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第十回:愛の力があれば重要機密も聞けちゃう

「それにしても、これってお届け物じゃぁないわよね」

「どうしてですか?」


 アイディスさん達が引き上げた後、あたし達は安全確認した部屋に居座り簡易食で休憩を取る事にした。

 食事といえば、楽しい会話、あたしはグリーンに話を振ってみた。任務が無事終わったからなのか、落ち着いて答えてくれる余裕は出来たみたい。間違えて宇宙船(おふね)とか機械関連の話を振らないようにしながらね。


「普通、スタートとゴールは違うものよ。場所は違ったけど、同じ人に会うなんておかしいし、つまんないわ」

「仕方が無いですよ。僕達は与えられた任務遂行が目的ですから」

「うぅむぅ。任務って言われたら何も言えないんだけど」

「大事な意味はあるんだぜ」


 仏頂面で黙って不味そうな糧食ブロックを食べていたブルーが会話に入って来た。

 みゅ?ついに可愛いあたしとお話ししたくなっちゃった?なっちゃった?でも残念、あたしは可愛いお嬢さんをぶん投げる悪魔とは仲良く出来てもお友達止まりなんだから。


「レッドからみたデータ収集が出来るだろ」


 自分の名前が出たレッドちゃんを見れば、あたしの淹れた紅茶をゆっくりとちびちび飲んでいる。


「美味しい?」


 あたしの問いに、首を傾げる。

 何を考えているのか、やっぱりよくわかんない。

 けど、きっと色んな事を思っているんじゃないかな。健康なら味は分かるはずだし、美味しいかって聞かれた事が無いのかも知れないわ。レッドちゃんと青は宇宙港でケーキを食べた時、レッドちゃんはとにかく糖分が高い物を、ブルーはカロリーが高い物を選んでいたし、自分に必要な栄養素を効率的に取れれば良いって感じだったもん。

 でも大丈夫。あたしが一緒にいる限り、美味しいって言える生活にしちゃうんだから。


「レッドさんが反応を返すのって、凄いと思いますよ。僕達三人は一緒に試験プログラムに取り組んだり、訓練場でチーム行動をしましたが任務外の反応は殆どありませんでしたからね」

「やっぱ、愛の力よね。二人は運命の恋人なんだわ」

「はぁ?運命とか何度聞いても訳わかんねぇ」


 確かに、『自分の伴侶』って概念がそもそもわからないっぽいブルーには意味不明な話よね。


 あたしは出生管理を『悪』だと思っている。『好きな人同士の恋愛』を愚かな物だと決めつけているから。恋愛から子供を授かって、家族として生きていくのが、人として自然な事だと思うんだ。

 お互い相手も知らないまま、二人の遺伝子を持った子供が知らないうちに知らない所で出生育成されて、パートナーにも子供にも死ぬまで会えない、会ったとしてもパートナーとも親子だともわからないなんていうシステムが、効率と言う名の下に銀河中で行われている事が嫌だ。


 でもこれは、あたしが辺境でかなり自由に生活しているから考えられる事で、公言したらかなり危険。反乱思想の持ち主だとされて、捕まるのは必至。


 だからあたしはとりあえずにこにこしておいた。


 ブルーは別に追求もして来ず、あたしの方に顔と体をきちんと剥けてくる。少しは話をする気になったらしい。相手の顔見て話すの大事。


「レッドがどうやってシステムを破ったかは、メインコンピューターが全て記録してるんだが、レッド自身がどういう演算をしたのかは表に出てないからな、メモリーチップにはそれが記録されてんだよ。他には、レッドの視点から見た俺達の言動、戦闘時の動きなんかが映像データと音声データで記録されてる。で、メモリーチップの内容をメインコンピューターが精査して成果を判断するんだ」


「えー? じゃああたしとレッドちゃんのラヴラヴ会話も?」

「危険思想発言じゃなけりゃ抜き出されないぜ。そんなの情報省としてもいらねぇからな。メインコンピューターは高速で膨大なデータを取捨選択出来るから、浮かれた桃色頭の言葉なんかあっという間にゴミだ、ゴミ。第一、あたしとレッドちゃんって何だよ。桃色頭が一人で騒いでいただけだろうが」


 危ない。情報省にあたしの愛がだだ漏れになるかと思ったわ。けど、ゴミっていうのは失礼よ。愛は宇宙を救っちゃうんだから。それにあたしとレッドちゃんの間には切っても切れない愛と絆だってある、きっと、多分、恐らく……。


「つまりだ、どういう結果でも関係ねぇってことだ。どうやったかの過程が大切なんだよ」

「ふむぅ。よく分かんない」

「単に、情報省が用意したハッキングやクラッキングが必要なチェックポイントがあって、そこをどうやってレッドが攻略したのかを知りたかった、って事だな。俺は専門外だからよく分からないが、パスワードを持っていない状態で隠し扉を開ける場合、パスワードを手に入れるか、認証パスワードそのものを変えてしまうか、防衛プログラム自体を変化させるかってな感じで、沢山の選択肢があるんだ。パシワードを手に入れる方法だって一つじゃない。無数にある方法の何を選んでどうやったのかっていう試験だ」

「つまりメディカルテクニックで例えると、腕が取れちゃった人がいて、その腕を元通りにくっ付けるか、元通りには動かないけど本人の腕をくっ付けるか、腕は諦めて止血してその後サイバネティックアームや義手をつける方法を選ぶかって事かしら?ドクターの力量で選べる範囲は変わるし、怪我人をどこまでフォロー出来るかでその後の処置も変わる、みたいな」

「そうだな」


 成程、成程。

 情報省がレッドちゃんに目的と目的地を教えてそこに着くまでにあれこれ難しい、のかはあたしには分からないけど、多分試験なんだから難しいプログラムをレッドちゃんが攻略してゴールに到着するまでにやったネットランナーのあれこれの入ったメモリーチップを渡しておしまい。

 

 うん、何となく理解した、けど……。


 だとすると、何かおかしくない?

 情報省が管理した任務なのに、無駄な攻撃が多かったよね。あたしのイメージかもだけど、アイディスさん達は情報の専門家なんだから、物理的トラップやら火器による直接攻撃とは結びつかない。

 戦闘の動きも記録してるって事だけど、レッドちゃんがどういう演算をしたのか、グループメンバーがどういう言動をしたのかが重要なんでしょ?レッドちゃん達は三人で訓練をしているけれど、あたしは念の為メンバーに入れられた素人。それなのに危ない攻撃をするっておかしいもん。それとも中央は戦闘職じゃない素人にも実戦と同じ攻撃をするの?


「じゃあ何であたし達が襲われたの?それも演習?」

「それなんだけどな」


 ブルーはあたしから視線を外した。


「ブルーには答えにくい話ですよ」


 グリーンが言葉をつなぐ。


「ブルーは主観で話すのが得意ではありません。僕もピンクさん程得意ではありませんが。ブルーにとって最重要な事は戦闘結果を出す事ですから、憶測や推測は基本的に禁止事項に抵触する事が多いんです。さっきのお届けものは目の前でデータを渡したから説明出来たんです」

「えー、勿体なぁい」

「勿体無い?」


 あたしの感想に驚きの表情を見せる青緑。

 レッドちゃんもあたしを見つめてくる。いやん、ラヴラヴ。


「戦闘能力が高い人の推測は大概あたるわよ。というか、その道のプロの推測はほぼ正解。あたしだって病人を診れば原因がわかるし、グリーンだって機械をみたら結果を出せるでしょ?戦闘のプロであるブルーが思いついたんならあってるんじゃない?それが答えにくいなんて、せっかくの可能性を潰すみたいで勿体無いと思ったのよ」


 三人それぞれが、それぞれなりの笑顔になった。


 ブルーは悔しい様な、苦笑。

 グリーンは大きな笑み。

 レッドちゃんはほんのちょーっとだけ、口角が上がった。


「せっかくだから言ってみてよ。辺境惑星の住人のあたしは、推測も憶測も気にしないで話をきくから、ね?」

「そうですね、僕もピンクさんの考えにのりますよ。話してみませんか?」

「グリーンのそれは命令ですか?」

「違いますよ、ただ聞いてみたいから」

「……」


 さあ、早く色々な憶測やら、真相やら、推測やら、思いつきを話すのよぉ!

 そう! 今あたしに必要なのは、情報と面白さ!

 ずっと仲間はずれだったあたしに、楽しいお話タイムと答え合わせをぷりーず!


「恐らく、俺達とは別のチームが攻撃して来たんだと思う」

「はぁ??別のチームってなに?」


 思ってもいなかった言葉。

 別のチーム?

 あたし達のお使い……。お届け物。


「そうでした。ピンクさんは、状況が全くわかっていなかったんですよね。僕がわかる範囲で説明しますよ。僕は最初に、これはレッドさんの為のプロジェクトと言ったと思います」

「そうよ。だからあたし、愛の天使として頑張ったんだから」

「ピンクさんが愛の天使かどうかはわかりませんが……」


 わかれ。理解しろ。

 そこ激烈に重要なとこだから。


「正確には、エスト遺伝子精査プロジェクトと言います」

 エスト遺伝子……。


 そういえば、レッドちゃんが呟いていた。

 エスト、エスト、エスト。


「ここからの話は結構重要機密にあたるので、他所で話さないで下さいね」

「ちょっと待って!重要機密を聞いても良いか、自分に問いかけて見るわ」


 ふむぅ。


 軍の情報機密を知るのは、ちょっと危ない。

 否、かなり危ない。

 いや、激烈に危ない。


 けど、愛するレッドちゃんの置かれている状況を理解すべきか否か?

 それは命を掛けられる事なのか? どうなの自分?

 ちらっとレッドちゃんを見ると、自分でお代わりの紅茶を注いで飲んでいる。


 ……、よし!


「おっけー、聞きましょう。重要機密。命があれかも知んないけど、聞かないとあたしの知的好奇心と、レッドちゃんへの想いが中途半端で気持ち悪い事になるわ。あ、でも、一緒にいる間は、あたしの事は守ってね。お願い」

「いや、僕に言われても専門家じゃないので、安全保障は出来かねますが、ブルーが何とかしてくれると思いますよ」


 かなり頼りないお返事をいただくあたし。

 しくしくしく。


「別れるまでは安心しろ、命は保証する」

「ええと、命の保証だけじゃなくて、身体全体を守って欲しいとこなんだけど……」


 人間って意外と結構丈夫だから、ちゃんと最後まで健康元気な状態でお願いプリーズ。

 腕やら足やら、あちこちもげちゃった後で『命は守っただろ』なんて言われたく無いし……。幾らあたしが凄腕のドクターでも、自慢のメドテクは自分に適用出来ないもん。両手が無事なら自分の足がもげても治せるけどね、もげた時点でショック死したり気を失ったらそれまでだし。


「大丈夫ですよ。こう言ってますけど、ブルーは優秀だし、ピンクさんの事、嫌ってないと思いますよ」

「そうは見えないけど……」

「えっと、好きかどうかはわかりませんが、嫌いでは無い、筈です、多分恐らく、でも任務には忠実ですから」


 まあ、ブルーの職業意識が高いのを祈るしか無いわね。くすん。

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