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スプーン戦争の夜明け  作者: 葱鮪命
第二章 長い一日
26/41

夜の大図書館

「前の方は押さず、二列に並んでお通りください」

 よく通る爽やかな男の声がした。リゼがこの声を聞くのは二度目だった。視線を走らせると、人の頭の向こう側に、灰色の髪が美しい青年の姿を見つけた。ルーク・マクレガン。彼の名だ。

 混沌としていた人の群れは、ルークの指示によって規則正しく二列に別れ始める。

「やっぱり混むのね」

 リゼは、プリシラと隣同士になって列に並んだ。林の中もまた混雑しているようで、列が進むにはもう少し時間がかかりそうである。プリシラは隣で肩を竦めた。

「待つしかないわね」

「ええ」

 リゼは頷いて、ルークに目を戻す。彼は引き続き声をかけ続けていたが、皆の統制がある程度とれてくると、口元に何かをかざした。

「此方、特に問題無し。其方は?」

 彼が持っているのは、黒く細長い小さな箱だった。小さいと言っても、リゼが片手に持つには大きすぎて、重みもありそうだ。ルークはそれを左手に持って口に近づけ、それに向かって喋っているのだ。その箱からは、天に向かって虫の触覚のようなものが一本伸びていた。その形は、リゼの頭の中であるものを連想させた。

「ラジオかしら」

 プリシラも同じものを見ていた。

 そう、ルークが手にしている物体は、ラジオに似ていた。フローレンスでは父が常にラジオをカウンターの上に置いているが、同じような触覚がラジオにはついているのだ。

 しかし、

「ラジオに喋りかけるのも変な話ねえ」

 ラジオは一方的に情報を伝える役割しか持たないはず。ならば、彼は放送中なのだろうか。家を出て来る時、彼の声はラジオから聞こえなかったはず__。

『此方も特に問題はありませーん。あ、ちょっと待って。はいはい......えっと、二人通りたいそうです。どうぞ』

「了解」

 リゼもプリシラも目を丸くしてその光景を見ていた。ルークの手の中の機械から男の声がした。それはたしかにルークに返答し、そしてルークもそれに対して了解したのだ。

「遠くの人と話が出来るのかしら」

「そうかもしれません」

 二人の顔は輝いていた。よく似た感性を持つ二人である。その機械は、二人の心の奥深くにある興味の鈴をけたたましく叩き鳴らした。

「あ、少し待ってください」

 ルークが列をピタリと止めた。先を行く人々が林の向こうに消えると、入れ替わるように二人の男女が林から出てきた。ルークの機械から聞こえてきた情報の二人だろう。

「すごい機械ね」

 再び列が動き出して、プリシラがルークに言った。ルークは「ああ」と微笑み答える。

「これは無線機です。林の向こう側に応答者が居て、彼と情報を交換して、スムーズに列が進むようにしているんです」

「ラジオと違うんですか?」

 リゼの問いに、ルークはええ、と頷く。

「これはあくまでお話をするだけの機械ですからね。ラジオは一方的に相手の話を聞くだけの役割しか持っていないんです。最近取り入れた技術ですから、僕らもまだ馴れていないのですが......」

 ルークははにかんで笑って、どうぞ、とリゼたちを林の入口に促した。リゼはプリシラと並んで林へと足を踏み入れる。

 リゼの胸はドキドキしていた。今の不思議な機械の存在と、見慣れた小道が夜の姿へ変わっていることが原因だった。

「リゼちゃん、足元に気をつけるのよ。木の根に足を取られないように」

「プリシラさんも」

 此処まで足元が見えないという経験を、リゼはこの道でしたことが無かった。そして、こんなにも人がぎっしり詰め込まれた小道の姿も、今日初めて見たのだ。こんなにも大人数で大図書館に行くことは、人生でもう二度と無いだろう。

 リゼは足元に気をつけながらも、この景色を目に焼き付けようと色々なところに視線を走らせた。プリシラがリゼの背中に手を当ててくれるのは、転ばないようにしてくれているからだろう。彼女もまたコートニーに似た母性の持ち主である。

 やがて、雑木林は抜けた。木の葉の隙間から、チラチラと明るい光は見えていたのだ。視界が開けると夜の大図書館が現れる。見たことがないほどの明るさを持っていた。建物の向かって右側の窓からこうこうと漏れる光。ポーチまで続く煉瓦の小道をぼんやりと照らすランタン。ランタンを持つのは、リゼがよくカウンターで見る司書たちである。

「足元に気をつけてお進み下さい」

「ゆっくり、前の方について行って下さいね」

 司書たちはランタンを頭上に掲げながらそう言った。リゼの心は踊っていた。こんな光景は初めてだ。口の両端が何をしなくても持ち上がってしまう。

「素敵。ランタンの小道ね」

 うっとりとした表情を浮かべるプリシラ。

「綺麗ですね」

 リゼが言った時、

『足の悪い方が行きますので、足元を照らしてあげるように伝えてください』

 先程、雑木林の入口で別れたはずのルークの声がした。リゼはハッとその方へ目を向ける。林の出口に立っている、一人の青年。それは、昼間に相談所でミースの手伝いをしていた、あの金髪の男だった。手にはルークが持っていたものと同じ例の機械がある。

「了解です。司書の皆さん、もう少ししたら足元を重点的に照らすようにとのことですー』

 彼の指示に、小道の方方から返事があった。

 リゼたちはランタンの間をゆっくりと進んだ。ポーチもまた混んでいた。そこでは長机が出され、説明会の資料が配られているようである。彼処に辿り着くにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 道は手前で二手に別れる。二列になっていた列は、道に沿うようにきっぱりと分断された。前を行く者の背中についていくと、プリシラとは自然にそこで別れ、リゼはまた一人になった。

 小道が別れる原因は、一本の旗である。リゼは夜の旗をじっくりと眺めてみた。人が多くて風が吹かないからだろうか、赤い布は元気が無い。人々の関心はなびかない旗よりも、少し先に構えるポーチや、その周辺の花々にあるらしい。美しい花壇の存在を今日初めて知った者も少なくは無いはずだ。

 リゼはこれだけの人々に、自分のお気に入りの場所がじっくり見てもらえることに何処か誇らしさを覚えていた。美しい花壇を手入れするあの老人や、旗に込められた意味を知る者は少ないだろう。一人一人に教えてあげたいくらいだ。まずはプリシラで練習してみるのが良いだろう。

 別れた列は再びひとつに戻った。しかし、プリシラの列の方が先に進んでしまったようで、ポーチの向こう側に彼女の姿は消えてしまった。リゼは階段を上り、ポーチにやって来る。

「あ、リゼちゃん!」

 長机には沢山の紙類が置いてあった。何枚か束になっており、司書たちはそれを次々と配っている。

 長机の向こう側から声をかけてきたのは、リゼと最も仲良しな司書のアニカ・テンパートン。手際よく紙を拾い、笑顔とともにそれをリゼに差し出して来る。

「来てくれてありがとう!」

「凄い人の数ですね」

「本当にね! 頑張って準備した甲斐があったよー! 今日は楽しんでいってね!」

 まだ話をしたかったが、後ろが詰まるといけないので、リゼは資料を受け取るなりすぐ先へと進んだ。エントランスに入る。今日は壁の燭台全てに火が灯っていた。温かみのある光がエントランスをぼんやり照らす。

「会場は此方ですー」

 一体何人の司書が今日のこの会場に居るのだろう。男の司書がランタンをかざし、片手を横に広げて列を整備していた。

 列はリゼがよく行く小説コーナーとは全く反対側へ続いている。それは貸し出しカウンターの隣の扉へと伸びていた。リゼがスプーン戦争の小説を借りたあの日、アニカの後ろで開いた扉だ。今日の会場。エトランゼ大図書館の大ホール。何百回と大図書館に足を運ぶリゼが、まだ一度も入ったことが無い部屋。当然、口端は持ち上がる。

 リゼは扉を潜った。大きな空間の気配。

「わあ......」

 少女の口から感動のため息が漏れた。

 その部屋は、エトランゼ大図書館では最も明るい部屋と呼んで良いだろう。天井から光を降らせるのは、ステンドグラスでも蝋燭でも無い、電気による巨大なシャンデリアだった。外から見た時に建物の右側から光が漏れていた原因は、このシャンデリアなのだった。

 シャンデリアは部屋全体を隅々まで照らしていた。シャンデリアに相応しいこの部屋は、今回の会場である大ホール。木の床はピカピカに磨かれ、その上に所狭しと椅子が並べられている。椅子は全て前方に設置された木のステージに向けられており、既に半分よりも前のブロックが埋まっていた。

 壁には燭台を入れる窪みの他、窓枠にはめ込まれたステンドグラスがある。後者は外からもよく見えていた。建物をチョコレートケーキに見立てた時、果物部分に当たるところなのだ。しかし、その向こうにこれだけ巨大な空間が広がっていることは全く想像もつかなかった。

「前の方からなるべく詰めてお座り下さい」

 此処にも誘導の司書は居り、人々はそれに応じて動き始める。リゼも人の波に乗りながら、口を半分開けたまま部屋を忙しなく見回す。

 この建物が昔王城だったことを彷彿とさせる内装だった。此処だけ見てしまえば、図書館だとは信じられない。きっと、当時はパーティー会場だったに違いない。きっちりした服や煌びやかなドレスに身を包んでダンスパーティーをする様子を、リゼは何度も本で読んできたのだ。

 周りを行く人々も感動のため息を漏らしていた。皆これだけ立派な内装は初めて見るのである。王城に入ることが出来れば日常的に見かける景色なのだろうが、この国の場合はそういうわけにもいかないのだ。

 さて、人の行先はやがて細かく分裂を始める。皆それぞれのブロックの椅子に座り始めたのだ。椅子はステージから真っ直ぐ伸びる太い通路で左右に、そして垂直に交わる太い通路で前後に、十字にブロック分けされていた。リゼは後方の、比較的空きがあるブロックに向かった。プリシラの姿を探したが、人の多さでとても探していられない。見える範囲には居ないらしい。

「リゼちゃん」

 キョロキョロと辺りを見回していたリゼの耳に、自分を呼ぶ誰かの声が聞こえてきた。それは、パン屋の女将コートニーだった。

「空いてるわよ。お隣どう?」

 彼女はそう言って、自分の隣の椅子を指さした。リゼはそこに腰を下ろす。

「凄い人の数よね。早めに家を出たのに、まさか後列になるとはね」

 コートニーは会場を見回して肩を竦める。リゼは「そうですね」と、会場の入口を見やった。まだまだ人は入って来る。説明会が始まるまでは時間がかかりそうだ。カスペルはどうなっただろう。雑木林は抜けただろうか。

「やっぱりリゼちゃんが来るのね。ティモーさんじゃ寝ちゃう、ってところ?」

 リゼの意識はすぐコートニーに戻された。

「はい......お父さん自身、よく分かっていたみたいです」

「ふふ、そうよね。しっかりした娘さんが居て幸せね」

 リゼははにかんで、似た質問をしてみる。

「キースさんは......」

 今日の説明会は一家から一人しか出席することが出来ないが、コートニーの夫であるキースは何をしているのか。

 聞いてみたリゼだが、大体の答えは予想出来ていた。

「肝心なこと聴き逃してきそうだからね。代わりに来たの。本人は凄く行きたそうにしていたけどねえ。新しいレシピの考案をするように言って、出てきちゃった」

 悪い顔をするコートニーに、リゼは苦笑で返す。

 リゼの父と違って、キースは説明会に来たかったようだ。小麦粉が手に入らなくなってからは、家に居るのも飽きてしまったのだろう。そんな彼にとって、エトランゼ大図書館の大ホールという珍しい場所で行われるこの説明会は、魅力的の域を超えていたに違いない。

 しかし、やはり幼なじみは似るもの。ティモーと同じ理由で、家で留守番という役を貰ってしまったようだ。駄々を捏ねるキースの姿が目に浮かぶ。

「まあ、真面目にレシピを考えているわけがないんだけどね。帰ったらビールジョッキが机の上に何個あるかしら」

 コートニーは肩を大袈裟に上げ下げした。エトランゼで指折りの酒豪であるキース。大抵夜のエトランゼに響く笑い声はキースか、もしくは__、

「お隣良いかな、お二人さん」

 リゼの隣に誰かが座った。金色のパーマ髪を持つ初老の男だ。

「あら、レミントンじゃない」

 コートニーがリゼの反対側から顔を覗かせる。

「二人が参加するんだ。ガタイの良い男二人はどうした?」

 答えは分かっているようだ。レミントンの目が笑っている。

「知ってるくせに」

「つれないなあ、コートニーさん。ねえリゼちゃん」

「リゼちゃんに触んないでよ」

 レミントンの手がリゼの肩に触れる手前で、コートニーがすぐにその肩を引き寄せる。

「相変わらずだらしない男ね。リゼちゃん、席替えましょうか」

「ええー、そんな冷たいこと言わないでよ。初めての所で不安なんだよ、俺」

「アンタみたいな奴が図書館なんて来るわけないもんね」

 コートニーが鼻で笑って言う。レミントンは「酷いなあ」と口を尖らす。

 レミントン・エイミス。エトランゼ地区の靴屋だ。キースの飲み仲間であるが為に、その妻であるコートニーとも仲が良い。今の会話で果たしてそうなのかは判断し兼ねるが、何だかんだで世話焼きのコートニーは、彼の面倒を見ることになってしまうのだ。

 リゼにとってレミントンは、キースと同じように近所のおじさんという認識だ。ただし、レミントンはキースと違って、過去にフローレンスを出禁になった身である。

「アンタ、保護作業は終わったの?」

「うん。あ、そうだ聞いてよ。超美人なお姉さんが手伝いに来てくれてさっ、金髪の子だよ」

 レミントンが早口で捲し立てる。

「すっごいんだよ、力持ちで逞しいし、声もかっこよくて......今日この会場に来てるかな」

「またアンタは......すぐ手を出そうとすんだから。そのクセ直さないと、いよいよエトランゼから追い出されるわよ」

 そうなのだ。レミントンの短所は、女癖が悪いところなのである。

 彼がフローレンスを出禁になったのは一年前。その日は既にほとんどの客が帰っていた時間帯だった。何件か酒場を回ったレミントンは、ふらりとフローレンスに入ってきたのである。そこでリゼに酔っぱらい特有の面倒な絡みをし、それなりに際どい言動をしたが為にティモーに追い出されたのだった。それから数週間は、ティモーはレミントンと口を利かなかった気がする。

 酒に酔っていなければ、悪い人では無い。時折だらしない発言はするが、仕事は真面目だ。下積み時代にトランテュ地区に居た時は、それはそれでいざこざがあったそうではあるが。

 リゼはティモーほど彼に苦手意識を持っていない。酒と女さえ絡まなければ、彼は酷い人間ではないのである。コートニーもそれを知っているので、彼との縁を絶たないでいるのだった。

「俺、今回の祭典で運命の人を見つけようと思ってるんだよね。いや、絶対見つけてやるんだ。スプーン戦争ってさ、生まれるらしいんだよ。ロマンスが」

 コートニーの呆れ顔をよそに、レミントンは堂々と宣言した。

「アンタがロマンス? 鼻で笑うわよ。そういうのは真面目な恋愛をする気がある奴が言うセリフなんだから」

「ええー、俺は至って真面目だよ。もうティモーさんを怒らせるようなこともしないし、人妻に手を出したりもしません」

「前科があり過ぎて信じられないわ」

 ねえ、とコートニーはリゼに同意を求める。なかなか触れづらい会話である。リゼは曖昧に頷いて誤魔化し、どうにか気配を消す方法を考えようと遠くの方へ目をやった。

 会場の前方には、木のステージがある。ステージと言っても最初から部屋についているものではなく、木の台をいくつも並べて簡易的に広い平面にしたものだ。その上に、リゼは一人の背中を見つけた。黒い髪、振り返ると見えるは赤い瞳。物騒な剣を今日も背負い、彼はステージの上で一人黙々と作業をしていた。

 メレディスだ。

 リゼは彼の名前がすぐ頭の奥から引っ張り出せるようになっていた。不気味な黒いローブをまとって店に来た一ヶ月前から、地区総会、そして今日のこの説明会まで、彼に会うのは三回目。会話をしたという経験はほとんど無いが、実行委員会では最も頻繁に見かけるのが彼である。たしか地区総会では、エトランゼ地区の班長だと話していた。保護作業に来たルークも、彼のことを「班長」と呼んでいた。地区ごとに実行委員会が班分けされており、その地区の実行委員をまとめる立場なのだろう。あのステージに居るということは、今日は彼が話をするのだろうか。

 リゼは彼を観察してみる。何やら蛇のような長い紐を腕に巻き付け、ステージ上を行き来している。時折司書と話をして、司書が慌ただしく会場の扉から出て行く。何かを持ってくるのだろう。メレディスはそれを見届けると、することが無くなったのか会場を見回した。

「あっ」

 思わずリゼの口から声が漏れる。

 目が合った。距離は離れていたが、彼はすぐに自分の方を見たのだ。これだけの距離が離れていて、瞬時に場所を把握出来るのは凄いことだ。

 リゼは感心しながらも、すぐに目を逸らす。彼には後ろめたいことがあるのだ。いつ掘り出されるか分からない。あの「ココアプディング雪崩事件」の謝罪をまだしていないのである。

 目を逸らした先は、自分の膝の上だった。リゼはポーチでアニカから受け取った今日の資料を思い出した。まだ説明会が始まるまでは時間がかかるだろうし、資料を読んで時間を潰すのが良いだろう。

 リゼは冊子を手に取った。五枚ほどの紙で構成された薄い冊子だが、これだけが束になっているのを考えると、最も重要な情報がありそうだ。

 何気なく表紙に目を落としたリゼの心は、一瞬で高まりを思い出す。何故ならその冊子は、「スプーン戦争 ルール」と題されているのだ。

 この祭典にはルールがあるらしい。そういえば、地区総会でメレディスが言っていた。布で保護した家の中に入ることは出来ない、と。保護された区画に入るのはルール違反なのだ。自分の家に入れないのは不便ながらも面白いルールだ。他にはどんなルールがあるのだろう。この冊子の厚さは期待が出来そうである。

「コートニーさんは良いよな。もう心に決めた人が居るんだもん」

「はあ? なにいってんのアンタ」

「でもキースで良いの? あんな飲兵衛より俺の方が仕事できるよ」

「アンタも飲兵衛でしょ。それに、アイツはアンタみたいに浮気もしなきゃ女癖だって悪くないわよ」

「は〜、惚気けちゃって、まあ〜」

 まだまだ止まらない両隣の会話だが、リゼの関心はすっかり手元の資料にある。見事に気配を消すことは出来たようだ。好奇心旺盛な彼女にとって、ひとつの事に集中するのはそう難しいことではない。

 少女は資料の一頁目を捲った。

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