エピローグ:銀河帝国首都アルカイックにて
銀河帝国首都アルカイックの情報省、機密だらけの庁舎の最奥。
「報告は以上です」
アイディスは情報省の最高能力者である将軍の前に立っていた。
今回のプロジェクトではいくつかの問題が生じ、普段の落ち着いたネットランナー精査とは状況が異なっていた為、中佐の表情はいつになく緊張していた。
「行動データは全て追っていた。貴官の任務遂行に問題は無い」
問題無しと軽く手を振る将軍に対して最敬礼をし、アイディスは部屋から退出した。
◆
「これで全部か……」
「とても楽しそうですね。赤将軍」
情報省最高実践能力者こと、エナ・リーヴァン将軍の傍で一緒に報告を聞いていた男性が口を開いた。
「わかるか」
「一番のお気に入りの妹君、ですね?」
「ああ、実に面白い」
真っ赤な髪に真っ赤な瞳、エナ・リーヴァンは左の口角をほんの少しだけ、よく見ないと分からない程度に上げた。
ここにマナがいれば、レッドちゃんにそっくりと言っただろう。
必要以上に無感情、無表情、無口だが、完璧なプログラムを作成し、標的のプログラムを完膚なきまでに破壊する能力を持つレナ6に、マザーコンピューターはなぜか『辺境の落ちこぼれ』分類のドクターをマッチングさせた。
マザーの計算結果に疑問の余地はないはず……。だが、マッチング結果を最初に見たあのとき、さすがの赤将軍も目を疑った。
「落ちこぼれと組むハンデがレナ6を成長させたのか、この落ちこぼれが実は分類不能な異才なのか……。いずれにしても、今後が楽しみだ」
「これから彼らがどう成長するのか、楽しみに待つまでもなく、将軍なら幾らでも予想がおつきになるのでは?」
情報省の将軍であり最高能力者のエナは銀河帝国のありとあらゆるコンピュータを強制的に支配下におく権限が与えられている。
その気になれば、銀河中のコンピュータに超高度な予測計算をさせることも可能であり、例え誰かがブロックをかけたとしても、気付かれずどこまでも侵入出来る銀河帝国最強のネットランナー。
「精度が極高いとは言え、予測はあくまで予測でしかない。全ての未来を予め正しく計算出来るのなら、精査も何も必要なかろう」
「失礼致しました」
構わない、とエナリーヴァンは軽く手を振る。
それにしても……。
「同じロットなのに、感情にかなり個体差が出来たものだな」
今回のプロジェクトは同じロットで生産した妹達二十人について同じ構成のグループを作り、四つの惑星で同じ任務を行わせた。
当然惑星ごとに地形や建物に差異はあるが、些細なノイズにもならない。結果には影響していないだろう。
「次は実戦ですね」
「そうだな……」
『エスト』
銀河帝国中の人々からそう讃えられる最強のネットランナーは、己の脳に保管した妹達の行動データを何度も精査し、そして極小さく微笑んだ。
「今後どの様な反応が起こるのか。実に楽しみだな」
レナと同じ顔で同じ表情で。