9話
レイとアンダルシアの模擬戦の翌日。僕はアルトリス聖国の王としてとある場所へと、右腕であるアンダルシア、異邦の者であるレイ、そしてそのレイの御目付け役として任命しておいたエルシアを連れて来ていた。そのとある場所というのが今回三領主会談を行う場所……僕ら三領主が中立領域と呼んでいる場所…三領土が争いを禁じ、話し合う事ができる唯一の場所。その名も【ニュウト宮殿】だ。
過去にツキノメ帝国との戦争集結に使用して以来、ここへ来ることはなかったが…やれやれ。再びここに来る羽目になるとはな。
あの二人が相見える場所というのは…僕としては辛いところだ。以前の会談では一触即発の状態になったからな…
そんな事を思っている間に我々は宮殿へと到着した。
「ここが会談を行う場所ですか…まるで私の世界の議会場みたいな造りの建物ですね」
「おや、君の世界にもこんな場所があるのかい?」
「ええ。まぁまだ外見だけですが」
「っと。話をしてると…」
宮殿の前に一人の男性が立っていた。
「お待ちしてました。コード国王陛下」
「君と顔を合わせるのは前回の会談依頼以来だね、カゲツ殿。また面倒なことに巻き込んで申し訳ない」
「いえ。面倒事に立ち会うのは私の仕事ですから」
白髪の男性、名はカゲツ。この宮殿を管理する者であり、今回の会談の監督役だ。
「他の領主達は?」
「ソフィア様は既に到着しています。センラ様の方は…」
「まだ来ていないか……前回と同じか…」
「嫌な思い出でしたよね…」
「何かあったんですか?」
「私は凄く緊迫した空気になったとは聞かされてましたけど…」
「ああ…色々とね…」
「とりあえずこんなところで立ち話もアレですし、どうぞ中へお入りください」
カゲツの案内で我々は宮殿内へ案内された。
宮殿の大広間には既に三人の先客がいた。一人は言わずと知れたルファの領主、ソフィア・イルミティ。もう一人はその右腕、カザシロノ・シキ。
だがもう一人は…初めて見る顔だな…。
「御機嫌ようソフィア殿下」
私は優雅に紅茶を飲んでいたソフィア殿下に挨拶をした。
「ああ。遅かったなコード国王」
「いつ頃ここに?」
「1時間前にだな。我が娘がここを見物したいと申し出たからな。共に着いて回ったのだ」
「娘?ああ…あの子が君の…」
遠くでシキと話をしている少女に目を向けた。
「セラだ。ん?どうした?娘ならやらんぞ」
「いや…そうではなくて……もしや養子?」
「まぁな…私にも色々あるのだ」
成程…銀髪のソフィア殿下の娘にしては真っ赤な髪だからな…そういう理由か。
「お久しぶりですソフィア殿下」
「久しいなアンダルシア。で、その者が例の…」
「はじめまして…えーっと…ソフィアさん…殿下?でしたね。レイ・エルピスと言います。今日はよろしくお願いいたします」
ソフィア殿下はレイをじっくりと見つめていた。
「ほう…面白い身体をしているな……来たのが私の領土でなくて良かったな。来ていたならお前はバラバラにされてたかもしれないな」
「ふふ…出来るものなら、ですけどね」
ほう…ソフィア殿下にも強気だな……レイはかなり肝が据わってるな…
「おいレイ…ソフィア殿下はルファを仕切るお方だぞ。無礼な真似はよせ」
「いや、よいぞアンダルシア。ふふ…面白いやつだな。会談が楽しみだ。では私はシキと先に円卓で待ってるぞ」
そう言って先にソフィア殿下は去ってしまった。
「陛下、では我々も…」
「そうだな。レイ、ではついてきてくれ。エルシアには済まないが、円卓の外で待ってくれるかい?」
「はい。かしこまりました」
御目付け役としてついてきてくれたのに悪いな…。っと、言い忘れない内にと・・・
「エルシア」
「は、はい。何でしょうか…?」
「僕らは円卓の会談場へ向かう。君はここで待つことになるだろうが…」
「どうかしましたか…?」
「後にツキノメ帝国のツキヒメ・センラ女王が来るだろう…もし来たら……気をしっかりと持つことだ。わかったね?」
「え?あ、はい…気をつけますけど…」
「ああ。それでは気をつけるんだぞ…」
一応警告はしておいたが…心配だ。いくらここが戦闘行為を禁じる場所であろうと…彼女がそれを守るだろうか?ここに来る前に対魅了魔術はかけてはいるが…心配だ。
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コード国王陛下、アンダルシアさん、そしてレイは私を残して会談の場に入っていった。陛下の言葉…あれは多分…
「ようこそセンラ様」
「お久しぶりですねカゲツ。で、他の領主は?」
「既に円卓に」
「そう。セリス」
「はい♪お姉様♪」
っと、噂をすれば…ツキノメ帝国の女王様…ツキノメ・センラ様と御一行の到着だ。センラ女王に仕えてるのは…私たちの国が誇る人類種最強の騎士…そしてツキノメ帝国に実質奪われた帝国最強戦力の一人……セリス・スカーレット…私の憧れの騎士の一人だった人…
「あら?貴女のお名前は?」
「っ!…エルシア・ラグレイです…」
「あら…素敵な名前ね…ふふ…」
センラ女王は私に近づいてきて私の顎をさすった。
「…っ///」
思わず私は……興奮してしまった…なんて…とっても美しいんだろ…綺麗…
「ふふ…ではまた……」
「……はっ!あ、はい…また……」
と、センラ様とセリスさんは行ってしまった。
「君、やられてたよ」
突然私の後ろから声がかかった。セリスさんと同じ髪色の凛々しい少女がいた。
「貴方は…?」
「ユーリ。勝手に着いてきた護衛の一人さ。それにしても危なかったね。対魅了魔術を施されてたみたいだけど、センラ様の魅了魔術はそれを凌ぐものだよ。今回は軽めだったから良かったけど、本気なら君は既にツキノメ帝国の国民さ」
魅了魔術……そうだった…ツキノメ・センラは強力な魅了魔術を得意とする恐ろしい魔術師でもある。そのせいでセリスさんはツキノメ帝国の国民にされてしまったんだ…。
「次からは気をつける事だね」
「あ、ありがとう…」
ユーリという少女はスタスタとどこかへ行ってしまった。
この会談……前回も色々と荒れたという話だったけど…今回も…荒れそうな予感がした…