15話
会談から4日後…
カルシファー社地下闘技場にて
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「ではアスカ、レイ。二人共に準備はよろしいですか?」
「ああお母さん!こっちはいつでも大丈夫だ!」
「こちらは問題ありません。むしろ身体がなまりそうでそろそろ実戦をしたかったところです」
私は首や手首を回しながら、レイはご自慢の刀を軽く振って答えた。
あれから4日。レイはお母さんの検査をずっと行っていた。どういう原理で力が発揮されているのか?原動力となるものは何か?レイの肉体的構造はどうなっているのか?そういったものを色々と調べた。けどそういう情報が漏れないようにされているのか、あまり正確な事は掴めなかった。魔術でのアプローチも行ったけど、レイの世界がどんな世界か知らないけど、それでも分からなかった。
お母さん曰く「長い時間をかければ分かりますが、あのセンラがそれを許してくれるとは思わないでしょうね。それでも可能な限りは尽くすつもりです」との事だった。
現状はレイを元の世界に返す手がかりは無いものの、少しでも何か掴める事があれば実行する。今回はそれも踏まえて実戦訓練を行う事にした。
「そういえばアンダルシアと戦って以来じゃなかったっけ?あの時はお母さんが言ってたやつで…確か…"岩土"とかいう鎧を着てたけど、それ以外のやつとかも見てみたいところだな」
「ええ。いいですよ。あれは戦闘よりも災害救助向けに多用してましたからね。今回は戦闘向けの装機を使わせてもらいますね」
「そりゃ楽しみだな。ここなら存分に暴れても大丈夫に設計してるから安心しな」
「それは助かりますね。聖国ではあまり暴れる事はできそうになかったもので」
レイは刀を構え、それに対して私も身構えた。
「……武器を持たないところを見るに格闘タイプってとこですかね」
「まぁな」
「では二人とも、始めて下さい」
私ジリジリと詰め寄る。レイは逆に間合いを取るようにゆっくり下がる。
「どうした?ビビったのか?」
「まさか。こちらは武器を持っている。それでも余裕でいられるという事は、私の武器に対して対抗出来る手段があると見ました」
「へぇ…ま、大体は当たりだな」
「様子見とかなしで最初からいきません?アンダルシアさんも早い内に軽く本気出してくれてましたし」
「…わかった。なら少し本気見せるか…」
お母さんも見てるし、ここいらでお母さんに私の成長を見せるにはいい機会かもしれないしな。
「すぅ〜…はぁ…」
私は一呼吸入れ、瞬間に全身に魔力を爆発させた。
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ほう…瞬間にここまで魔力を上げれるようになりましたか…
我が娘が一人…アスカが魔力を上昇させた瞬間、レイの目の前に急速に接近し、拳を叩き込んだ。レイは咄嗟に刀で防御するも、魔力によって身体能力を向上させた事もあって吹き飛ばされ、壁面に叩きつけられてしまった。
「うわ…凄い一撃…しかもあのスピード…流石ソフィア殿下の娘さんですね…」
私の隣でお目付け役のエルシアはアスカの力に驚いていた。
「当然です。私の娘ですから」
「はぁっ!」
「っ!」
アスカは追撃を仕掛ける。レイはギリギリで回避して再び距離を取った。追撃の関係で壁に軽くヒビが入ってしまった。やれやれ…あまりやり過ぎないで欲しいですがね…
「どうした?攻めてこないのか?」
「そんな事ありませんよ。ちょっと油断しましたけど、今度はこちらからです!」
レイは反撃とばかりに刀を振るった。それに対しアスカも拳を叩き込んだ。
「アスカさんもセラさんから魔術の指南を?」
と、隣で二人の戦いを眺めているエルシアが聞いてきた。
「アスカはセラと違って基礎的な魔術…特に身体能力向上させるようなものだけは教えました。あとは右腕のシキに戦闘指南はさせました。元々アスカは魔術よりも近接格闘術が得意そうでしたのでね」
実際にアスカは格闘の才能があった。レイの攻撃を躱し、捌くといった防御も難なくこなしていた。それに魔力によって身体の硬度も上げている為、並の武器では傷が付くことは無い。先程からレイの刀による攻撃を受けても腕が切り落とされるようなことはなく、軽く切り傷が付く程度に収まっている。
「どうした?お前さんの力はこんなもんじゃないだろ?早く出しなよ。装機ってやつをな」
「…仕方ないですね。じゃあ出しますか。まだこの世界に来てから出してなかったやつの一つを…装機、起動!『彗空』!」
掛け声と共にレイは翠色の装甲を身に纏う。背中には噴出機のようなものが装備され、腰には円盤のようなものが二つ装備されていた。そして刀は反りの部分には銃のようなものが取り付けられたようなものに変化していた。
「そいつが情報にない装機…」
「空戦兼侵攻迎撃型装機『彗空』です。ついてこれますかね?」
その瞬間、レイの姿が消えた。
「お返しですよ」
「っ!ぐっ…!」
アスカが気がついた時には既にレイはアスカの後ろを取っていた。アスカはレイの攻撃を受けてお返しと言わんばかりに壁面に叩きつけられてしまう。
あの姿…見る限りに空戦に特化した姿…そしてスピードに重きを置いた姿でもあるか…。
「は、早い…全然目が追いつかなかった…」
「ふむ…なかなかに興味深いですね…これは色々と調べがいがありそうですね」
「くっ…にゃろぉ〜…!」
「大丈夫ですか?」
「心配する余裕があるってか…ならこっちも出力マシマシだ!」
アスカの魔力が更に高まっていく。ほう…レイも気になりますが…アスカの成長も気になってきましたね。
「はっ!!」
「っ!やぁっ!」
先程よりも速く、鋭い一撃がレイを襲う。しかしそれに負けじとレイは高速で回避し、再びアスカの背後に回って攻撃をした。
「ぐっ…!なんの!」
ギリギリ何とか防御したようですが…アスカもあの速さにはまだ対応が出来ていないようですね。ですがアスカも相当の実力を持った我が愛しき娘。それに勝るとも劣らない力を持ったレイという存在…ますます興味が湧いてきますね。
「はぁぁぁっ!!」
「やぁっ…!…ぐっ…うっ…!」
お互い打ち合うも、防戦一方のアスカ。魔力を消費しすぎたようですね。先程から動きが鈍りを感じる。ですがそれは本人も理解しているはず。
「どうしました?守ってばかりではやられるだけですよ!」
「ぐっ…」
なるほど…攻撃を受けながら反撃の糸口を探しているようですね。
「これで…!」
「っ!」
とどめのひと振りがアスカを襲う。が、それはアスカにとっても好機とも言えた。
「そこだぁぁっ!」
右手にありったけの魔力を込めた一撃をレイの腹に叩き込んだ。間違いなく、その一撃はレイの腹部に入った。
はずだった。
「っ!?」
アスカの拳が、レイの腹をすり抜けたのだ。するとレイの姿が半透明になったと思うと、次の瞬間には消えた。
「ど、何処に…!?」
「ここです」
アスカの背後から声が聞こえた。そこには刀に備わっていた銃口にエネルギーを充填して構えているレイの姿があった。
「終わりです」
銃口から閃光が発射される。
「うわぁぁぁぁっ!!」
アスカは攻撃を回避できず、その攻撃を受けて吹き飛ばされてしまい、倒れてしまった。勝負ありですね。
「そこまでです」
私はアスカに駆け寄り、直ぐに治癒魔法をかけて傷を癒した。
「うっ…ごめんよお母さん…負けちゃったみたいだ…」
「そのようですね。魔力制御と底上げ、あとはシキに再び稽古をつけてもらうようにする必要がありますね」
「ははは…だよな〜…」
「まぁ…よく頑張りましたよ」
「あ、ありがとうお母さん…」
「レイもなかなかのものでしたよ」
レイは装機『彗空』を解除して近づいてきた。
「いえいえ。正直アスカさんの力が予想以上なものでこちらも熱くなってしまいました。凄い娘さんですね」
「アンダルシアさんの時よりも凄い戦いだったよレイ!」
あの戦いを見たせいかエルシアは少し興奮気味になっていた。
「まだまだとっておきのやつもありますから、その時また見せてあげますよエルシアさん」
しかしまだまだ余裕がありそうな態度なレイ…力もそうですが…底がまだ知れないところがありますね…。セラにも見せてあげればよかったな。
「とりあえず…今日のところはこれくらいでいいでしょう。本当はもう少しデータが欲しいところでしたが…」
「今日はレイも疲れてますし…仕方がないでしょう。まだ4日目ですし、時間はありますよ」
時間はある、か…。確かにエルシアの言う通りではあるが…それをあの女が黙って待っているだろうか…
私は一抹の不安を抱えるのだった。