5話
「異次元の世界だと…?」
また聞き慣れない言葉を聞いた。騎士長としてあらゆる経験をしてきたが、そのような言葉は聞いた事も無い。
「あの…異次元の世界とかパラレルワールドとかって…何なんですか?」
私が聞こうとしてた事をエルシアが変わりに聞いてくれた。
「そうですねぇ…例えば…貴女。名前は…聞いてませんでしたね…」
「ああ…エルシアです。エルシア・ラグレイです」
「エルシアさんですね。ではエルシアさん。もし貴女が…元から男性、だったらどう思います?」
「へ…男の人に…?いや…私…女性ですし…わかるわけないじゃないですか。高度な魔術で性転換させられるならまだしも、元から男なんて…ありえないですもん」
「まぁ分かるわけないですよね。でもその『もし』…『ifの世界』ではエルシアさんが元から男の世界があるとしたら…?」
「あるんですか?私が男になってる世界があるなんて…」
「分かりません」
おい…
「分かりませんとはどういう事なのだ。ならその世界があると言うことを証明も出来ないではないか」
「そうなんです。だから私の世界である研究が進められていたのです」
「ある研究?何なんですかそれは?」
「異次元を観測する研究…異次元観測学です。多次元宇宙…平行世界の存在を証明する為の研究・実験です。そしてようやく平行世界を繋ぐことの出来る機械のプロトタイプが完成して、私はその実験の手伝いをしていたのですが…」
とても難しい事を研究していたのだろうが、いまいちピンと来ないな…。私が小柄な世界もあるのだろうか…。まぁいい。彼女の話から察するに…
「異次元の穴を発生させる事には成功したのですが…発生機器が暴走して制御が効かなくなってしまい……研究機関は崩壊。私はその穴に吸い込まれてしまって…」
「この世界に来たという訳だな。光の輪の正体はその穴というやつで、周囲の残骸はその建物の残骸と言ったところか」
「はい。気がついたら私は見知らぬ平原にやってきていました。見たことも無い生物。見知らぬ草花。私はすぐにここが異世界だということを悟りました」
「エルシア達を襲った理由は?」
「先遣隊の人達と会話をしようとしましたが、案の定言葉が通じず、恐らく戦闘に発展するであろうと予測しましたので、なんならいっそここで皆さんの脳内にある言語情報を読み取ってまずは会話ができるところからはじめようと思っての行動でした。多分、というより確実に間違った行動ではありますが……読み取りの際に脳に刺激を与えてしまうので…」
意外とゴリ押しな部分があるな…。それで他の兵士達は気絶していたのか……。エルシアが早く目覚めたのは、その言語情報の読み取りが浅かったという事なのかもな。
「今の私は、完全に次元を跨いだ漂流者ってとこなのです。穴は閉じてしまってますし、帰るべき場所も方法も無くしてしまってる状態です…言わばノーウェイホームです」
「ノーウェイホーム?」
「漂流者か…」
帰るべき場所を失い、自身に関わりを持つ物もいない…。それは辛いものだな。
「貴女としてはどうしたいの?」
「元の世界に帰るべきだとは思いますが…その手段もわからない状態ですし…何となくあまり長期に渡って異世界にいるべきでは無いと思うんですよね…」
「どういう事だ?」
「いえ…これはまだ仮説の段階なので…言うべきでは無いですかね…次元を跨いだケースなんてないし…この世界でもその事例は無さそうだし…うーん…」
またブツブツ言い始めたな…こいつの癖かというところか…。エルシアの方は…もう話についてこれてないみたいだな…
「とりあえず、お前は我々と敵対する意志はないのだな?」
「ありませんよ。敵対してメリットはないので」
「そうか…なら少し待ってくれ。国王陛下に謁見して牢から出せるように申し出をしてくる」
「あ、牢ならいつでも出れますよ?」
と、レイは扉に近づいて何事も無かったかのように扉を開けた。力技でこじ開けたのではなく、最初から開いていたかのように扉は開いた。
「え…」
「おい…どうやって開けた?」
「私の武器はナノテクで精製出来るので、それを応用して鍵を作らせていただきました。お二人が来るまでにちょちょいと…ね?ハンニバル・レクターみたいに閉じ込められるのは好きじゃないんで…」
いつでも出れたという訳か…しかも…
「何故その刀を持っている?そいつはこちらで預かっていたはずだが…」
「私の元に来るように瞬間移動させたんです。刀にはマーキングをしてますので、私のサイキック能力でテレポートさせたんです」
サイキック…よくわからんがこいつの世界で言うところの魔術のようなものか…。出てしまったのなら仕方ない。彼女も国王陛下の前へ連れていくとするか…。敵意がないのがありがたい事だが…国王陛下はどう思われるかだな…