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『トゥインクル・トゥインクル・・・ぽちに願いを・・・』

作者: 悠璃

「ママの子守唄を覚えてる?」


るなちゃんがぼくに聞いた。



うん、覚えているよ、とぼくはママの子守唄をうっとりと思い出しながら答えた。



るなちゃんは一枚の写真を両手で握りしめながら呟く様に言った。


「なんとなく覚えているような気がするんだけど、でも思い出せないんだよね。」



その写真には、るなちゃんを抱っこしてほほえんでいるママが写っている。


るなちゃんは写真を見ながらまたため息をついていた。


そのため息を見るとぼくはいつも胸がキュウウンと痛くなる。



るなちゃん、ぼくが覚えているよ。


ぼくが唄ってあげるよ、るなちゃん、るなちゃん。


ぼくは一生懸命あの子守唄を歌う。でも・・。



「うおおおーーん、うおおおん」



「ぽち?急にほえだしてどうしたの?」


るなちゃんが驚いた顔でぼくを見ている。



僕は歌うのを止めて、るなちゃんのお顔をペロペロとなめた。


るなちゃんのお顔から寂しさを全部なめとってあげたいよ。



「ぽち。くすぐったいよお。」


るなちゃんがちょっとだけ笑った。



ぼくは嬉しくなった。



るなちゃんはママの写真を見ながら寝てしまった。


その寝顔を見ながら、ぼくは考えていた。


るなちゃんが小さな頃に天国に行ってしまったママ。


大好きなママ。


ママはいつもるなちゃんに子守唄を歌ってあげてた。


ぼくもあの歌が大好きだった。


全部覚えているのに、るなちゃんに歌ってあげたいのに、ぼくが唄ってもそれは犬の遠吠えにしかならないんだ。


でもぼくはなんとかしてるなちゃんにあの子守唄を歌ってあげたいよ。





ぼくはいつもお庭に遊びに来てくれる小鳥さんとおやつを一緒に食べながら、ため息まじりにその話をしたんだ。


そうしたら、ある日小鳥さんがぼくに言った。


「あのね、森のふくろうじいさんにあなたの話をしたの。

そうしたらね、願い事をかなええてくれるお星さまをさがすといいよって。

ふくろうじいさんがいうには夜空に一番に輝く一番星さんはひとつだけ願い事をかなえてくれるんだって。」


「一番星さんはどこにいるの?」


「それは・・・。」





そしてぼくは今、走っている。お庭をこっそり抜け出して。


ふくろうじいさんは、五色の魚に聞けば一番星の居場所を教えてくれるだろうって教えてくれた。



ぼくはその魚のいる、桜の木とリンゴの木がクロスする滝を目指して走った。


ぼくはいくつも山を越え森を抜けてピンクの花びらと真っ赤なリンゴの実が揺れる木の下の滝壺に飛び込んだ。



ぼくはその川を必死に泳いで潜って五色の魚に出会った。


赤・青・黄色・緑・白に輝くうろこに包まれた小さな魚はぼくが来るのが分かっていたかのように滝つぼの底でぼくを待っていたみたいだった。



ぼくはそのきれいな五色の魚にたずねた。


「一番星はどこにいるの?」


「よくここまで来たね。一番星のことが知りたいんだね。


それならば、虹の階段を昇った先に住んでいる竜に聞いてごらん。」



五色の魚はそう言うとぼくに虹の階段への道を教えてくれた。


ぼくは五色の魚にお礼を言うと虹の階段の場所を目指してかけ出した。




まずぼくは東にある高い高い山を登った。


その山のてっぺんには虹色に輝く階段の橋が太陽の光に照らされていた。


ぼくが光煌く美しい虹の階段を思い切り駆け上ると、そこはモクモクと煙がわき立つような真っ白な雲の上だった。


そこに竜は居た。



全身が金色に輝く大きな竜は金色の立派なひげをピンと立ててぼくをジロリっと睨んだ。


ぼくは五色の魚が教えてくれた通りに、丁寧に竜にお辞儀をして挨拶すると、滝つぼの上に咲いていた綺麗な桜の枝と美味しそうなリンゴの実を竜に贈り物として差し出してから尋ねた。


「一番星がどこにいるのかごぞんじですか?」



竜はがらがら声でこう答えた。


「一番星は気ままな小僧さ。


いつでも自分の好きな所に飛んで回っているからな。どうしてそんなにあの子に会いたいんだい?」



ぼくは竜にるなちゃんの話をした。金色に輝く金色のひげの竜はぼくの話に頷きながら言った。


「なるほど。そうか。子守唄をな。うん。」


そしてぼくの顔をじっと見つめてこう言った。


「よし、ぼうず。わしの背中に乗るがいい。」



気付くと金色のうろこが輝く竜の背中に乗って、ぼくは空を飛んでいた。


どこまでも広がる青い空と白い雲を竜は踊る様にゆうがに飛んでどんどん昇っていく。


「どこへ行くの?」


竜は応えずどんどん昇っていく。


「さあ着いたぞ。」


竜は言った。


「この子の話を聞いてやってくれないか?」



ぼくはぼくの顔を見つめてほほえむとても大きなお顔~お空に浮かぶまんまるなお月様~に向かって一生懸命るなちゃんの話をした。


お月様は言った。


「そう。子守唄をね。分かったわ。」


お月様がそう言うと竜はごきげんでぼくをお月様に放り投げた。


ぼくの身体はふんわりとくるくると浮き上がり、そして気付くとぼくはお月様の胸に抱かれて世界を見下ろしていたんだ。


お月様の優しい声が聞こえてくる。


「一番星の坊やはどこかしらね?」



お月様は夜空を世界を照らしながら、空を飛ぶ鳥たちや、空にきらめく星々に聞いてくれた。


次の日もその次の日もお月様の温もりに包まれてぼくは一番星を探し続けていた。



そんなある日海の上を飛ぶように泳いでいたイルカ達がお月様にジャンプして言った。


「一番星なら海の宮殿にいましたよ。呼んできましょう。」


そして一番星はイルカに乗ってやって来た。


「お月様。


ぼくを探していたんですね。ごめんなさい。


人魚のお姫様が病気だったから、ぼくのキラキラで元気をあげていたんです。」



お月様はニッコリと笑って一番星に言った。


「いつも世界中があなたを呼んでいるものね。お姫様はもう大丈夫なの?」



「はい。もうすっかり元気になって海の宮殿で踊る様に泳いでいます。」


「そう、それは本当に良かったわ。では、この子の話を聞いてあげて下さいな。」


「るなちゃんの為にママの子守唄を歌ってあげたいんです。」


ぼくは一番星に心を込めてお願いをした。



一番星はぼくの話を聞いて、ニッコリ微笑むとこう言った。


「よし、明日の夜、ぼくと一緒に一番に空に昇ろう。」



そして次の日、真っ赤な夕陽が海の向こうに沈もうとしているその時、一番星は自分の右肩にぼくをちょこんと座らせてくれた。


「ぽちくん、ぼく達は今から空に一番最初に輝いて世界を照らすよ。その時、願い事をしてごらん。」



「うん。」


そうしてぼくは一番星と一緒に空へと昇って最初の星の煌きになった。



「どうか、ぼくがるなちゃんにママのあの子守唄を聞かせてあげれますように。」


ぼくはぎゅっと目をつむって、ぼくの心の全部で祈った。



ぼくは身体がシャラララって何かにくるりと包まれてふわりと自分が宙に浮いているような気がした。



そっと目を開けると、ぼくはこんぺいとうみたいな可愛い小さな星達と一緒に夜空に踊っているよう。



くるくるくる、くるるんくるると煌きの渦の中にぼくの身体がリズミカルに回っている。



星達は波のようにぼくの身体を何度も揺らしぼくは一番星に乗ってその波を越えてゆく。



「るなちゃん!」


ぼくはるなちゃんの名前を思い切り呼んだ。



「ぽち?」


るなちゃんの声がしてふんわりとるなちゃんがぼくのすぐ側に浮かんでいた。



「るなちゃん!」


ぼくはるなちゃんに手を伸ばした。



るなちゃんがぼくの手をつかむ。



両手をつないでぼくたちはまるで泳いでいるようにゆっくりとふんわりとまわりながら夜空を飛んでいる。



ぎゅっとにぎりしめた手が温かい。



ぼくはうっとりとしながら心に浮かんだメロディを口ずさんでいた。


「ゆりかご~♪♪~」


そう、この子守歌を何度もママは歌ってくれた。



ぼくはるなちゃんに何度も何度も歌い続けた。


「ママ。ママの子守唄だ。」


るなちゃんがうっとりと子守唄に聞き入りながらそのメロディを口ずさんでいる。



ぼくはるなちゃんと一緒に夜空に浮かんで何度も何度もその子守唄を歌った。



そのうち、るなちゃんのまぶたがゆっくりと閉じてこくりっと眠ってしまった。



いつのまにか二本足になったぼくは両手でるなちゃんを抱きかかえて、ゆりかごのようにゆらりゆらりと揺らしながらずっーとずっと子守唄を歌い続けた。



ママみたいに。


そっと優しく。



一番星はぼく達を乗せてスーイスイと夜空を走り、通り過ぎるぼく達に星達が微笑む。



そして一番星は夜空のてっぺんでみんなを見守っているお月様のところで止まった。



ぼくはお月様におじぎをした。


「お月様。ほんとうにありがとうございました。」



お月様はにっこりと笑った。


その笑顔は温かい光になってぼく達を包み込む。




気付いた時には、ぼくはお家のるなちゃんのお部屋のベッドで丸くなって眠っていたんだ。


「あれ?ここは・・?」


ぼくは起き上がってるなちゃんを探す。



るなちゃんは気持ち良さそうにぐっすりと眠っていた。



ぼくはるなちゃんの寝顔を見て安心するとベッドから降りて窓から外の空を見上げた。



夜空にはたくさんの星達がきらめいてまんまるお月様がみんなを照らしている。


「一番星さん、ありがとう。」


ぼくが空に向かってそう呟いた時、お月様のすぐ近くの星がキラリっと光った。


ぼくにはそれが一番星だってそんな気がした。




次の朝、目を覚ましたるなちゃんはベッドに起き上がるなりぼくをぎゅっとハグした。


「ぽち。るなね、夢を見たよ。ぽちと夜のお空を飛んでる夢。


そしてね、ぽちが私にママの子守唄を歌ってくれたの。」



るなちゃんが嬉しそうにフンフンと子守唄をハミングする。


「ぽち、私ね、思い出したんだよ。ママの子守唄。」


るなちゃんはゆっくりと歌い出した。



「ふふふ。ね?ママの子守唄。ああ、嬉しいな。ぽち、これからは私がぽちにママの子守唄を歌ってあげるからね。ふふ。」


るなちゃんのお顔はにっこりと笑顔のお花が咲いてるみたい。



ぼくはなんだか胸の奥が熱くなって嬉しくなって、るなちゃんお顔をぺろりっってなめた。



るなちゃんの幸せいっぱいのお顔をぺろりって。



「うふ。くすぐったいよ。ぽち。」


るなちゃんが笑った。



「うわん!」


ぼくはまたお顔をなめた。


ぺろりっ。


ふふふ。




お月様、一番星さん、みーんなみんなほんとにほんとにありがとう。


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[一言] ポチ、頑張りましたね! いちばんぼしに願い事、してみたいです。
2024/01/06 09:11 退会済み
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