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スプーン戦争の夜明け  作者: 葱鮪命
第一章 知らない祭典
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地区総会

「リゼ、行くぞー」

「うん」

 その日の夕方、表のメニュー看板を店内に引っ込め、電気を消し、戸締りをして、リゼは父と共に家を出た。

 今日は地区総会。この通りの代表として父が選ばれているので、フローレンスは閉めなければならない。リゼは家に居てもすることがないので、父と共に総会に参加しているのだ。

 地区総会の主な会議内容は、地区内で何か問題や困り事は無いかなどの情報共有である。新しく取り入れられた地区内のルールはきちんと守られているか、それによって困る人は出ていないかなど、区長を中心に話し合いを進めていくのだ。

 ティモーが代表として選ばれた理由は、この辺りではフローレンスが最も繁盛している店であり、様々な人がやって来るために情報も入りやすいからだと言う。

 たしかに、リゼは客の間で交わされている話によって、地区内で話題になっていることには遅れなくついていけている。

 最近は地区の門兵が仕事を怠けているという話題が多い。平和な地区にもなると、彼らも仕事が退屈なのかもしれない。

 ここ最近で起こった犯罪と言えば、中央広場で客が盗み食いをしたというものだった。犯人は店主に散々追いかけ回され、最後は袋小路に追い詰められて箒でバコバコ叩かれたそうな。犯人もそうだが店主も叱られるという、奇妙な事件となってしまっていた。

 これくらいが大きな事件で、他には愛犬の腹の調子が悪いだの、主人のいびきが煩いだの、平和な話の種が芽吹いているだけの、本当に何も無い長閑な毎日だ。

「そういや、出店が少なくなってきたとか言ってたな?」

 フローレンスから西に行った最初の角を左に曲がった時、ティモーが思い出したようにそう言った。リゼは頷く。

 二人は大通りへ出た。正面にはエトランゼの玄関、南門が見える。怠け者と囁かれている門兵たちの仕事場だ。そんな南門からまっすぐ伸びる大通りは、途中の中央広場へ向けて荷物を引く商人や、買い物かごをぶら下げたエトランゼ民で賑わっている。

「何かあるのかな。お父さん知らない?」

「さあなー。そういう話はお前の方が詳しいんじゃないのか? お客さんと沢山話してるだろ」

「そんなに暇に見えてるの」

 リゼは父を軽く睨む。勘違いされてはいけない。自分は客の間を走り回っているうちに話題を拾うだけで、足を止めて詳しく話を聞く時間は無いのだ。客と話すなんてことは、レジで対応している時に二言三言、言葉を交わすくらいだ。

「でも、買い出しの時にコートニーさんがたしかに言ってたんだよ。小麦粉が買えないって」

 同じ通りでパン屋を営む女将のコートニーは、リゼの第二の母である。リゼを常に気にかけ、会えば必ず声をかけてくれる。そんな彼女が、昨日の昼の買い出しの際に奇妙なことを言っていたのをリゼは父に話した。

 昨日、中央広場へ買い出しに出かけたリゼは、いつものようにコートニーに話しかけられた。金色のくせ毛の下に屈託のない笑みを浮かべられると、リゼは安心感を覚える。

「リゼちゃん、買い出し?」

「はい」

 リゼは買い物袋を見せる。中は野菜や果物、調味料だ。一方でコートニーは小さな台車を押して歩いていた。小麦粉は重いので、そこに乗せて運ぶのである。しかし、その日はその台車の上に何も乗っていなかった。

 不思議に思っているリゼに気づいたのか、コートニーが「今日はお店、出ていなくてね」と言った。リゼは目を丸くして彼女を見る。

「ブレントさん、何処か行っちゃったんですか?」

 広場で小麦粉を売っている者と言えば、ブレントという人物がよく知られている。ユークランカ地区という、エトランゼの遥か西からやって来る商人で、上等の小麦粉を安い価格で販売しているのだ。コートニーは彼の店を重宝しており、小麦粉は常に彼の店から買っていた。

「昨日の昼にはたしかに見かけたんだけどねえ」

 コートニーが困ったように首を傾げる。

 小麦粉が手に入らないとなると、パンは当然作ることができない。

 リゼはぐるりと広場を見回し、彼の店を探す。いつも彼が店を構えているはずのところが、今日は歯抜けのように何も無かった。それどころか、リゼはそんな歯抜けの空間があちらこちらに存在していることに気がついた。

「気づいた? お店、減ってるの」

 コートニーの声がして、彼女に視線を戻す。彼女は顔の横に垂れるくせ毛を人差し指にくるくると巻き付けていた。不安だったり、イライラしたりしていると彼女はあのようにする癖があった。

「本当ですね。何かあったのかな」

 リゼは不思議だった。今までこんなことは無かった。突然出店が無くなると困る人も多い。特にコートニーのように一つの店から主要な材料を買っている者にとっては、いつ元に戻るかも分からないこのような状況には不安が募るに違いない。ただでさえ小麦粉は、多くの地区民の主食なのだ。

 エトランゼにも昔から小麦粉屋はあるが、そこは質が悪い上に値段が高いというのが問題だった。また店主も愛想がなく、コートニー曰く「彼に小麦粉を買うんだったら米粉のパンに乗り換える」とのことだった。

「やっぱり、あの祭典が近いからなのかしらね」

「あの祭典?」

 リゼは首を傾げる。コートニーはこくん、と頷く。

「スプーン戦争よ」

「スプーン戦争」

 リゼが眉を顰めたところで、「いけないっ」とコートニーはハッと口を抑えた。

「アタシ、鍋を火にかけたままだったのよね。あのバカ、まだ寝てるのかしら。小麦粉が手に入らないと仕事が無いものね。しょげて飲んで寝てるのよ」

 コートニーが早口でそう言って、台車の方向を食べ物通りの方へ変えた。

「じゃあね、リゼちゃん。気をつけて帰るのよ」

「は、はい」

 風のように去っていくコートニーを見送り、ぽつんとその場に残されたリゼは、その単語をもう一度口にするのだった。

「スプーン戦争......」


 *****


「はあ、そうか。その時期か」

 話を聞いた父は納得したようだった。リゼは父に聞きたいことが沢山あった。

「ねえ、スプーン戦争って? お祭りなの?」

「いやあ、俺も詳しいことは知らないんだけどな......」

 二人の会話はそこで途切れてしまった。中央広場へやって来たのだ。此処は人が多いので、はぐれないよう歩くのに集中する必要があった。また、賑やかなので普通の声量ではなかなか声が届かない。リゼの背ではティモーの耳に声を届けるのは難しいのだ。

 リゼは父の背中について行きながら、「スプーン戦争」について考えていた。これまで生きてきて、全く聞いたことのない単語だった。

 祭典ということは、お祭りだ。「スプーン」ということは、美味しいものを食べるお祭りだろうか。もしそうならば何て素晴らしいだろう。大好きな料理を楽しめる祭典ならば、父だって喜ぶに違いない。しかし、特にそんな反応は見られなかった。

 そして、その祭典が近づく事がどうして小麦粉屋や他の出店を撤退させることになるのか。

 考えてもよく分からなかった。

 リゼは周りを見てみる。今日は買い出しに行く予定は無いが、もし明日買い出しに行く時にいつもの出店が無かったらどうしようと不安になったのだった。

 リゼがいつも買っている果物屋も野菜屋も、調味料屋もまだ店を出していた。ただ、その隣に不自然な空間が空いているのを見て、リゼはギョッとした。昨日はたしかにあった店だ。今日は空き地と化している。

 街が段々と変わっていく様は奇妙で、何処か不気味さすらある。何の前触れも無いのだから。唯一与えられたヒントは「スプーン戦争」。しかし、それが何なのか分からない。

 リゼは大丈夫なのだろうか、と父の背中を見上げる。

 もしこのまま出店が無くなっていったら、エトランゼはどうなってしまうのだろう。フローレンスは経営していくことができるのだろうか。

 悶々としているうちに、目的の場所に着いた。そこは、円形の中央広場を突っ切った場所にある。広場の内側を向くようにして、広場の形に沿うように僅かに湾曲した建物だ。

 此処はエトランゼ地区相談所。エトランゼ地区で最も偉い区長のオフィスであり、地区での困り事を相談する場所でもある。広場で出店を構える者たちは、必ず此処で許可を貰う必要があり、もしかしたら受付嬢のミースならば何か知っているかもしれない、とリゼは淡い期待を抱いて父について行った。

 建物に入ると正面にはカウンターがあり、金色の髪を後ろで丸く束ねた若い女が一人座っている。

「ティモーさん、リゼちゃん」

 彼女がミース・ブルーメン。この相談所の受付嬢である。そして、区長の孫でもあった。

「よう、ミース」

 父はミースに挨拶し、名簿に名前を記入している。今日の定例会の出席者の名簿である。既に全ての欄が埋まっており、リゼとティモーで最後だった。

「今日は何の本?」

 ティモーがサインをしている間、ミースはカウンターの向こう側からリゼに微笑んだ。

 リゼは肩から小さな青い布のポシェットをぶら下げていた。そこには小説が一冊だけ入っている。会議が始まるまでの間、時間を潰すために毎回持ってくるのである。

「魔法使いと薬草売りのお話です」

 リゼが答えると、ミースは頷いて「面白そう」と笑む。

「そう言えば、おじいちゃんもこの前ね、図書館で本を借りてたよ」

「何の本ですか?」

 大好きな本の話題となれば、リゼはすぐに食いつく。ミースはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「『奥さんを怒らせる人の、ダメな七つの習慣』」

 リゼはふふ、と笑う。ミースも笑みを堪えられず、ぷっと吹き出した。一通り笑ったところで、ティモーがペンを置いた音がした。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 ミースは「はい」と彼に向き直る。

「広場の出店がちょっとずつ撤退してるって......」

 ああ、とミースは頷いた。

「今日はそれに関する話し合いなんです。スプーン戦争ってご存知ですか?」

「ああ。あの、五十年に一度っていうやつな」

「そうです。今日は実行委員会の方がお見えになって、説明をしてくださるんです」

「そうだったのか......だが、店が撤退してるのは経営者としてはなかなか頂けないぞ」

「ええ、それは私達も少し驚いていて......今日はその辺りも含めてお話して頂く予定ですので」

「そうか......」

 父の真面目な顔と、受付嬢としてのミースの表情を、リゼは静かに見守っていた。まだ分からないことだらけだが、どうやら例の「スプーン戦争」という単語が、これから行われる会議の中で明らかになるようだ。

「じゃ、行くか」

「はい、本日もよろしくお願い致します」

 リゼは父について、建物の廊下の奥へと進んだ。突き当たりの部屋がその会場だ。開け放たれた扉から、人々の話し声が聞こえる。部屋に入ると、リゼとティモーが座る予定の椅子を除いて、全ての椅子が埋まっていた。

 地区の代表者は十人。リゼは特別だが、含めると十一人となる。

 部屋に置かれた大きなテーブルの他、前方は壁が黒板になっており、後方は大部分が物置になっている。この相談所は避難所としても使用することができ、緊急用の食料や毛布が常に置いてあるのだ。

 リゼは最後に扉を閉めた。窓際のいつもの席、父の隣に腰掛ける。

「やあ、リゼちゃん」

 右から声がした。リゼは「こんばんは、カスペルさん」と彼を見る。

 声をかけてきたのは、丸メガネと黒い長髪が特徴的な青年だ。彼はカスペル・ランプキン。エトランゼで代々薬屋を営んでいる家の、四代目の若店主だ。細身の体を包む緑のローブからは、ハーブのすっと鼻を抜けていく香りが漂ってくる。リゼは彼の見た目が、今自分が読んでいる小説の薬草売りにそっくりだと思った。魔法使いに弟子入りした薬草売りは、緑のローブをまとっていたのだ。

「どうしたの?」

 物語の世界の存在との思わぬ遭遇に、静かに感動するリゼを、カスペルは不思議そうに見つめていた。

「いえ、何でも」

 リゼは我に返り、ポシェットから早速小説を取り出した。父は隣で腕組をして目を閉じている。新メニューを考えている彼は、いつもこのポーズだ。こういう時は邪魔をしないのが正しい。

 リゼは残り僅かになった頁に寂しさを覚えながら、昨晩読み終えた箇所を探り始める。

 カスペルは書き物を始めた。サラサラとペンが動く音が心地よい。

 リゼは幼い頃からカスペルに可愛がってもらっていた。母が病に倒れた時に家に来て診ていたのは彼とその父だったし、風邪をひいた時や怪我をした時は必ずと言って良いほど彼の店に世話になる。

 また、カスペルは博学だった。学校に通わないリゼは、本の他に彼が知見を広げてくれる存在だったのである。

 リゼが本を読み始めればカスペルも静かに自分の仕事に戻る。彼の隣ならば、リゼは安心して夜と変わらない読書タイムを楽しめるのだった。

「やっぱり、来たんだな?」

「ああ。怪しい奴らだった。雨も降ってないのに目深にフードなんか被りやがってよ」

「黒いローブの六人組か。俺のとこにもだぜ」

「奴ら、武装してやがる。背中に剣を背負ってたって、レミントンが言ってたぞ」

「それ本当か? だとしたら門兵は何してんだ」

「彼奴ら、最近は全く仕事してねえからなあ」

「最近どころじゃない。俺が生まれてから仕事をしているところなんて一回も見たことがないぞ」

「通して良いやつとダメなやつの見分けなんか、とっくに昔の代で忘れちまったんだろうよ」

 リゼは本から顔を上げた。会話をしているのは向かい側に座る三人の男だった。

 黒いローブ、フード、そして武器......。間違いない、昨夜自分の店に来た、あの六人組の団体客の話だ。

 リゼは再び本に目を落とすも、文章が頭に入ってくる気はしなかった。意味の掴めない単語をふわふわと目で追っていると、

「スプーン戦争が近いからか?」

 ある単語が聞こえてきた。リゼは弾かれるように顔を上げた。

「ああ、そういや、もうそんな時期か」

「もう、って。お前まだ生まれてないだろ、前のスプーン戦争の時」

「そうだった」

「でも、言われてみればそうだよな。たしか今年は、第三回目からちょうど五十年目......」

 リゼは思わずカスペルの名前を呼ぶ。書き物をしていた彼は、ペン先を紙から上げた。

「どうしたの?」

「スプーン戦争って何ですか? みんなその話をしているんです。お祭りなんですか?」

「ああ」

 カスペルは頬杖を突いた。指にあるペンが意志を持ったようにクルクルと回り始める。彼の癖である。

「平和の祭典だよ。五十年に一回だけ開催される、大きなお祭り」

「平和......?」

 リゼは奇妙だった。祭典の名前に「戦争」と入っているのに、「平和」の祭典とは変な話だ。この二つの単語は相反するもののはずだ。

「そう、平和」

 カスペルは頷く。

「二百年前に、すごく大きな戦争があったことは知っているかい?」

「えっと、エトランゼの壁が三辺壊れたっていう......」

 それは大昔の話だった。しかし、エトランゼに住んでいると、その戦争の悲惨さがよく分かるオブジェがある。それが、エトランゼの南門。今はたった一辺の壁である。

 普通、門となればその向こう側に守るべき存在がある。南門で言えば、エトランゼ地区だ。しかし、南門は一辺だけ。北も東も西も丸見えで、南門を東西に伝って行ってしまえば、エトランゼ地区には簡単に入れてしまう。小さな柵があり、今は侵入者などという物騒な存在は居ないのだが、それでも警備は門兵の怠け具合も相まって、セキュリティ面の安全性から遥かにかけ離れているのが現状だ。

「うん。それがフォーク戦争。魔族と人間が激しく争った、本当に悲惨な戦争でね」

 二百年前の戦争の存在は知っていた。しかし、その名前をリゼは今初めて知った。フォーク__それはカトラリーの一種だ。スプーンもまたそうである。

「フォークですら武器にしようと、国中が喧嘩した悲しい歴史なんだよ」

「それが名前の由来なんですか?」

「うん。だから、人を突き刺すことができない、スプーンというものの名前を借りて、平和の戦争というものを始めることにした。本物の武器を捨てて、代わりに玩具の武器を持つことにしたんだよ」

「玩具?」

 想定もしていなかったものが出てきた。

「そうだよ。スプーン戦争は、地区同士優勝を競い合って玩具の武器で戦うというお祭りなんだ。子供も大人も、国民全員に参加義務がある、とっても大きな祭典なのさ」

 カスペルの説明に、リゼは少しずつ自分の心が変わっていることに気がついた。出店が少なくなり、皆の顔に不満の色が浮かんでいることが気にかかっていたが、今の説明を聞く限り、とても楽しそうな祭典だ。

「それが、今年行われるんですか?」

「うん。第三回目からちょうど五十年経ったからね。今日はそれに関するお話なんじゃないかな」

 やっぱりカスペルは物知りだ。

 リゼは今の説明で顔が輝き、手の中にある小説はパタンと早い段階で閉じられてしまっていた。更に詳しく聞こうと口を開きかけたところで、部屋の扉が開いた。

「皆さん、お揃いですか」

 それは、区長のハルム・ブルーメンである。ぽってりとした腹が、まるで林檎のようだ。顔に浮かぶ柔らかい表情で部屋を見回し、全員揃っていることを確認すると、黒板の前に立った。

「それでは、定例会を始めます」

 今まで喋っていた者たちも、姿勢を正すか彼に向き直るかして、「お願いします」と言った。リゼは父をチラリと見た。彼は腕組をしていたが、閉じていた目を開いて、顔はハルムの方に向けていた。

 ハルムは全員の視線が自分に集まったことを確認し、小さく咳払いをする。皆の前で彼が話し始める合図は、必ず咳払いだ。

「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。本日はスプーン戦争についてのお話をするために集まって頂きました」

 リゼはワクワクしながら彼の言葉に耳を傾ける。

「おそらく知らない方も中には居るでしょう。スプーン戦争は、ちょうど二百年前のフォーク戦争の悲劇を忘れないようにするため、五十年に一度行われる平和の祭典のことです。今年は、第四回目のスプーン戦争が開催することが決定しました」

 ハルムは一人一人の顔をじっくりと見回しながら、ゆったりとした口調で続ける。

「スプーン戦争の開戦に向けて、それぞれの地区は準備をしなければなりません。そこで、本日は実行委員の方にお越しいただき、ご説明いただくことになりました。では、入ってきてください」

 ハルムは部屋の扉に向かって声をかけた。その声を合図に、部屋の中に入ってくる一人の人物。静かだった部屋が騒がしくなる。リゼも「あっ」と小さく声を漏らした。

 部屋に入ってきた人物は、黒いローブを身にまとっていた。今日はフードを被っていないために顔がしっかり見える。歳はリゼの歳を二倍したくらいだろうか。黒い髪と、線の細い顔。鋭い目の中に光る片目が、異常に美しい。

 そう、部屋に入ってきたのは、昨夜フローレンスにやって来たあの団体客の一人。

 リゼは名前を頭の片隅から取り出した。

「メレディスさん......」

 メレディスと呼ばれていた、あの男だったのである。

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