第五回:初めての攻撃は間抜けな音とともに
結局、どこに行くのかはっきりわからないまま移動を開始した。
お船を宇宙港の待機エリアに残し、搭載してあった小型のホバーカーに乗り換えて空港ゲートを出る。グリーン自慢の最新型のホバーカーは、惑星ヘカテの綺麗な景色の中に延びるアウトバーンを滑らかに、キラキラ観光ゾーンとは思えない方に進んでいく。いやんいやん。
運転席にはニヤニヤと計器を眺めるグリーン。レッドちゃんによるオートパイロットプログラムが設定されているから運転手がいなくても平気なのに、緊急時対応と動きの確認の為に態々そこに座っているらしい。お船だけじゃなくて機械全般が好きなのね。
完全な行き先はレッドちゃんだけが知っている。
けれど、そのレッドちゃんから長文を引き出すのは難しいし、詳しく知らない野郎どもは状況に合わせて臨機応変に対応すれば良いと考えてるようで、疑問を持ってちょっぴりもやもやしているのはあたしだけという事がわかった。
なにこれ、意味がわっかんない。指示待ち人間は気が利かないって言われちゃうんだからねっ。
海岸線に沿って走っているから、波打ち際をきゃっきゃうふふ、おいでおいでまてまてー、あははうふふあははうふふ、つーかまえたっいやぁん、などとやっている不届き者どもが視界の端にちらちらしていて、遊びそこなったあたしとしては、実に不愉快至極なのだけど、隣にレッドちゃんが座っていて、刹那的に考えれば二人の距離は物理的ゼロの大勝利状況。
「複雑な心理だわ」
と、口を開いたあたしに、緑が声をかけようと口を開いた瞬間、
「軽度警戒態勢、小型追尾ミサイルを認識、着弾まで二五秒」
レッドちゃんの言葉に
「伏せろ!」
青が叫ぶと同時にあたしの可愛らしい頭をむぎゅっと座席に押し込んだ。
ばほふひゅしゅるるるる……。
何やら間抜けな音が頭上でしたと思ったら、
ぼきゅふーーーん!
と、さらに輪をかけたような間抜けな音が遠方でした。
「あにすんのよぉ!」
「周囲に攻撃性のある電波、電磁波、レーダー波、各種検知無し。データオールグリーン」
「同感です。自分の計器も安全を示しています」
明後日の方向を見ながら長く喋るレッドちゃんに謎の同意をする緑。
「何があったの?」
「わからなかったのか?」
「あんまりわかりたくないんだけど……」
「何かに攻撃された」
「何かって何よ?」
「それがわかれば苦労はねぇな」
「やだぁっ!」
あたしの質問に文句も言わず青が答えてくれたけど、何もかもはっきりしないし、それじゃ続けざまに攻撃される可能性だってあるんじゃない??
可憐な乙女に危機はつきものだけど、必ず助かるレヴェルにして欲しいものよね。ホバーカーごと木っ端微塵とか、お話にならないもの。
あたしはそーっと辺りを見回した。
これと言って気になるものは見えない。
けど、相手に気になるような状態で攻撃するようなおばかさんはそうそういない、はず。
「攻撃位置が特定出来ましたが、どうされます?」
「別に。何かあったら迎撃で」
「了解しました」
レッドちゃんにだけは丁寧なブルー。
あたし以外は何事もなかったかのように、ドライブを続行しはじめた。
……って、怖くないのかなぁ……無いんでしょうねぇ。
「大丈夫ですよ」
可憐な野うさぎの如く、辺りをきょろきょろ見回しているあたしに、グリーンが笑顔を向けて来る……って、何が笑えるのかさっぱりわっかんない。
少なくともグリーンの頭は大丈夫ではなさそう。
あ、そだ、お船を降りる前に全員の健康診断をしとけば良かった。
そすれば少しは安心出来たんだけどね。
主に頭とか頭とか、頭とか……。
「何か失礼な事を考えていそうな顔つきですけど……」
意外と鋭い緑。
「レッドさんとブルーさんがついていれば大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なのよぉ! あたしの美貌が吹っ飛びそうだったじゃない!」
「どこに美貌とやらがあるんだか……」
あ?
青野郎のおばか発言が小さく聞こえたけど、いつまでもうだうだやりあっていても仕方ないので、聞こえなかった事にする。
今は現状を把握するのが最優先よね。
んでも、おばか発言は許されないわっ、後で絶対仕返ししてやる。
「んで、ね、いい加減あたし達の置かれてる状況やらなんやらを、とっととちゃっちゃとさくさく説明してくれないかしら? あたしは断片情報しかもらってないわよ。レッドちゃんしか全体を理解してないって言っても、グリーンとブルーはあたしより状況を分かっているんでしょ?その分を聞こうとする話をしようとする度に、話の腰をばっきばきに折られてきたんだから」
グリーンを睨む。
相変わらずの当たり障りない、なーんか腹立つ笑顔。
「そうでしたね、話が途中でした。それで、どこまで話しましたっけ?」
一瞬よぎる殺意を抑える健気なあたし。素敵、可愛い、最高、頑張れあたし!
「いい? あたしが今わかってることを話すわよ。だからそれ以外知ってる情報を教えて欲しいの」
「わかりました」
「これはレッドちゃんが実践経験を積むためのプロジェクトです」
「はい」
「メモリーチップをお届けします」
「はい」
「んで?」
「はい?」
「はい? じゃないわよ。あたしは『でっ?』って聞いてるでしょ?」
「はぁ」
グリーンは気の抜けた声を出して、額を指でとんとん叩いた……がっくり、って感じで。
がっくりしたいのはこっちなのに!全く!
「ぜんっぜんわかってなかったんですね」
「そうよ。だからいいから早く話しなさいよ。この辺りまで聞くと話の腰を折られる様な事になるんだから」
「残念、時間切れだ」
青の声と同時に、急にあたりが薄暗くなった。