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第八回:知らなくても従える二人と知りたいあたし

「ピンクさんは意外と体力があるんですね」

「まあね。辺境惑星のドクターはやる事いっぱいあるもん。小惑星群のあっちこっちに出張診察に出ていたし、体力が無いとやってらんないわよ。帝都ではどうかしらないけど、日常的に力仕事もあったし薪を運んだりもしてたもん」

「たきぎ? ……って何ですか?」

「知らないの? 燃やすの。木を拾って来て燃やすの。レンガで作った大きなドームの真ん中で燃やすと、中がいい感じにあったかくなってね、温熱治療が出来るんだけど」

「全然想像が出来ませんね。第一、居住用惑星に木が落ちているって言うのがわかりません」

「そうみたいね。あたし、今回初めて実物のアルカイックを見たけど、必要な人工物しか無くってびっくりしたもん。このヘカテの自然も、元々の自然を利用した人工物でしょ?」

「その方が安全ですからね」


 あたし達は襲撃者を警戒しつつ、入り組んだ非常通路を進んで行く。

 状況に余裕が出来たのか、グリーンがあたしに話しかけてくれている。ちょっと鬱陶しいけれど、同じ仕事をするグループになったからには会話は必要よね。


 一応気を使ってくれているのか、それとも遅ればせながらあたしの可愛さに気がついたのか。


「ところで、いい加減今回のプロジェクトの話を教えてくれないかしら?」

「そういえば、まだ説明途中でしたっけ。今度こそ最後まで行くと良いですね」

「他人事みたいに言わないでちょうだい。勿論、グリーンとあたしは運命の交わらない関係ではあるけれど、縁があって行動を共にしているんだし、可愛いレディを慮るのは当然じゃない?」


 グリーンはちょっと驚いた様な顔をした。


「ピンクさんは本当に自分に自信があるんですね。自分の事を可愛いというなんて、アイドル職についている人達か、子供だけだと思っていましたよ」

「はぁ?自分以外の誰が自分に対して絶対の自信を持つのよ?自分に自信が無かったら、誰が自分の心を支えてくれるの?最終的に絶対的に頼りになるのは自分しかいないでしょ?勿論根拠の無い自信はおばかさんの考えだけど、あたしは自分がいつでも良い結果が出せる様に頑張ってるもん。今回の事は巻き込まれて不本意だけど、その時その時で出来る事をやるしかないもん。あたしは自分の顔も考えも可愛くて素敵だと思ってるけど?」


「成る程、自分を認めてそれを力にしていると。素敵ですね」


 真面目な顔で頷くグリーン。


 ……って、そんな事より。


「早くプロジェクトの説明をしてよね」

「そうでしたね」


 ったく、この不毛なやり取りを何回やれば気が済むのよ。


「最初から簡単に話しますね」

「わかりやすくなる簡単さなら大歓迎よ」


 ふふっと笑うグリーン。

 なんだかちょっと打ち解けたかも?ニヤニヤ笑いじゃなくて、普通に笑ってる。


「レッドさんをリーダーとする作戦遂行グループに、ピンクさんは参加しています。この辺は説明しましたね」

「一番最初にね。あたしが知りたいのは具体的なとこ。メモリーチップを届けるのも聞いたけど、その辺を詳しく知りたいの」


 グリーンは首を傾げた。


「詳しく知る必要がありますか?」

「はぁ?」

「やる事がわかっていれば充分じゃないですか?」


 ……違和感。

 そう。あたしが感じていたそれの理由がわかった。


「もしかしてグリーンもブルーも自分のやるべき事しか知らないの?詳しくはレッドちゃんが知っている。二人は大まかに知っていると思っていたけれど、実際はそうじゃなくて、グリーンはメカニックとして必要なサポートをする。ブルーは襲撃とかに対応する。その場その場で状況に対処する、それだけで動いてる?」

「まあ、基本的にはそうですね」


 『どうしてこんな事をしているのか』『メモリーチップをどこに届けるのか』『依頼人は誰なのか』『どれ位で終わるのか』


 あたしは色々知りたいけれど、二人はそんなの気にしていない。

 寧ろ、自分のテリトリー以外を気にするあたしの思考は、二人には思いもつかないもの。

 そして、その考え方の違いに違和感を持たない二人。

 人としての個性はある、けど、個人の欲求が薄い……。そんな感じがする。


 首都に住むエリートと、辺境の純粋な乙女は、成育環境や教育の内容が違うって事よね。

 まあ同じ訳が無いけど。

 特に希少職のレッドちゃんと、がちがちの軍人のブルーは自分はどうしたいかなんて、考える余裕は無いだろうし。


 根本的にあたしがこのチームに入った事からしておかしいんだと思う。

 けど、帝国ご自慢のマザーコンピュータがミスをするだろうか?


 あたしがここで疑問を持っても、それは解決しないものだし、取り敢えず現状を解決しないとだめよね。

 ……。現状が理解出来てないけど。


「あたしはね、あたしがやる事全てをわかっていたいの。その必要があるの。あたし自身がわかってないとね、気持ち悪いの。理屈とか関係ないから、性格の問題だから、納得してもらえないだろうけど、あたしという人間がそういうものだと思って諦めて説明してくれる?」


 グリーンはびっくりした顔をして、それから笑顔になった。

 会ってから常に浮かべていた愛想笑いではなく、楽しそうな笑顔。


「先にも言いましたが、行き先を知っているのはレッドさんだけです。メモリーチップを持っているのもレッドさんで、どこにしまってあるかは僕もブルーも知りません。僕が知っているのは、この任務が然程危険では無い事。レッドさんと僕の安全は保証されている事。ピンクさんの腕が振るわれる事は無い、つまり大きな怪我や事故が起こる事は無いと思われる事。メモリーチップを届けたら、僕等が攻撃される理由が無くなる事位ですね」

「ふぅぅん……。って、さっき結構本気で襲われたじゃないっ??思いっきり景気良くミサイルみたいなのが打ち込まれて、さっきは爆発とかあったじゃない??それでもレッドちゃんとグリーンの安全保障されてるって??安全なメンバの中にあたしが入ってないじゃないっ!可愛い!銀河的に可愛い!あ☆た☆し☆のっ!あたしの安全はどうなってるのよぉ??」


「それは……」


 ちょっと言い淀むグリーン……まあ、予想はつく。


「あたしは取り替えがきくもんね」


 エリート中のエリート、ネットランナーのレッドちゃんの命は最上級。

 機器の専門家のグリーンはお船全部の設計プログラム出来るって言ってたし、マルチタイプのメカニックは大切にされる。しかも、話しぶりからいいとこのお坊ちゃんっぽさが溢れている。


「僕はそんな事思っていませんよ」

「ありがとー。でも辺境のドクターの代わりなんて掃いて捨てるほどいるわよ」

「マザーコンピュータがレッドさんとあなたを結びつけたんですから、そんな事は無いかと」


 結びつけた……。


「そうよねっ!運命の出会いよねっ!」

「さっきからごちゃごちゃうるせぇな。少しは黙れ。先ず声がでかすぎる。桃色頭が吹っ飛ぶぞ」

「きぃぃ!うっさい青っ!」


 あたしの天使の囁きの様な声に文句をつけるなんて、耳がいかれてるに違いないわ。


「もう、目的地」


 レッドちゃんが進行方向を指差した。

 そしてその指を口の前に移動。


 静かに、のポーズ。


 素敵ぃ!

 あたしは勢いよく頷いた。

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