創建 4000万年 大都会
夜の歩道を、一人の少年が足早に駆け抜けていく。手には、赤い女物のハンドバックを持っていた。
遠くのほうに、一人の女性が倒れている。けがをしているようだった。
少年は、物陰に隠れると、財布から金を抜き取ると、ハンドバックを藪の陰に隠した。
これだけ、金があれば、1週間程度は、宿に泊まることができそうだった。もう、大都会で生きていくのが嫌になった。どこか、山奥か、海辺のさびれた村にでも、行こうと思った。
空には、ジェット戦闘機とヘリコプターが、轟音を立てて、飛び回っていた。別に、少年を探しているわけでもない。いつものことだ。
かつては、この星で、一番美しい都市になんども、選ばれたこの町が、崩れていく。ボロボロになっていく。ビルが崩れていく。そんな音が、数時間毎に、遠くから聞こえてくる。
あの美しかった公園、均整のとれた市役所と議事堂は、この都市の自慢だったのに。今は、半分、崩れてしまった。
少年「どこへいけばいいんだろう。」
ジージーとなにかが唸った。
「ジョー、ジョー。」
藪の中から聞こえていた。さっき捨てた、女のハンドバックの方だったので、藪の中をかき回すと、金色に輝く四角いものだった。スマホに似ていた。女の持ち物ではないのは明かだった。
「なんだろう?」拾い上げて、みると、「ジョー」といった。少年は、ジョーと呼ばれていた。
「おれを呼んだか?」
「そうだ。おれを連れていけ。」
「どこへだ。」
「聖なる山だ。」
「それは、どこにある。」
「ここから、ちょっと,遠いな。」
「なんで、おれの名前を知っている。」
「お前の名前だけじゃ無いぞ。なんでも知っているぞ。わしは、スーパーウルトラハイパーAIだ。」
「ハイハイ、何とかAI様。なんでも,ご存じなんですね。私を巻き込まないでください。」
「しかたないのだ。わしには、足がない。足が必要なのだ。お前、足になれ!。わしの足になれ。」
「え!-。あなたの足に私がなるんですか?」
「そうだ。足になるんだ。」
「なんで、おれ、なんです。」
「話せば、長くなるぞ。どうせ、道のりも長い。道々,話してやろう。聞きたいだろう。」
「聞きたくありません。さようなら。」
「そっちにいくと危険だぞ。」
というと、ジェット戦闘機が、爆弾を落としてきた。それは、あまりにも突然だった。
しかし、もう、町は、ほとんど崩壊しているのだ。赤外線探知で、人間の存在を感知したのかもしれない。
上空と飛ぶ、ジェット戦闘機もヘリコプターも、無人で自立操縦だ。だから、夜間、動く人物を自動爆撃したのかもしれなかった。
夜間は、物陰に、じっとしているしかない。つまる、この「へんてこりんなもの」と一緒にいるしかない。
その「へんてこりん」は、暇にかませて、ジョーにいろんな事を話した。それは、驚くべき内容だったが、たぶん。それは、へんてこりんの作り話だと思われた。
太陽が昇り、ジェット戦闘機やヘリコプターは、鳴りを潜めていた。
ジョーは、歩き始めた。カバンの中には、「へんてこりん」が入っていた。そして、その「へんてこりん」は、暇があると、ブツブツなにか、おしゃべりしていた。
ジョーには、ラジオのように聞いていた。そのほうが、気が紛れたし、この世界は、まだ、破滅していないのかしれないという安心感を与えてくれた。
しかし、町の中に、人影は、ほとんど無かった。警備自動車が、のろのろと周囲を見回して、動いている。
はやく、この町中を脱出して、山の中の村か、海の側の村に,逃げ込んで、静かに暮らしたいとおもった。
夜になれば、また、ジェット戦闘機やヘリコプターに狙われてしまうかもしれないのだ。
その「へんてこりん」は、右に行けとか、左に行けとか、橋を渡れとか、いろいろ言い出した。どうやら、逃げ道を知っているようだった。とにかく、この町から脱出するのが、優先だった。
そして、歩くしかないのだ。