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第十三回:お仕事終了したのに戦闘が始まっちゃったんだけど⁉︎

 しゅいぃぃん


 ちょっと可愛い感じの音を出して、乗ってきたホバーカーがあたし達の前に止まる。

 無人操縦で呼び出せるなんて便利ぃ。あたしの故郷には無人で動く乗り物は一台も無いから、暴走とかしないかなってちょっと怖いとも思っちゃうけど、レッドちゃんが呼び出したんなら安心。グリーンだったら……、うん、ちょっと()だ。


「はい、言いたい事もやりたいこともまだあるかもしれませんが、撤収しますので諦めて乗って下さいね」


 笑顔で促してくるグリーン。


「完全任務終了ってやつ?」

「そうです。お疲れ様でした」

「じゃあ、観光の番ねっ! あたしねぇ海に入ってみたいなー。観光惑星のビーチでゆったりなーんて素敵じゃない」

「残念ですが直ぐ帰ります」


 笑顔のまま、ホバーカーのドアに向かって手をひらひらさせるグリーン。


「はぁ? ご褒美は? あたしの人生初のバカンスは?」

「任務終了後は速やかに撤収だ。余計なトラブルを抱えずに済む」


 既に後部座席に鎮座する非情の暴力青野郎。

 隣には遥か彼方を眺める様な視線を漂わせて鎮座ましまされるレッドちゃん。


「早く乗れば宇宙港で、発艦前にお買い物くらいの時間は取れますよ。常識的な範囲なら僕がお金を出しますから」

「全速前進っ!安全運転でお願いねっ!」


 しゅるっと助手席に体を滑り込ませるあたし。

 ほんとはレッドちゃんのお隣が良かったけれど、グリーンのお財布で好きなだけお買い物出来るっていう魅力には抗えない。あの鬼軍曹青野郎を退かすのは、時間と手間が掛かりそうだし、あれこれやり取りした挙句、平気であたしを助手席に放り込んできそうだし。だったらお買い物、お買い物。


 うふふふふ。

 グリーンったら何て気前が良いのかしらぁ。ちょっとだけ良いやつ認定してあげよっかな。

 どうせ観光出来ないんなら、出来る範囲の楽しみをしっかり満喫すべきよねっ!


 広がる青い空、輝く海。

 行きとは反対側に見える浜辺には色とりどりの海水浴客。

 暖かな風に揺れるあちこちに植えられた南国っぽい木。

 そして此方に向かって来る、ぴかぴかした閃光……?


 ……って、せ、閃光ぅっ!


「伏せろっ!」


 ブルーの鋭い声に、あたしは反射的に頭を下げた。


 きゅぼぼっ!!


 往路では戦闘民族に頭を押し込まれたけど、復路で同じ失敗はしないっ!

 いや、それ以前に、往復で襲われるなんて冗談じゃ無いわよぉ!


 きゅぼっ!

 きゅぼっ!

 きゅぼっ!


 至近距離で剣呑な音。


「あにしてんのよぉ!」

「気にするな、頭を下げておけ」


 ぶしゅうぅぅ

 ぶしゅうぅぅ

 ぶしゅうぅぅ


 気の抜けた破裂音がちょっと離れたところから聞こえる。


「吹っ飛べ!」


 ばしゅうっ!


 いーやーだーっ!


「吹っ飛べって言っていいのは、吹っ飛ばされる覚悟がある仲間と一緒の時だけにしてぇ!」

「私は大丈夫ですが?」

「じゃあ、青と緑だけでお願いっ!あたしは吹っ飛びたくないからっ!」


 ぼしゅううぅぅう

 きゅきききききき

 きゅどーん


 後ろからさらに剣呑な音があぁぁあ!

 そっと座席から顔を上げると、後方で激しく燃え上がる何かが見える。

 あたし達のと同じような……ホバーカーみたい。


 と、その燃えるホバーカーから、炎に包まれ弾丸の様に走ってくる何か。

 って、さっきのバトロイドさんでしたー!


 炎の弾丸はあたし達にどんどん追いついて来る。

 きゃー! きゃー! きゃー!


「迎え討つ」


 ばっと飛び降りるブルー。


「ホバーカーを停めるから、ちょっとだけ衝撃に注意して下さい」


 グリーンが言うが早いか、ぐいっと回転、座席の隙間にぎゅむっと挟まるあたし。


「きちんと言ってから止めてよぉ!」

「ピンクさんどうします? 逃げても良いですよ。狙いは恐らくレッドさんでしょうし、離れれば安全なはずです。それにそもそもこれはミッションではありませんから、逃げても責任は問われません」


「はぁ?仲間を置いて逃げるとか、ばっかじゃないのぉ?」


 あたしの罵倒に首を傾げるグリーン。


「戦闘に巻き込まれるのは嫌いでしたよね?」

「あったりまえでしょ。何が嬉しくってわざわざ怪我人の生産場にとどまりたいと思う訳?」


 だいたい銀河一可愛いあたしが戦闘に巻き込まれて死傷したら、銀河にとっての大損失だし。


 つつっとホバーカーの後ろに回り込み、ブルーの戦闘観戦開始。

 何かあったらレッドちゃんと一緒に斜め後ろに見つけたプールに飛び込めば良い感じ。水も滴る大天使と、銀河美少年風レッドちゃん。やだ、素敵過ぎる!


「ではどうしてなんですか?」

「ドクターだからよ。当然でしょ」


 グリーンは運転席で頭を下げたまま。降りるという選択肢は無いらしい。そういえば、大切な僕のホバーカー自慢してたっけ。聞き流してたけど。乗ったままだと何が出来るのかしら?もし動かしたら隠れているあたしが大ピンチになるんだけど?

 あたしと同じく降りて回り込んで来たレッドちゃんが、真横からあたしの顔を覗き込む。間近で見てもかっこいい!しかも、あたしと一緒にいてくれるって事は、あたしを心配してくれてるって事でしょ?ふっふーん。


「ブルーだろうが相手だろうが、戦ったら怪我するじゃない。怪我人が出る可能性があるとわかっていて、どうしてそっから逃げられるのよ?あたしはドクターなの。銀河最高の医療者なの。辺境のドロップアウト組でも腕は確かよ。まあ、人様の命を握るんだから、自分の腕に自信を持てないやつはドクターなんてやるなって話だけど」


 ブルー達の戦闘は続いている。

 あいかわらず『何か』と『何か』が交錯してて、なにがなんだかあたしには理解不能。


 どっちが強いかもわからない。

 けど、あたしらを後ろに守っている分、ブルーの方が大変そう。


 そだ!


「ねえ、レッドちゃん。さっきみたいにあいつ、止められないの?」

「無理。もうやってみた。データ入力ができない」


 ええええぇっ!


「もしかすると、バトロイドへの行動命令を入力するための回路をわざと破損させているのかもしれませんね」

「多分、そう」


「じゃあ、あいつは今、自分の意思であたし達を襲ってるってこと? なんでそんなことを?」

「いえ、それは違うと思います。個人的な理由でバトロイドが動く事はまず無いですし、先ほどのネットランナーが命令を下したんでしょう」

「でも今、入力回路を壊してるって……」

「はい。恐らく、僕達を襲うための一連の行動命令をプログラム化して、インプットした後に回路を潰したのでしょう」


 てことは、あのバトロイドさんは今、自分の意思とは無関係に操られてるってこと?

 それじゃあまるで機械か何かじゃない。なんて酷いことを!


 ぴるるるるr……


 あたしが嫌な気持ちになっているその横で、グリーンの通信端末が着信音で震えた。


『中尉……ガガッ……ラウルルーディス、中尉……応答願います』


 雑音で聞き取りづらいけど……なんだかグリーンの名前を呼ぶ声が。


「こちらラウルルーディス中尉。そちらは?」

『中尉……リーヴァン少佐を連れて……ガガッ……すぐに離脱を』

「離脱? どういうことですか?」

『ガガッ……リーダーが命令無視……暴走……宇宙船システムを占拠……ガガッ……そこは危険です!』


 悲鳴に近い通信が途絶えたのと同時に、あたし達の頭上のお空が陰る。

 見上げると、そこには宇宙船。でっかい綺麗な虹色に輝くお高そうな宇宙船(おふね)。きれーって言いかけたけど、やたらと焦っているグリーンの様子からするとこれって拙い感じ?


「あれは……、帝国中央所属の宇宙船マクスウェル⁉︎ どうしてここに……⁉︎ 」

「自動運転されてる。ここに墜落する」


 驚くグリーンに、レッドちゃんが冷静に答えている。


 ……って、つ、墜落?墜落って、落ちてくるやつ?ええええええっ!


「もしかして、あれもレッドちゃんの『姉妹』が?」

「そう。遠隔操作してる」


 レッドちゃんがもう一度あのモニターグラスとレシーバーを装着する。

 そこから伸びるケーブルをホバーカーのコンソールに接続すると、ぴっという短い音とともに、コンソール上を無数の文字が流れ始めた。


「ホバーカーの無線ユニットでマクスウェルの通信チャネルにアクセスをかけます。そこから自動運転システムにトライできるはずです。レッドさんの力をお借りすれば、マクスウェルの制御を取り返せます」


 レッドちゃんの横で、グリーンが手際よく機器のスイッチを切り替えていく。

 顔青ざめてるけどグリーン。大丈夫かグリーン。緑が青くなってるけど、貧血の薬をあげたほうが良いかしらん?


 でもでも、レッドちゃんのことは信じてるからっ。

 さっきもレッドちゃんがデータ干渉してやっつけてるんだし。きっと墜落を止めてくれる!


 そんなことを自分に言い聞かせていたあたしは、ふと周りが妙に静かなことに気がついた。

 空を覆う宇宙船マクスウェル、それに気を取られていたからすっかり忘れていたけれど……、ブルーの戦いは決着したのかしら?


 あたし達のホバーカーから少し後方に離れた路上、振り返るとブルーがそこに立っている。

 戦闘で左腕がぶらんぶらんとちぎれかけているけど、なんとか無事みたい。


 でも……なんだろう。

 なんとなく、様子がおかしい……気がする。


「ブルー……?」


 あたしがその名前を呼んだとき、ブルーは無言で右手のヒートバスターをこちらに向けた。

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