間じゃなくてゾンビだったようだ。

 なるほどね。前屈みなのはゾンビだからか。


 しかもいっぱいいるな。

 どうりでさっきから腐臭がするわけだ。あははははは。


 ……よし、逃げよう。


「…………あ、どうもすんませんした」


 俺は軽く会釈すると、回れ右をして全速力で駆けだした。

 それはもう必死で。きっとアニメの走るシーンを元にしたネタ動画よりも全力で走っていると思う。


「うおおおおお!!」


 振り向くな!

 走れ俺!! 生存を勝ち取りたい!

 後ろからゾンビ達が追って来る気配があるが、たぶん気のせいだ!!

 だから振り向くな!!


 ……でもやっぱり気になるので少しだけ振りむいちゃう。

 そしたら目と鼻の先にゾンビの顔があった。


「ぎゃあああああああああああ!?」


 追って来る肉塊たち。泣き叫ぶ俺。

 すっ転んでのたうち回り回ってさあ今する俺。ちょっとだけ待ってくれる肉塊。

 立ち上がってお礼を言う俺。いやいや怪我がないならそれでいいんだよとばかりに手を振る肉塊。

 そうして歩き出す俺を、もう一度鬼の形相で追って来る。

 なあなあで見逃してくれなかった。


「女神様ァァァァァァ! なんて危険な場所に飛ばしてくれちゃってんですか女神様ァァァァァァ!?」


 俺は陸上選手のように猛ダッシュしてくるゾンビの大軍に追われながら。

 ただひたすら全速力で泣き叫んでいた。


 状況を整理しよう。


 俺は授業中トイレに行ったら、勇者召喚からハブられた。

 そしたら、俺と言う特別で才能あふれる存在がハブられるのは世界の損失だと気づいた女神様がやって来て。

 男らしくたくましい俺の肉体に頬を染めつつ、是非とも貴方様の手で世界を救って欲しいですうっふんあっはんと、勇者召喚とは別のルートで異世界へ送られる事になった。


 だいたいこんな感じだったはず。


 やがて俺はチート能力に目覚め、美少女たちからチヤホヤされながら、また俺何かやっちゃいました?と言わんばかりに片手間で無双する予定だ。

 カッコつけて言うなら『勇者召喚からハブられた俺は、女神様の特典で異世界を生き抜く』ってところか。


 うん。なんだかネット小説っぽい。


 とにかく勇者としての恩恵を得られなかった俺は、女神様からの転移特典(何かの布?)を貰い、魔法陣の光に包まれて異世界へと旅立った。


 そこまでは良い。


 だが、目を開けてみると。スタート地点は辺り一面の廃墟。

 しかもそこら中をゾンビが徘徊していたようで、俺は血気盛んに昂る闘争心を抑え、まずは撤退して様子を見る事にした。


「無理無理無理! ステータスオール一桁で勝てる訳ねーだろ!! あんなゾンビの大軍と戦ってられるか! ここは何が何でもガン逃げしてやる!! 俺は絶対に戦わねぇ!!」


 まずは撤退して様子を見る事にした。


 ていうか本物のゾンビってすごくグロイな。

 街の人だと思って声をかけたら、腐り落ちた顔面で振り返って来た時の衝撃は忘れない。


「そもそも何でゾンビが猛ダッシュで追いかけてくるんだよ!? フィクションだともっとゆっくり這うように追って来るだろうが! しかも無駄にフォームが綺麗!」


 しかし何だろうか。

 亡者が生者を襲いに来ると言うよりは、まるでそっちに逃げるのは許さんと言わんばかりの追いかけ方っていうか。

 まるでこっちに逃げて欲しくないかのような……。


「――あ! あそこに逃げ込もう!」


 とにかく考えるのは後回しだ。

 俺はまだかろうじて形の残っていた建物に飛び込むと、扉を閉めてかんぬきをかける。


「ぎゃーーー!?」


 一拍遅れて背中越しに何かがぶつかってくる衝撃が畳みかけてくるが、しばらく耐えていると収まった。

 と思ったら最後にもう一回ドシンとぶつかってきて漏らしそうになった。今度こそ静かになった。


 ……どうやら助かったらしい。


「……ゼェ……ゼェ……」


 ひんやりとした空気に包まれて。

 汁まみれになった顔面を抑えながら、俺はズルズルとその場に腰を落とす。


 怖かった……。どれくらい怖かったかと言うと、以前学校のトイレで隠れてゲームをしていたら、天井から37歳独身ロリ顔女教師が笑顔で覗き込んでくるくらい……いや、この話はやめとこう。


「どうすっかな……一応静かになったとは言え、外にはまだゾンビがウヨウヨいるはずだよなぁ」


 俺は制服のズボンから、半透明のカードを取り出す。


 ステータスカード。


 ゲームのステータス画面のように、俺の能力がRPG風に記されているが、肝心のステータスは貧弱で、クラスは無職。

 覚えているスキルと言えば初期スキルとして追加された【言語理解:EX】だけで、この状況を打破できるようなものは何もない。


「ゾンビに言葉が通じるならワンチャンあったけど、うめき声だけでまったく喋らないし……」


 転んだ俺を待ってくれたので理性はあるかもと思ったが、あれはギャグシーンなので参考にならないだろう。

 あと残っているのは、電波が通じないスマホと先生の脅迫じょ……花柄のメモ、あとはこの世界に来る前に女神様から貰った……。


「――そうだ! 転移特典があった!」


 俺は転移前に制服のズボンのポケットに収まった謎のアイテムを取り出す。

 これは特典を決めきれなかった俺が、女神様に選んでもらった物だ。

 確かエッチな特典という話だったが、ひょっとするとこの状況を打破するための効果があるかもしれない。


 俺は藁にも縋る思いでズボンから取り出した純白の布地を広げて――!


「なんだこれ」


 試しに頭から被ってみた。そして深呼吸をしてみる。すーはー。

 嗚呼、空気が美味である。変態の呼吸。壱ノ型。性癖歴一閃。


 ……転移特典は女神様のパンツだった。


 それを頭に被った俺は、変態に変態して大変態変。

 ほんのり温かいので、たぶん脱ぎたてだと思う。やったぜ。


「じゃねぇよ!? パンツ一枚でこの状況をどうしろってんだ!?」


 俺は変態を解除した。

 女神様のパンツはいかにも清楚なお嬢様が履きそうな感じの気品あるパンツであり、心なしか真っ白に輝いているようにも見える。えっちだ。

 俺はそれを丁重に折り畳んでズボンのポケットにしまいつつ、頭を抱えて絶望した。


 ……詰んだ。

 何のチートも無しでゾンビに囲まれた廃墟でスタートとかマジ終わった。

 誰だよその場の勢いでエッチな特典にしろとかアホな事言ったの。

 俺だよ。


 だが悔いはない。

 俺のモットーは『明日を笑顔でいるために』だ。エッチな特典を選ばずして明日を笑顔で迎えられるであろうか。

 ……まあ、明日どころか今日を生き残れるかすら分かんないんだけどね!

 マジでこっからどうしよう。


「……それにしてもこの建物……」


 咄嗟に飛び込んだので気づかなかったが、ここは他の建物とは雰囲気が違う気がする。

 重厚な造りで、内と外からの出入りを極力制限しているような。

 例えるならまるで――。


『そこに誰かいるのか?』


 俺が考え込んでいると、何やらくぐもった低い声が辺りに響き渡った。


「――! まさか生存者!?」


 思わず俺は飛び上がる。そして天井に頭をぶつけて泣いた。

 さっと周囲を確認するが、薄暗くて明かりがないため、どこにいるかは分からない。


 しかし、間違いなく誰かの声が聞こえた。


 あれは静かな声だが、力強い武人のような口調だった。

 もしかすると冒険者的な、戦闘経験のある人かもしれない。


『聖なる力を感じて久方ぶりに目を覚ましてみれば、こんな廃墟に御客人とは……』


 その声の主はゆっくりとこちらに歩み寄る――事はなく。


 何故かずっと、同じ位置から動かない様子だった。

 俺は首を傾げる。


「……えっと、そこに誰かいるんですよね?」


 俺が尋ねると。


『……うむ。その……すまない。実はちょっと諸事情で動けない状況なんだ。申し訳ないが、こちらに来て私を起こしてくれないだろうか?』


 声の主は、何やら歯切れが悪い話し方だった。


 なんだろう。ちょっと嫌な予感がする。


「いいですけど……暗くて足元が見えないんで、腕とか踏んじゃうかもしれませんよ?」

『ん、大丈夫だ。腕なんて無いからな』


 ……どうしてだろう。なんか嫌な予感がする。


「すんません、なんかどれだけ地面をまさぐっても倒れてる身体が見つからないんですが」

『問題ない。身体なんて無いからな。――ん、もう少し右の方だ』


 ――どうしよう。かなり嫌な予感がする!


 腕がない!? 身体がない!?

 なのに人間の言葉をしゃべってる。怪しい事この上ない!

 この声の主は、本当に人間なのか!?

 近づいても良いタイプのやつなのか?


 いやでも、この状況をどうにかするには、この人(?)に頼るしかない訳で……。


 俺は恐る恐る地面を調べてゆき……やがて、コツンと硬いものに指先が触れた。


『……うむ。見つけてくれたか。それでは悪いがこう……どうか怖がらずに、私の頭をひょいっと起こしてほしいのだが……』


 暗闇の中で目が合った。


 その声の主は、錆びついたフルフェイスの兜に覆われており。

 首から下は、黒い炎のようなものが小さく揺れている。それだけ。


 端的に言うと、頭以外何もない、どこからどう見ても生首だった。


「…………」

『……どうも。デュラハンです』


 俺はそっと生首を起こしてその場に立たせると。


 無言でじりじりと距離を取って、座りながら命乞いの姿勢をとった。






【本日の更新(3/4)】

 後書きで話す事もなくなってきたので、そろそろ作者はお口チャックします。

 たまに何かほざく時もありますが、気にしないでください。


 あと下に意味不明の☆☆☆☆☆がありますが、べっ、別に全部押したうえでブクマや応援のコメントが欲しいだなんて思ってないんだからねっ!

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