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第六回:危険な予感?大丈夫だけど安全じゃない

 ホバーカーは看板も案内も無いシンプルなビルの地下エントランスに入って止まった。


 硬く閉ざされたゲートに、パスコードを入れるテンキーと、カードリーダーのロックがついている。

 いつの間にかモニターグラスを付けたレッドちゃんがゲートの前に立っていた。あたしも一応持っているけれど、患部を直接見たいからカチューシャからおでこの前方を覆うみたいに表示画面が広がっているタイプで、上目遣いで確認するタイプ。対してレッドちゃんのは顔の前方額から鼻の辺りまで完全に覆うタイプで透過率はゼロ。これだと周囲が一切見えないから不便そうだけれど、聞いた話だとネットランナーは目で視界を確保しなくても、直接脳で視界情報が得られるんだとか。


 うむう、さっぱり想像が出来ない。んでも、他職業の専門的な内容なんてどんな職種であれ分からない事ばっかりよね。あたしがもげた腕の血管と神経を繋いでいる時に、どうしてそんな細かいものを元通りに出来るのかと聞かれた事があったけれど、出来るからとしか言えないもん。


 レッドちゃんは宇宙港についてから左耳にレシーバーみたいな機械を着けていて、モニターグラスもそこから頭頂部に伸びたアームにくっついている。使わない時は頭の上にスライド出来て便利なやつ。あたしのやつは一番お手軽お安いタイプなので、使わない時はポーチにしまうか、後前にして後頭部側に向けて置く事にしてる。


 レシーバーっぽいのはネットランナー専用のデータ通信システムらしいんだけど、情報通信以外にも色々な事をするのに使うらしい。

 脳科学的に詳しい所を知りたかったんだけど、なぜかグリーンの精密機器と専門機器の歴史と仕組みみたいな講釈が始まりかけたので、詳細は諦めたという代物。

 愛するレッドちゃんの事と謎の多いネットランナーの脳の秘密が知りたかっただけなのに、専門外の豆知識までぶっこまれても、ねえ。

 人当たりは良いのに自分の専門分野になると目の色が変わるグリーンはもうちょっと乙女心を理解すべきだと思うわ。ぷんすこー。


 レッドちゃんは上着のポケットから真っ白いカードを取り出して、レシーバーにコードで繋ぎ、ゆっくりカードリーダーに通した。カードリーダーのランプが緑に、続いてテンキーが自動で点灯し始めた。

 本来ならぽちぽちボタンを押さないといけないはずなのに、無作為の数字が自動的に凄い速さで点滅して、最後にパスコード確認の文字が出てゲートが開いた。


「ねえねえ、あれ、何やってたの? 魔法? 昔話のおーぷんせさみってやつ?」

「魔法ってなんの事だ?」

「知らないの? 魔法。愛と勇気と夢の冒険。剣と魔法と龍の物語。昔々の地球(テラ)、あたし達の母星の吟遊詩人や作家の作った珠玉の作品の数々……」


「グリーン、この訳のわからない妄想を垂れ流す女を任務から外していただけませんか?」

「僕にその権限はありませんよブルー。それに今後レッドさんが負傷した場合には、彼女の力が必要になりますしね」

「そうよそうよ、ドクターを粗雑に扱うと、後で痛い目みたりするんだからねー」

「ちっ」


 うわ、こいつ舌打ちしやがりましたわ。失礼なやつぅ。戦闘担当が一番ドクターのお世話になる事が多いんだから、敬意を持っていただきたいわ。


「見てなんとなくおわかりになりませんでしたか?」

「データ解析ってやつ?」

「おそらくそうです。電子回路に侵入しゲートのパスワードを解析したんでしょうね」

「おそらくっていうのは?」

「僕もネットランナーの能力について詳しい訳ではありません。レッドさんはあの通りなので、何をしているかはっきりはわかりかねます」

「そうね」


 そのはっきりわかりかねるレッドちゃんは、既にあたしの隣に座りセーフティベルトを装着している。


「先に進みますよ」


 ホバーカーは滑らかにゲートを抜けた。通って直ぐにゲートが閉まったので、閉じ込められるみたいでちょっと嫌な気分ー。


     ◆


 ゲートの先は短い通路ののち、地下駐車場になっていた。

 端の方の目立たない所に停車する。


 ブルーが一番初めに降りて、周囲を窺った。


「よし、静かに、速やかに、無駄口をたたかず行動しろ」


 と、偉そうな事を言う青。


 背中にしょった物騒な『何か』が気になるけれど、それが青の仕事道具なんだろうから突っ込まない事にした。ロケットランチャーみたいなのが刺さっている様な感じなのも気のせい、気のせい。みんな大きさはそれぞれだけど商売道具背負ってるから、他の人の物をいちいち気にしても仕方が無いもんね。

 ちゃんと守って貰えれば問題無いし。けど、口も目付きも悪いブルーがあたしをちゃんと守ってくれるのか心配だけどね!


 レッドちゃんはモニターグラスを付けたまま、壁の一画を指差した。

 ブルーが指示された部分をゆっくり押すと、そのまま壁が押し込まれ、通路が現れる。


 通路の広さは……横二メートル位?


 薄ぼんやりとした灯りが点々と点いている。

 これなら光源無しでも大丈夫ね。


 ブルーが先頭、あたしとレッドちゃんが横に並んで、後ろにグリーン。

 やっぱり可憐な美女は守られないとね!


 ちょっと残念なのは、折角のレッドちゃんの整った目元がモニターグラスに隠れて見えない事だけど……。必要なデータを映し出すモニターグラスを外せという訳にもいかないし。


「ねえ、これ何の通路なの?」

「非常通路ってとこだな。詳しくはレッドが知っているんだが、今は接続中だから聞くのは無理だ。ルートはクリアになっているから、俺について来れば大丈夫だ」

「ちゃんとついて行けば安全なのね」

「いや」


 殺気を帯びた視線をあちこちに投げかけ続ける青。印も何も無い無機質な壁がちょっと怖い。


「だって大丈夫って言ったじゃない」

「ルートはクリアになっていると言ったが、安全だとは言ってない」


 ……。何このいやんな言葉遊び。


 あたしはこめかみを抑えつつ、心の中で自分に言い聞かせる。

 大丈夫、大丈夫……って、安全じゃなかったら大丈夫じゃないしっ!


「つまり、非常通路の道順はわかるけど、途中でアクシデントが起こるかも知れないって事ね」

「そうだ。静かに、黙ってついて来い」


 うわぁ、偉そう……。


 けどここで「ついてかないもーん」などと言ったら本当に置いてかれそうなので、可憐なあたしは冷血漢にしたがう事にする。

 くすんくすん。


 ぽむ……。


「大丈夫」


 腕を軽く叩かれ、声の方を向くと、レッドちゃんがあたしを見ていた。


 きゃー! きゃー! きゃー!


「あ、ありがとっ!」


 愛のエネルギーが補充されたわっ!

 あたし頑張る!

 未だに何をするのかさっぱりわっかんないけど、レッドちゃんの為に頑張る!

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