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オークおまけ

作者: 想々




 これは僕が異世界転生を振り返る、ただそれだけの話だ。


 僕はオナニー中の心臓発作でこの世界に飛ばされ、転生した。それが確かな事なのかそうでないのか、それは誰にも分からない。


 ただ僕は好むか好まざるかに関わらず、この世界の森の中に飛ばされた。それだけが事実だ。


「やれやれ」


 僕は一つ溜息をつくと、ボヴ・マーリィ&ザ・ウェイラ―ズの「エクソダス」を口ずさみながら見知らぬ森の中を進んだ。

 ここに留まっても良いし、留まらなくてもいい。ただここに留まっていても何か道が開かれるとは思えなかった。


 その世界で僕は全裸だった、それは確かな拘りがあってそうしていたのではなく、ただ裸だった。何かに感化された訳でも無いし、自分でそれを望んだ訳でも無い。


 強い匂いを感じる、オンナの匂いだ。

「オンナの匂い」

 何故それを僕が感じることが出来るのだろう?

「オンナの匂い」


 僕は花の匂いに引き寄せられる蜜蜂のようにその匂いの元を辿(たど)った。 あるいは田舎の切れかけた蛍光灯に引き寄せられる虫の様だったかもしれない。



____________________



 そこには美しい女性が居た、小川に片足を浸している、怪我をしているのか?


 ただこんな訳の分からない世界に飛ばされた僕にとって、彼女は初めて会う話の通じそうな人間だった。唯一の希望。僕にはそう映った。


 僕が彼女に近付くと、彼女は叫んだ。


「オーク!」

「オーク?」


 やれやれ、一体何を言っているんだ、いくら僕がブ男だからと言ってその言葉はあんまりだ。

 確かに君が僕を醜いと思ったとしても、僕はそれを否定しないし、何かを言う権利も無い。

 

「喋るんだ、珍しいね」


 彼女はそう言って眉をひそめた。


 沈黙が下りる。僕には彼女が何を言っているのか分からなかった、喋る、誰が? 僕が?

 そんなのは当たり前だ。僕はそう言い返したかった。


 だけど彼女に言われ、川面に顔を映した時その意味が分かった。


「オーク!?」

「オーク」そうだ、僕はオークだ。


 豚面の、魔物。オーク。


 

 それが一体何物の仕業なのかは知らない、ただ僕はオークに転生した、それ以上でもそれ以下でも無い。

 

______________


「それで」と彼女は森の中を見回して言った。

「あなたはこれからどうするつもり?」


 森の中は静かで、僕たち以外に人は無く、誰も何も言ってはくれない。


「結局あなたは何の答えもも持っていないのよ」

 彼女の言う事はもっともだった。


「従魔にならない?」彼女はニヤリと笑いながらそう告げた。


「従魔?」

「奴隷契約みたいなもの」


 彼女は何でも無い事のようにそう言う。


「奴隷・・・」

「そう、奴隷。」


 言っていることはひどい内容だった、ただ僕は十数分の会話の中で、彼女がそう酷い女性では無いのでは無いのではないかと思い始めていた。

 それは僕がそう思っただけで、別の人間から見たらそうは見えなかったかもしれない。


「なります、従魔に。」

「本当に?」

「本当に」



 パブロ・ピカソの抽象画のように変形したゴヴリンの死体の傍で、その契約は締結される。

 僕は野良オークとして過ごしても良かった、だけど僕は従魔になった、悪くない選択だ。


 しかしただ一つだけ言いたい、完璧な異世界転生など存在しない。完璧な絶望が存在しない様にね。


「ねえ、私を街まで連れて行って欲しいの、場所は」

「いいですよ」

 彼女は両足に怪我をしているし、ひどく疲れている。僕は彼女を背負ってもいいし肩を貸してもいい、ただ解っているのはすぐにここを離れた方がいいって事だ。


 あれから二日が経った。

 早いもので僕は彼女と過ごす事に慣れて来た。相変わらず彼女は僕に対してフレンドリーで射精の手伝いもしてくれる。彼女は少し変わっていたけれど、それ以外は控えめに言ってもいいマスターだ。


 でも事はそんなに都合よくいかないものだ、初夏の気持ち良く晴れた午後、僕達は街に入ろうとした。だけどそれを押しとどめるように衛兵が僕達の前に立ちはだかった。


 僕の背中でマスターが言った。


「彼は私の従魔なの」

 出来れば平穏に街に入りたかったけど、どうやらそれも叶いそうにない。

「またお前か・ナタリア・ミラン」

 

 彼女はマスターの幼馴染だった、名前はミネルヴァ・ハフェス。


「ところで」と彼女は言った。

「コイツが何かしたらお前が責任を取るのかな」


「コイツが何かしたらお前が責任を取るのかな」マスターはニヤリと笑って言った。

「もちろん」


 その間ぼくは冬眠中の熊が春を待つように、ただじっと待っていた。




「今日からよろしく」

 僕は彼女の従魔になっても良かったし、ならなくても良かった。それでも今思うとその時の僕の選択は悪くない選択だった。

「今日からよろしく」

 こうして僕は彼女の従魔になった、これはただそれだけの話だ。



__________________閑話終了。




作品にエンドマークを付けた後、予備と言うか控えを使わずに一か月走り切ったのだと振り返って思います。

 で、この使わなかった奴を消すのが勿体ないという理由の投稿です。ごめんなさい。

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