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異世界転生する羽目になったんだが??

 世界というものは時に残酷だ。多くの試練を与える。そして最後まで生き残れるものにのみ祝福を与える。そんな社会で生きる俺は篠崎 文哉。


世界に絶望しながらも生き続けている社会人だ。朝六時に出勤し夜10時まで仕事を行うが業務量の多さはおそらく同じ部署の


人間より多いと思われる。なんせ部署内の人間からは「残業王」や「社畜王」などと言われている。


「なんて不名誉な称号なんだろうか...ん?」


気づくと携帯が振動していた。ディスプレイには時雨の名が表示されていた。


神崎 時雨。彼女は俺の幼馴染であり一番遠い存在だ。彼女は昔から成績は常にトップ、スポーツに関しての成績も全国大会


常連レベルの能力を持っていた。そんな彼女は高校卒業後に海外に渡米、2年後に起業し今では一目を置かれている。


「もしもし?時雨、どうした?」


「あ、ふー君?突然ごめんね?元気かと思って電話したんだけど、なんかお疲れだね...相変わらずあの会社にいるの?」


こいつ俺の性格を知ってて言っているのか..


「当たり前だろ。お前、俺の性格を知ってて言ってるのか。この天才女が」


「もーそんなこと言う。君こそ決断をするのがめんどくさくて先延ばしにしてるだけでしょ。そんなこと続けているから彼女ができないんでしょ。」


「うるせーな、そんな小言を言うために連絡してしてきたなら切るぞ?」


「ごめんごめん、明日そっちに帰るから一緒に飲もうと思ったんだけど大丈夫かな?」

「あー、そういうこと?別に構わないよ。明日は有給で休む予定だったからね」


「やったー!!積もる話もあるだろうし色々聞かせえてね。じゃ明日ね。そろそろ帰りなよ?もう遅いんだから」


「はいはい。わかったよ。んじゃ」


まったく、あいつは昔から行動力もおかしかった。思ったら即刻行動。昔から変わらんな。


まぁいいか。明日はいろいろ準備しとくか。


なんてことを思いながらPCの電源を切り帰路に就く。


「はぁ~疲れた。さっさと帰ってアニメでも見るか~」


そんなときにその出来事は起きた。突然視界がぐらつき靄がかかり意識が途絶えた。


気づくと何もない白い空間にいた。目の前には体から光を発する人物がいた。


「そなたが翔吾か?貴殿は天命を全うしここにいる。貴殿が望むものはなんだ?」


突然そんなことを言われた俺は混乱をしながら答えた。


「俺の名前は文哉です。篠崎文哉。翔吾ではないです。あなたはだれですか?」


「私は神だが、ん?翔吾ではないのか。なんということだ。すぐに確認するからしばし待て」


神を名乗るその人物は誰かと連絡を取ると謝罪をしてきた。どうも勘違いで死んでしまったようだ。


「ほんとに申し訳なかった。こちらの手違いで貴殿の天命を奪ってしまった。しかし、生き返らせることはできない。そこで二つの選択肢と願いを叶えることで勘弁してもら

いたい」


「そんなこと認められるわけないだろ!!ふざけているのか!勝手に殺されて生き返れない?そんなことを受け入れろなんてできるわけない!!」


俺は心底から怒りがこみあげてくる。何も成さぬまま死んでしまうなんて自分を許せない。


神への怒りもあるが、自分への怒りが強かった。


俺は何事もできなかった。勉学も平凡、スポーツも平凡。他に誇れるものがなく優れるものもない。


だらしなさに関しては誰にも負ける気はしなかったが、それでも俺は他とは違う何か特別な能力が欲しかった。そうか、俺はあいつと比べられ生きてきたから特別でありた

かったのか。


「はぁ...二つの選択肢と願いを叶えるでしたか?その願いは制限がかけられるものなのか?」


「制限はある。現実世界への生き返りと願いを複数に増やすこと。この二つは叶えられない。」


まぁ予測していた通りか、だがその二つ以外なら叶えられる。その中で選ぶ選択といえば選択肢は一つ。


「なら、現実世界に生きる人間にメッセージを残すことは可能か?できるなら直接話したいんだが」


「その程度なら造作もない。しかし、時間制限はある。約15分と言ったところだが。何人くらいの意識内に入りたい?」


「俺に親はいるが、言い残したいことは何もない。言い残したと思うのは、幼馴染もあいつだけだ。あいつの意識内に入れてくれ」


あいつとは飲む約束していたからな。せめてものお返しをしないとな


「そうか、わかった。では意識体の中に送ろう。時間になったら呼ぶからそれまで気兼ねなく話すといい」


そういうと神は消え目の前が光に包まれた。目を再び開けると目の前には時雨がいた。


「ふーくん?あれ、私、飛行機の席で仕事をしていたような...。夢でついにふーくんを見るくらいに思いを自覚しちゃったか。まぁ夢の中だし、いいか。ふーくんはどうし

てここに?」


「時雨、悪いが明日の飲み会はできなくなった。俺はどうやら死んでしまったみたいなんだ。神様の権限で15分だけ時雨の意識体の中で話すぞ時間をもらったんだ。」


「え?うそでしょ?だってさっきまで元気なふーくんだったじゃない!そんなのありえない。何かのどっきりなんでしょ?」


「いや、事実だ。何よりこの体、半分透けてるだろ?お前の体は透けてないのが何よりの証拠だ。俺の意識体は消えかかっている。」


「そんなの...受け入れられるわけないでしょ!!なんでふーくんなのよ!ふーくんが死ぬくらいなら私が...」


「馬鹿かお前。自分が死ねばよかったなんて言うんじゃない。お前はこれから先世界に爪痕を残すことができるだろ。俺なんかより生き残るべき人間だ。」


「そんなこと...あなたが決めることじゃないでしょ...私はあなたに生きててほしかった。あなたと歩む未来を夢見ていたのに...こんなのあんまりよ」


彼女からそんな言葉を向けられると思わなかった。俺にそんな価値はないというのに、彼女はこんな俺を評価してくれていた。俺はこんな時でも自分を好きになれることはな


いのがひねくれていると言われる所以なのかもしれない。しかし、今くらいは本音でぶつかることが誠意になるにだろうか...


「これから言うことは俺の本音だ。お前に対して向ける言葉というよりは独り言のようなものだ。あまり気に留めずにきいてくれ」


俺は俺の考えを、時雨に伝えた。時雨との差に嫌気がさしていたこと。尊敬していたこと。そして自分がこれまで感じてきた自分に対する評価を死んでから起きたことも。


「そんなくだらないことを考えていたなんて思いもしなかった。あんたって昔から自分のことになると馬鹿になるよね。他人のこと優先で自分のことは後回し...ほんと馬鹿

らしい。」



「うるせぇ~。俺にとっては大事なんだ。まぁそんなことを考えて生きていたから死んだんだろ。」


「そんなこと言われても受け入れられないよ。仕方ないんだけどさ、でもだからってそんな状況を受け入れる精神がすごいよ」


「そんな状況の俺を受け入れるお前もすげーよ。相変わらずの状況適応能力。」


ほんと昔から何事にもすぐに適応しやがる。天才というにふさわしいのかもしれないな。その時、


「そろそろいいだろうか。残り1分で15分になる。別れの挨拶を済ませてもらえるとありがたい」


「え?何この声。脳内に直接送り込まれてくるような...まさか神さま?」


「まったく、そんな反応をしたら失礼だろ。とはいえこんなやつでも神なんでから世も末だな。でもそんなわけでもう時間だ。最後にお前に伝えたいこと...か。なら、お前

は自分の道を突き進んでほしい。何事もお前はすぐにできてしまう分、敵を作ることも多い。だからこそお前はしっかりと周りを見てやってくれ。仲間を作り支え合うんだ。

心残りといえばお前の結婚式に行けないくらいだな...」


「ほんとに最後なのね。私からは自分の生きたいように生きなさいということだけかな。あんたは周囲の目を気にして自分のポテンシャルを低くしている癖がある。だから自

分の生きたいように生きてほしい。けどあんたのことだからすぐに直せないだろうから少しづつ直していけばいいさ。」


こいつこんな風に考えていてくれたのか...うれしいな


「それとね、残念ながら結婚式は見せれないというかもう見れないよ。心に決めた人がこの世にもういないからね。」


「そうなのか...それは残念だな。そいつの代わりに俺が死ねればよかったのかもしれないな」


「馬鹿なこと言わないで!私が好きなのはあんたなのよ!代わりなんて言わないで!!私にはあんたしかいなかった!なのに死んでしまってあんたにもう会えないと考えただ

けで私は心が張り裂けそうになる。でもあんたがこうして最後の相手に私を選んでくれた。それはとてもうれしいと思った。だから、あんた以外の人と結婚なんてありえな

い。」


「そうか..それは悪いことをしたな。なら少し目を瞑ってくれないか?」


「えっ?別にいいけど...これでい..っ!?!?」


こんな行為を向けられて自分を抑えることなんてできなかった。彼女の唇にそっと重ねた。


「ふぅ、これが俺なりの答えだ。現実世界で俺のことを頼む。あと、俺の部屋のものは好きに使ってもらっていい。お前の役に立つかはわからないが...」


「あんたはほんとズルい。そういうことをするんから。ありがたくあんたのものを使わせてもらうよ」


「そろそろ時間みたいだ。んじゃまたどこかで...」


そういうと彼女は俺の前から消えていた。目の前に神がいた


「別れの挨拶は済んだか?わずかな時間ではあるがな...」


「いや、ありがたかったよ。最後くらい本音でぶつかりたかったからな。」


それを聞いた神はどことなく笑っていたような気がする。まぁ見えないんだけど。


「では。二つの選択肢を選択してもらおう。選択肢の内容は現実世界に転生することだ。この際はそれなりに裕福な家に転生させることが出来る。能力もある程度希望に沿う

ことを約束する。もう一つは異世界転生というものだ。この際には転生先はこちらで選択させてもらう。神々の関係も絡むのでな。しかしその代わりその転生先の神には与え

られる能力に色を付けるように伝えよう。貴殿が望む能力を選ぶと良い。ではどちらを選択する?」


ここで考えるべきは俺の価値観だ。あいつに言われた通り今の俺に必要なのは俺がどうしたいか。どんなに気を使って生きてきても疲れるだけだった。それを死んでまで続け

ても意味がない。自分なりの価値観で生きること。その中に己の本心をどれだけ折り込めるか。それが決め手のなる。そんな中で選ぶ選択は...


「なら異世界への転生を選択するよ。」


「そうか、いいのか?先ほどの娘。時雨と言ったか?彼女に完璧に会えなくなるぞ?現実世界に転生を選ぶならそこらへんも配慮するが...」


「いいんだ。自分のせいで現実世界に転生したなんて知れたら殺される。そんな風になるくらいなら異世界に転生して選択肢を広げるほうが理にかなっていると思ってな。」


「そうか、そういうことならその手筈で進めていく。最後に貴殿に私から伝えておきたいことがある。」


こんな時にこいつはなに言ってんだ?一体何を言うのだろうか?異世界の状況だろうか、それともなにか、別件なのだろうか?


「貴殿は先ほども言ったな?自分が嫌いだと。それは心の奥底から感じるものだろう。しかし、そんな自分のすべてを嫌っているわけではないのだろう。なんせ、幼馴染に最

後会いたいと義理を果たすほどの人間なのだ。しかし、我は貴殿が歩んだこの22年という歳月は決して無駄なものではないと断言する。逃げ出した自分や周囲を欺いた自分、

多くの自分を嫌った人生であろうとその歩みが消えることはない。決してだ。どんなに否定しようともそれはお前自身の過程であり発想だ。自分自身の中で完結させただけの

世界に過ぎない。そんなものはただの自己満足であり、総合的な『答え』ではない。答えを探し求めたいのなら世界の流れの中でどれだけ自分をさらけ出せるか、その一点の

みなのだ。貴殿が生きてきた社会は自分自身を押し殺し生きにくい世界であっただろう。来世では貴殿が心の底から生きてよかったと思う生き方をできるようになることを

祈っている。」


「半ば半分に聞いておくよ。ありがとな。じゃ転生を頼む。」


「そうか。では、異世界の神に引き継ぐ。詳しいことはそいつに聞いてくれ。後ろの扉を開けると向こうにつながっている。」


「わかった。じゃ行ってくるわ。」


そういって俺は扉を開け別の世界に進んだ。

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