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3:不穏な気配

 ふぅ……これでいいわね! やっと私の城が完成したわ!


 私は一ヶ月かけて宮殿の裏庭に作った秘密基地に思わずガッツポーズする。


 ふっふふ。ここでこっそり鍛えて、来たる魔王をギッタンギッタンにしてやるわ……。

 今に見てなさい!


「おーい! マリー何してんだ?」


 なぬ!?


 私がギギギと顔を向けると、そこには銀色の髪をかき上げたガキ大将風の男の子がいた。


「な、なによ? ジャック……」


 第四皇子のジャックだ。マリーは昔から一個上のジャックにくだらないイタズラを繰り返されたせいで、苦手意識があった。


「いや、お前がよくクラヴィエのちびっ子連れて何かやってたからさ。つい、きちまったぜ」


 うがぁぁ! こ、こいつにばれてたのかぁぁ!


「こ、ここはスティード君と作った場所だから、出て行ってもらっても?」

「なんで? あっ! 俺知ってるぞ。アホのジェレミーがなんていってたかな……あっ! 愛の巣ってやつか?」


 違うわよ! このドアホ!

 ジェレミーもなんてことを教えてるのよ!


「呼びましたか?」


 ジャックと同じ顔と髪色だが、どこか腹黒っぽい雰囲気がある男の子が顔をひょいっと覗かせる。


 お、おまえもか!


「よ、呼んでませんわ。ジェレミー」

「そう? でも、なんかジャックに名前を言われた気がするけど?」

「き、気のせいよ」


 お前たち二人はとっとと自室に戻ってなさい! シッシ!


 私が手のひらで追い払っていると、スティード君が脇目も振らず走ってきた。


「マリーお姉ちゃん! 舎弟一号、参りました!」

「……舎弟?」

「マリー……」


 ち、ちょっとスティード君!


 双子の兄二人にドン引きされるマリーがいた。




 ◆◇◆




 その晩、家族全員仲良くご飯を食べている時にジェレミーがニヤッと、隣にいるマリーを見て笑った。


 何よ!


「なんでも……マリーが、舎弟を作ったそうで」


 え、ちょ、ちょっと待って。それ言っちゃだめでしょ!


 私は打ち上げられた魚のように口をパクパクするが、時すでに遅し。


「うむうむ。ワシも子供の時は舎弟をいっぱい作ったから、いいじゃないんかのぉ?」


 さっすがパパンだぜ!


 皇帝陛下はニコニコしたまま髭を撫でる。ジェレミーは悔しそうな顔をするが、すぐにまたニヤッと笑う。


「舎弟……? ジェレミーさんもそういう言葉を使うのよしなさい。マリーさんも女の子なんですから、もっとシャキッとしなさい」


 セドリック兄様とアミラ姉様のお母様である第一皇妃ヴィオレット様が小言を言った。


 ふん! ざまぁみろ!


 ちょっと涙目になるジェレミー。


「あらあら、子供なんだから多めに見ましょう? ヴィオレットさん」


 今度はパトリック兄様と弟のアルフレッドのお母様、第二皇妃ニノン様が頬に手を当てながら擁護してくれた。


 さっすがニノン様!


 プルプル震えるジェレミー。


「私も賛成ですわ!」


 ジャックとジェレミーの双子のお母様の第三皇妃ヴァネッサ様が、銀の巻き髪ロールを揺らして言った。


 ふっふっふ。すでに過半数は私に賛成よ! ジェレミー!


 私がニヤッとジェレミーに笑い返そうとした瞬間、凍りつく。

 私のママンである第四皇妃マリヴォンヌがニコニコしているというのに、ゴゴゴと音が聞こえるように、私を見ていたからだ……。


 ひ、ひぇぇぇ!


 半べそのジェレミーが私に肘をついて、ざまぁみろと口パクした。


 こ、こいつ!


 今度は私が泣きそうになっていると。


「舎弟? 舎弟は良くないな。舎弟にするより弟子にしろ!」


 ト、トンチンカンすぎません? セトリック兄様……。


 パトリックお兄様とジャックは我関せずでご飯をパクパク食べていると、アミラ姉様が立ち上がった。


「でしたら私の妹舎弟になりますね!」


 な、何言ってるの? アミラ姉様……。


 お兄様とお姉様のよくわからない援護のおかげか、舎弟の話から話題が変わったが、私たち二人は揃って半ベソかきながら食事をした。


 食事を終えて私が自室に戻ろうとした時、隣に座っていた弟のアルが苦い顔しながら、歯軋りをしていた。


「どうしたの? アル」

「い、いえ。なんでもありません、マリーお姉様……」


 うーん?

 何か歯に詰まったのかな?




 ◆◇◆




 食後、ぽんぽこりんのお腹を抑えながらベッドで横になっていると、ジェレミーから壁ドンされた。

 別にキュンと来るほうじゃなくて壁をドンドンされるほうだ。

 無視しているとしつこく何度もドンドン! と叩いてくる。


 うるさっ。

 こいつめ! そういうつもりならこっちも壁ドンしてやる!


 ドンドンドンッっと数十分やり合っていると突然ガバッと扉が開いた。


「もう夜だぞ? 何しているんだ?」


 パトリックお兄様だった。私たちを廊下に引き摺り出して正座させる。


「「す、すみません……」」


 パトリックお兄様にコンコンと一時間ぐらい説教され、再び半べそかいていると、ドンッと壁ドンをされた。今度はキュンッとする方のやつ。


 マリーはキュンッと言ったが、どう見てもちびっ子がちびっ子にやっているだけで別にキュン要素はない。第三者視点からだと、ただただ微笑ましい光景だ。


「おい、マリー。妹だからって僕は容赦しないぞ?」


 ジェレミーはマリーに顔を近づけてニタニタと頑張って嫌らしい顔を作ろうとするが、普通に可愛い笑顔を浮かべた。


 ふん!


 それを見て私はニヤッと笑う。


 こっちも嫌らしい顔ができなくてニパッと笑った。


「ふぅん。私、あなたが甘いお菓子を隠し持ってるの知ってるけど?」

「な!」


 私の言葉にジェレミーは見る見るの内に顔が赤くなり、涙目になった。


 え! そ、そんなに恥ずかしかったの? ご、ごめんよぉ。


「ご、ごめんね。ジェレミー」


 顔を伏せたジェレミーの頭をギュッと抱きしめるが、すぐに突き放される。


「ふん! 兄上と姉上たちに言ったら、本当に許さないからな! いつかお前の弱みを握ってやるから、覚えてろ!」


 捨て台詞を吐いてジェレミーは自室に戻った。


 その時、影からアルフレ……いや、やめておこう。そう、青い髪色をしたかつて病弱だった幼い男の子が、苦々しい顔で二人のやりとりを見ていた。




 ◆◇◆



 パスカル ・クラヴィエの独白

 第六皇女のマリー様は、今までどこかよそよそしかった帝室の皆様だけではなく騎士団すら笑顔にあふれさせた素晴らしいお方だ。

 私の婚約者である第三皇女様も、ワガママ気質で苦手だったが第二王子パトリック様に追いかけ回されてるのを見てついに助けてしまった。


 何をしているんだろうか……昔は興味すらなかったのに。


 涙目になって「ありがとうございます」と上目遣いをしながら裾を掴んでくる姿に、心を奪われてしまった。



 ……弟が第六皇女マリー様の舎弟になったらしい。


 ど、どういう意味だ? わけがわからない……。

 近衛騎士や専属の騎士になるならわかるが、なんで弟は舎弟に? しかも家にいる時はずっと舎弟一号と書かれたハチマキをつけて誇らしげにしているし。


 あっ、父上と母上に見つかって怒られてる。


 はぁ……マリー様は素晴らしいがちょっと変わっている気がする。

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