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第7話 異世界おパンツ無双




 異世界おパンツ無双は10秒で終了した。





 今からそれを振り返ろうと思う。


「ほあちゃああああああ!!」


 俺はパンツをヌンチャクのように振り回す。

 するとパンツは、手のひらからスポーンと飛び抜けてどっか行った。


「あ゛」


 以上。回想終わり。やっぱり俺はバカでした。


 ……と、思ったが、逆にそれが良い方向に働いた。


 天はまだ俺を見放していなかったのか、飛び抜けたパンツは俺に攻撃しようと背後にいたゾンビに当たり、上手い事浄化してくれた。

 しかも死角からの一撃だったので、ポカやらなければ逆に死んでいた。


 あっっぶね!?


「……チャンス!」


 俺は自由落下するパンツを空中でキャッチし、すぐさま体制を立て直す。

 異世界おパンツ無双の再開だ。


 そして、そのまま周囲を取り囲むゾンビの一体へ浴びせかけた。


「!?」


 それに反応して鎧姿のゾンビが盾を構えるような動きをするが、急ごしらえで作られたアンデッドだったからか、その左腕には何も装備されていない。

 いいぞ! なんだか運が向いて来ている!


「みっつ!」


 俺のカウントと共にまた一人ゾンビの浄化に成功できた。


 どうやらコイツ等は指揮者であるジャックの命令が無ければ、生前に染み付いた動きをとるだけらしい。

 ここの死体は大半が騎士等の前衛職だったようで、風化して碌な装備がない状態では満足に戦えないと思われる。

 そして魔法使い職も、こちらから接近しなければ大きな魔法は打ってこない。

 これならいけるかもしれない。


「ブランさん! ボーッとしてないで援護頼む! このままジャックも浄化するぞ!」

「……! あ、ああ……」


 俺の言葉に我に返ったブランさんは、再び錆びた両手剣を構えるが……、


「……くっ」


 やはり身体が上手く動かせないのか、多量の汗を浮かべながらぎこちない動きで俺の前に立つ。

 どうやらアンデッド化の弊害以上に、ジャックの支配(テイム)に抗うので精いっぱいらしい。

 それでも身体全体を盾にして、俺の行く手を阻むゾンビたちをこじ開けてくれる。


「…………ふぅん、なるほどねぇ」


 そんな俺たちを見て、ジャックは何かを悟ったかのように口角を上げた。


「食らえジャック! 女神様のおパンツビンタで昇天しやがれぇぇぇぇぇぇ!!」


 俺はゾンビたちが怯んだ隙間をぬって、ジャックの元へと詰め寄った。

 そして奴の頭上へ純白の布地を叩きつける。


 ……だが、


「……それで? 低級のアンデッドならいざ知らず。魔王軍幹部だったこの僕を、女神の残り滓ごときの力で浄化できると思ったかい?」

「げ……」


 異世界おパンツ無双は10秒で終了した。

 完全ノーダメージって訳でも無さそうだが、いずれにせよ致命打でないのは明らかだった。

 パンツを叩きつけられたジャックは、不快そうに俺の襟首を掴みあげ、


「うわっ!?」


 ぐわん、と視界が揺らいで俺の身体が持ち上げられた。

 そのまま目と鼻の先にジャックの黒杖が銃口のように突きつけられる。


「それにしても強力な武器を手にした途端、分かりやすくイキッちゃってまぁ……。来世では『イキリパンツ太郎』に改名しなよ」

「ざけんなよお前! 俺だって好きでパンツでイキってる訳じゃねぇんだよ!」


 しかもちょっとしっくり来る渾名なのがムカつく。


「きしし。じゃあね」


 ……ヤバっ!?


「――ハァッ!!」

「!」


 ズドン!!


 ブランさんのタックルがジャックを襲い、後方へ勢いよく突き飛ばす。

 そのまま投げだされた俺を、地面へ激突する寸前にキャッチしてくれた。

 ふわりと彼女の白髪が宙に舞う。


「大丈夫か、クロエ君」

「な、なんとか……」


 やだ、イケメン……乙女になっちゃう。

 うふん。


「クロエ君……なんだか気持ち悪いぞ」


 そのまま少女漫画みたいな顔になった俺にドン引きしながら、地面へ降ろそうとする。

 ……よりも先に、


「――《最上級・即死魔法(ハデス・レクイエム)》」


 突き飛ばされたはずのジャックが、何食わぬ顔で魔法を放った。


「「!?」」


 杖の先から悪霊のような煙が出現し、不気味な音楽を奏でながら俺たちを取り囲むように群がって来る。

 心なしか、ケタケタと嗤ってるみたいだ。

 

「また即死魔法かよ! それもさっきより強そうじゃねぇか!!」


 ていうかこんな閉鎖された地下室じゃ避けられねぇ!


 恐らく、この煙を吸い込んだ瞬間に即死するタイプの魔法なんだろう。

 視界を埋め尽くすほどの煙量を前に、刻一刻と迫る“死”に対して震えが止まらなくなる。

 この煙自体が冷たいのもあるな。トイレ行きたい。


 ていうか考えろ俺!

 どうやったらこのピンチを切り抜けられる!?

 そもそも即死魔法を切り抜けたとしても、大量のゾンビに、倒す手段の見つからない魔王軍の幹部。こいつらを何とかしなきゃいけない。


 どうやったらここから逃げられる?

 俺には魔法どころかパンツしか攻撃手段はなく、ブランさんは剣を振るのも難しい位に弱体化してるらしい。

 それに反してジャックが蘇らせたゾンビたちは、物理と魔法の揃ったバランスの良い構成なのがより絶望的――


 ――いや、まてよ?


「ブランさん! ここのアンデッドたちってもしかしなくても生前の知り合いだよな!? この中に爆発系の魔法を使う奴はいるか!?」

「――! ああ、あそこにいる彼女が……ッ、そうか!!」


 俺の意図を察したのか、ブランさんは砕けた兜の破片を拾い上げる。


 ゾンビたちはジャックの命令がない場合、生前に染みついた動きをとる。

 つまり、それを利用すれば狙った行動を誘発できる訳で……!


「……貴女は目が悪く、高速で飛来する物体を見る度に、虫だと騒いで魔法を暴発させていたな……」

「そ、そんな物騒な人がいたのか……」


 ブランさんは兜の破片を投擲し、それを見た魔術師風のゾンビは怯えるような仕草で杖を構える。


「――何を……」


 ――カッ!!


 ジャックの言葉よりも速く、暴発した爆発魔法が、即死魔法の煙をかき消しながら、俺たちを大きく吹き飛ばした!!


 ……そう。

 避けきれない程の煙なら、魔法で爆発させて吹き飛ばせばよかったのだ。

 でもこれ室内で撃ったからか、想像以上に威力高くて爆風で死にそあわわわ。


「おわぁぁぁぁぁ!?」

「……!」

「やってくれるねぇ……はっ」


 三者三様の声を上げる中。

 俺は思わず目をつむって、ブランさんに抱きかかえられたまま、情けない声をあげて拭き飛ばされた。

 何やら冷たい空気が頬を撫でるような感覚がしたが、すぐさま熱風に変わってそのまま地面をぶべべべべべべ!?


「――! しめた、出口の方に飛んだか。……クロエ君。確かにこの場所では不利のようだ。貴方の言った通り、ひとまず撤退しよう。……クロエ君?」


 泡を吹いて目を回す俺の顔に、ブランさんはそっと右手を被せると。


「てい」

「ぐえっ」

「よし、生きてるな。良かった」

「生命確認が雑!!」


 こめかみに受けたアイアンクローの痛みに耐えながら。

 俺はブランさんに再度抱きかかえられた状態で、その場を後にした――。





「……きしし。今の即死魔法。爆風に乗じてこっそりもう一発放ったけど、あの少年には効かなかった。最初の状態異常を無効化した時と言い、あの下着にはまだカラクリがあるみたいだねぇ」







■□



「ぎゃああああ!! 追って来てる! めっちゃ統率とれてる! いくら女神様のパンツでもあの数に囲まれたら物量負けしちゃうって!!」

「黙って私にしがみついていろ! 舌を噛むぞ!!」


 俺はブランさんにお姫様だっこされながら、霧に包まれた廃墟の街中を必死に逃げ回っていた。

 後ろからは大量のゾンビが猛ダッシュで追ってきている。


「くそっ! 女神様の聖なる力がこもったパンツで、ゾンビ相手にもう一回無双するハズだったのに!!」

「クロエ君から感じていた聖なる力の正体があの下着だったのには驚いたが、如何せん相手の数が多い! 広い場所では袋叩きにされて死ぬ所だった!! 幸いジャック本人は警戒してるのか、追手の中にはいない。このまま街の路地に入って一体ずつ迎え撃つぞ!」


 そう言って街の角を曲がる。


 あの後何体かゾンビを浄化できたのだが、すぐさまジャックの遠隔指揮があったのか取り囲まれ、浄化が追いつかずに物量で圧殺される所だった。

 ブランさんが咄嗟に俺を抱きかかえて強硬突破しなければ、危なかっただろう。


「くっ……」

「ブランさん! その身体じゃマズい!」


 俺はボロボロのブランさんにしがみつきながら声を荒げる。

 手にはパンツを持ったままなので、アンデッドであるブランさんにもダメージが通ってしまうだろう。


「気にするな! その下着は我々の切り札だ。上級アンデッドである私やジャックを浄化するまではいかないだろうが、ダメージは通る。無論近くにいる私にも現在進行系でダメージが通っているが、気にせずしっかり握っておけ!」


 ブランさんは苦しそうにしながらも、俺を抱えたまま走り続ける。


「それに恐らく、そのアイテムの持つ力はアンデッドへの特攻だけではない。女神様の身に付けていた神装であれば、その加護や祝福をも引き継いでいるはずだ。具体的には武力を司る神なら膂力を、知恵を司る神なら叡智の恩恵を所持者に与えてくださる」

「えっ! じゃあこのパンツってけっこうなチートアイテムだったって事!? すげぇ! じゃあこれはいったい何の加護を持ってるんだ!?」

「変態性じゃないかな」

「ジト目で俺を見ないでくれ」


 俺だって好きでおパンツ無双してた訳じゃないんだよ!


「少なくとも加護が何か分からない……もしくは見当が付いた上でジャックは恐れているのだろう。女神様の御名は分かるか?」

「さっぱり」

「そうか……とにかく私の方は気にするな!」


 白髪をなびかせながら走る美女に、俺はゴクリと生唾をのむ。


「そうじゃなくてこう、密着するとおっぱいとか当たって色々マズい! 鎧もボロボロで半裸だし、この状態はまずいですよ!! むほーたまらん!!」

「……クロエ君。人間って空を飛べると思うか?」

「ぐえっ! 投げ捨てる気か!? 俺をあの星一つ見えない曇り空に向かってテイクオフしちゃうつもりなのか!?」


 俺の首根っこを掴んで振りかぶる彼女に命乞いをしながら、


「……いや待てよ?」


 俺の脳裏に閃きのS(sound ) E( effect)が鳴り響いた。

 投げ捨てる……投げる……それだッ!


「……なあブランさん。ちょっと鬼畜かつ人道に反するアホな作戦を思いついたんだけど、上手くいけばゾンビ達を一掃できると思う。協力してくれるか?」


 俺は突如閃いたアイデアを試すべく、ブランさんの方へ振り返る。ちなみにまだ首根っこを掴まれたままなので、下半身が空中でブラブラしていた。


「……嫌な予感がするが、もう私は人間ではないからな。どの道このままでは分が悪い。彼等の死を冒涜するものではないなら、手を貸そう。いや浄化方法は十分冒涜的なのだが……もう気にしたくない」

「……後悔しない?」

「くどいぞ、クロエ君」

「良かった。じゃあブランさん、めっちゃ痛いだろうけど我慢してくれよ」

「ちょっと待て! 人道に反するって私がヒドい目に合うのか!? ……ああもういい! こうなったらヤケだ! 何でもやってやる! 来い!!」

「じゃあ失礼して……」


 俺はブランさんの頭部へ手を伸ばす。


「……何をするつもりだ?」


 俺の手元で怪訝そうな顔をするブランさん。デュラハンだから頭を取り外し出来るのが作戦の要だ。

 俺は彼女の頭に、女神様のパンツを大きく広げて……。


「ちょっと待て!!! ホントに何をするつもりなんだ貴方は……ムグ!?」


 ブランさんの顔にパンツを被せた。

 これで準備は完了。美女が頭から女物のパンツを被った姿は背徳的だな。


「いたたたた! 痛い痛い痛い!? いくら私は浄化されないとは言えダメージは……」


 そこまで言いかけて、ブランさんは顔を青くする。

 地面へ降り立った俺が、向こうから追ってくるゾンビの大軍に向けて、大きく振りかぶるようなポーズを取っていたからだ。


 ……無論、ブランさんの頭を持ったまま。


「……まさか」

「俺、ボウリングのゲーム得意なんだよね」


 生身でやった事はない。


「待て待て待て待てホントに待て!? いくらなんでもこれは無い!!」

「行くぞブランさん! 目指せホールインワン!!」

「そこはストライクじゃないのか!?」


 どうやら異世界にもボウリングはあるらしい。

 女神様のパンツを纏ったブランさんの頭を勢いよく投げ転がし、狭い路地裏でゾンビの大軍がドミノ倒しのように浄化されていった。


「ああああああああああああああ!?」


 一方、ブランさんの肉体は頭部の痛みに当てられ、俺の横でのたうち回っていた。


「よし! かなり数が減ったな!」

「鬼! 悪魔! 最低! クロエ君は鬼畜だ! そういうところ直した方が良いと思う! 将来悪い大人になるぞ!!」

「男はちょいワルの方がモテるらしい!」

「私は誠実な男性の方が好きなのだが!!」


 俺は一緒に走りながら涙目になったブランさんの頭を回収して手渡し、残りのゾンビを相手に異世界おパンツ無双を再開した。


 たぶん後で殴られると思う。



【本日の更新(1/4)】


 今日の残りの更新分で第一章はほぼ終わりです。

 もちろん、ちゃんと大団円で決着つけます。

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