12話
会談後…
「全く…相変わらず不愉快な人でしたね」
「はい。お姉様の言う事を肯定しないなんて…もし場所がここじゃなかったら…八つ裂きに…」
「ええ…ですがソフィアは私と並ぶ強者。もし戦うとしたら私が直接やるしかないでしょう。私の最高のコレクションであるあなたがあの生意気な女に傷物にされるところは見たくはないのですよ」
「お姉様…///」
「………」
ああ…またこの二人のイチャコラが始まった。ボクなんて、居ないもの扱いするように二人だけの空間が広がっていくのが目に見える。
あの会談の休憩時間の後からボクはアルトリス聖国のエルシアとセラから一通りの会談の内容について聞くことが出来た。センラ様とセリス様の二人に聞こうともしたが、恐らく教えてはくれないだろうと思ったからだ。
ボクは二人の遺伝子を使って生まれた、ある意味娘とも言えるが、従順に従わない出来損ないの失敗作である故、二人にとって目ざわりなものなのだ、ボクは。存在が許されているのは、セリス様に匹敵する実力。ただそれだけだ。なら反逆すればいいと思えるかもしれないが、ボクの心臓には呪印が施されてあり、それがセンラ様の意思一つで簡単に吹き飛ばせれる。故にボクにはここしか居場所は無い。
「馬車の準備が整いました」
「そうですか。ご苦労ですね」
それだけ言って用意をしていた馬車の中に二人は入っていった。目もくれなかったのは…まぁ…いつもの事と捉えるとしよう。
「では帝国へ向かいます。やぁっ!」
ボクは馬を走らせ、帝国へ向かった。
馬が鳴らす蹄鉄の音、木々の群れ。日が傾きかけているやや夕焼けの空、そして風。嗚呼…今のボクにはそれだけでも心地いい。今回の会議の道中、ボクにとって唯一の安らぎの時と言ってもいい。
故に少し気づくのが遅れた。一瞬だけだが、遅れた。
囲まれている。
周囲が草原地帯に入った辺りからだろう。生い茂った草むらの中に何人か伏兵がいたようだ。しかもそれなりの数いる。
「ッ!」
草むらの陰から矢が何本か飛んでくる。ボクは直ぐに馬を止め、腰に装備していた双剣を抜き臨戦態勢に入った。
が、その矢が届くことは無かった。何かに矢が弾かれたのだ。
「っ!?これは…」
矢を弾いた物の正体は剣型の暗器だった。
「ぐっ…ぐあっ!?」
「ひっ…ヒィィ!!」
「た、助け…がァっ…!?」
周囲から悲鳴の声が上がる。それと同時に肉体が切断されていく生々しい音も聞こえる。伏兵達はこちらに攻撃する所ではなくなった。草むらには伏兵とは別に何か蒼い閃光のようなものが走っている。そしてその閃光から繰り出される斬撃は凄まじく速く、周囲の伏兵達はみるみる減っていく。
「や、やめ…おうっ…!!」
「どうしてこんな…がァっ!!」
緑の草原が、少しずつ真っ赤な血で染まっていく。ボクはただ、伏兵達が惨殺されていく様を見ていくしかない。
最後の一人が這いつくばりながらこちらへ向かってきた。
「き、貴様ら…殺し…」
その先の言葉を言い切る前に、伏兵はその背中に閃光の正体である一人の女性の刀によってトドメを刺されてしまった。
「終わりましたか?アオイ。やはり別動で待機させておいて正解でしたね。まぁこのような下郎共が来ることは分かってましたが…」
見ることなく、雰囲気だけでセンラ様は察したようだった。
「はい、お姉様。お姉様に刃を向けようとする不届き者は全て皆殺しに致しました」
蒼い長髪サイドポニーの女性…ツキノメ帝国もう一人の最強…ラン・アオイ。ルファの頭領でもあるソフィア様の最強の右腕…剣聖でもあった方でもあり、そして裏切り者…いや、セリス様同様にセンラ様の虜になり、『コレクション』となった存在…
返り血一つ受けることも無く、彼女は荷馬車に向けて膝まづいて喜んで応えた。
「素晴らしいですよアオイ。見えなくても伝わってきます…貴女のセリスと同等の強かな戦いを…」
「ふふ…お姉様に褒めていただけるなんて…光栄の至りです…」
「最強の騎士のあたしだけど、剣士として最強の称号を持つ剣聖…ちょっと嫉妬しちゃうわ」
「さぁ…アオイ…こちらへ…貴女も私たちと一緒に帰りましょう…」
「はい…///お姉様…///」
そう言ってアオイ様も荷馬車へと乗り込んだ。
「行きなさい」
「…はい」
言われたままにボクは改めて馬車を進めた。
「お姉様…レイとかいう女…どうしましょう?」
「ふふ…セリス…貴女は何も心配しなくても大丈夫…直に彼女も貴女達と同じくコレクションに加わる存在になりますからね。その為の種は蒔いてますしね…ふふ…」
道中荷馬車の中から甘い会話が薄らと聞こえてくる。それと同時に感じる黒い意志も…
これから帝国は…そして世界は何処へ向かっていくのだろうか…そしてボクは…これからどうなるんだろうか…
ラン・アオイ
容姿イメージ:風鳴翼
イメージCV:水樹奈々