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7/12

血の巡りじゃないんですか?


朝から私は頭を悩ませていた。

原因は昨日の”頭が固くて真面目”なあの人である。


普段学院への行き帰りはいつも馬車で校門まで乗せてもらい、そこから歩いている。

うちは割と裕福なので個人で御者を雇い馬車を出しているけれど、そうでない人は送迎馬車に皆で乗り合わせて来ている。



まぁ、そんな事はどうでもよくて・・。


問題はサレッティさんの事だから、昨日のように馬車まで今度は迎えにくるのでは?という事。お姉様は最近、私と一緒に帰っていないから昨日の事は勿論、知らない。だけど、迎えに来られてしまえばすぐにお姉様が気が付く。


(別にいいじゃない)


そう思いながらもまた面倒ごとが起きそうな気がして何となく憂鬱なのだ。

でも本当は・・サレッティさんに軽蔑の眼差しで見られたくないだけかもしれない。


色々決心したってすぐに心というものは揺らぎ、自身がこうありたいと思っても簡単に塗り替えられてしまう。


他人にどう思われようとも良かったはずなのに自分はこんなにも弱い人間なのかと自分に嫌気がさす。


心を強く持たねば。ー大丈夫、大丈夫。






いつも通り馬車に乗れば「遅いわね、さっさとしてよ」と文句を言われたので「ごめんなさい」と謝ればお姉様は満足げだったので安心しながらも、到着時の事を考えて思わずため息が漏れる。





そして到着して馬車を降りれば、意外にもサレッティさんは停車地に居なかったのでホッとした。お姉様はいつも通り先に行くので私もいつも通り3分程待ってから歩き出す。するとどこから現れたのか「おはよう、ラフィトスさん」と真面目な顔のサレッティさんは当たり前のように荷物をすっと持ってくれた。



「お、おはようございます、サレッティさん。・・一体どこから・・?」


私が思わずびっくりしてそう聞けば、あぁとサレッティさんが指をさす。

校門の中には大きな木が植えられていて、そこにベンチがあるのだ。どうやら、彼はそこに座って私を待っていてくれたらしい。



「あ、荷物ありがとうございます・・それに待たせてしまいましたか・・?申し訳ないです。」



「いや、これくらいさせてほしい。それにそれほど待っていない。むしろあの場所は思ったより心地が良い。君のおかげで良い場所を見つけられた。」


当たり前のように、彼は至極真面目に言っているからこそ、なんて事ない言葉一つで私は心を揺さぶられてしまうのかもしれない。


「サレッティさん、私のおかげじゃないです。サレッティさんが偶然見つけた良い場所ですよ、ふふ。でも、ありがとうございます。」


「?・・そうなるのか?」


サレッティさんは少し首をかしげて思案しながら何となく納得したようだった。



「良かったら、今日の予定を聞かせてくれないだろうか」


「あ、はい。私は基本的に魔法科で授業を受けています。お昼休憩は食堂でご飯を買ってから、お気に入りの場所で食べています。午後休憩もそのままお気に入りの場所にいるか、図書室へ行くかの二択です。」



「なるほど、お昼休憩の買い出しは俺に任せてくれ。人混みの中、君を行かせるわけにはいかない。お気に入りの場所は俺が一緒でも、大丈夫だろうか。」



「えぇと、それはとてもありがたいんですけど・・サレッティさんこそ、あの人混みの中を買いに行けますか?お気に入りの場所は勿論、大丈夫ですよ」



食堂は中々人が混み合っていて、実は買いに行くのが苦手な私はサレッティさんがその中を買いに行く姿が想像出来なかった。顔色一つ変えずにあの中を歩くのかしら?と考えて少しクスっと笑えた。それに、お気に入りの場所まで送ってくれる、という事だろうか?と考えて、本当にとても律儀な人なんだなと思った。



「あぁ、心配無用だ。俺に任せてくれ。ではまた迎えに行く。」


「・・っ!」


サレッティさんがニコっと笑って言葉を残し、去って行く背中を見ながら頬を抑える。

すぐにサレッティさんが去ってくれて良かった。

・・サレッティさんの笑顔があまりにも破壊力がありすぎて、ドキドキとやけに心臓がうるさく聞こえた。

教室の前で私は熱くなってしまった頬を冷やしてから中へ入った。


この何とも言えない高揚感はきっと、自分に向けられる人の笑顔に慣れてないせいに違いない-。






◇ ◇ ◇



「そういえば、ラフィトスは魔力を感じた事はあるのか?」


授業中、久しぶりに先生から話を振られて内心で驚きつつも、うーん・・と考える。


「魔力とはどんな風に感じるものですか?」


他のだれかと違いを比べた事もない私にとっては、何が違って何が当たり前なのかが解らなかった。


「ん、確かにそうだな。魔力とは体内に流れているものらしくてな。少し早いが魔力について今から説明するとしよう。」




先生曰くー


魔力とは体内に流れるものであり、心臓を中心に動いているらしい。

要は血液のように身体に流れているのだと思えば良いらしい。

まず、最初は魔力感知。次に魔力操作。そして魔力放出。

昔の人々はこの基礎鍛錬を欠かさず行っていたのだとか。

そうすることにより、自身の魔力保有量が増加し更には魔力の質、魔質が上がるらしい。


「・・つまり、今からもし私がそれを行えるなら・・」


「あぁ、良い鍛錬になるだろう。やっておいて損はないはずだ。だが、魔力感知が問題だな。昔の人々はそれらを当たり前のように行っていたから、簡単にしか書いていない。血液と同じように流れている魔力を利き手の人差し指にまずは集める。」


「確かに自身の血液の流れは解りますけど・・魔力の流れは・・」


「!?自分の血の流れがわかる?身体でか?」


「?はい、手や足先が冷えているときは流れが悪いので、意図的に流れを変えて・・ってやりません?そうすると、温まりますよね?つまりそういう・・」


先生が驚愕したまま固まっている・・。


「え・・?先生・・?」


「はっ!次元が、じゃなくて。いいか、ラフィトス。普通の人間は全身の血の流れを頭で理解する事は出来ても身体で理解する事は出来ない。つまり、自分では解らないんだ。ふつうは。」


「え、でも・・」


「多分、今感じているのが魔力なんじゃないか・・?」


先生も私も思わず見合ってごくりと喉を鳴らす。


「・・指先、でしたよね。」


「あ、あぁ・・!利き手の人差し指だ・・!」


「いきます・・」


二人でじぃっと私の左手の人差し指を見ている光景は中々シュールな絵面だろうと思いながらも普段から感じている流れを人差し指のみに集めていく。イメージは人差し指の先にふわっと光体を作る、そんなイメージ。


「!!!ら、ラフィトス!!光ってるぞ!!指先!!光ってる!すげえ!!」


先生は思わず素が出てしまう程に驚き、私も思わずぽかんと間抜け面になってしまう程には驚いてしまっていた。


「・・こ、これが・・魔力?」


「そうだ!これを日々鍛錬した者はどんどん色が変わるらしく、色によって魔力の質が解るらしいぞ!えぇと・・確か・・」


先生は必死にページをめくり、あった!と指をさす。


「これだ!鍛錬し磨けば磨くほど魔力の質は上がり魔力量も自然と増える・・魔力の最初の色は黒・・ラフィトスのは淡い・・オレンジ・・か?えぇと黒、青、緑、黄、赤・・?つまり、黄と赤の間・・?もうそんなに鍛錬していたのか!」



「ま、まさか魔力だとは思っていなかったので、小さい頃から寒いときはこの流れを利用してました・・っ、血の巡りが良いと身体が温まるって聞いたことあったので・・これが血の巡りなんだと思って・・」


先生がまた、はあ?!と驚きで声を上げる。


「おま、そんな訳ねーだろっ、どんな幼少時代だ!ってまぁいい、えぇと、素質がある者でもオレンジは・・平均、37歳って書いてあるぞ・・ムリな鍛錬をすると気絶・・もしかして・・お前・・」


先生はそう言うと何をしたんだ?と言わんばかりの眼で見てくるので私は乾いた笑い声で誤魔化した。


「・・あ、はは・・そういう事だったんですね・・」


小さい頃、よく身体を温めては倒れる事もしばしばあった。でもその時は原因不明だったので、寒すぎのせいか、身体が疲れていたのか、くらいにしか考えてなかった・・。


「魔力が流れているのがわかるなんてすげぇな・・あーー羨ましい!・・・しかも、もう魔力操作出来てるし、今日で魔力放出も覚えただろ?・・まてよ?魔力放出していなくても魔力の質って上がるんだな・・。てことは魔力操作で・・それじゃあ魔力量は・・」


先生は天を仰いで顔を抑えたままひたすら羨ましいを連呼した後で、今度は何やらぶつぶつと独り言を言い始めたので何となくいたたまれない。


はーーと長い息を吐いた先生が私の方を見て「今度、コツとかあるなら教えてくれ。俺もそれやってみてえし。」と言う。



先生、喋り方が大分変わってますよ。と思いつつも私は「勿論です」と答えたものの、先生は未だ真剣な表情だから私が黙っていると先生の考えを教えてくれた。



「これは、俺の考えだから間違っているかもしれない事を前提に聞いてほしい。もしかしたらお前の場合は魔質が高い事は証明されたけど、魔力量が少ない可能性がある。魔力操作を当たり前のようにこなしていたからこそ、魔質が上がったんだと思うんだが、そうなると放出という鍛錬は魔力量を上げる為に行っていたんじゃないか、って。」



「あ、なるほど・・。凄く的を射ている気がします。」


「鍛錬にどれも無駄なものなんて無いハズだし、きっと効率の良い方法だったとも思うからな。魔力感知だってしっかり鍛錬する事で、自身の魔力の残量が常に解るようになるとしたら、自分が倒れないように管理できるようになる・・。戦いにおいては大事なポイントだよな・・。」


先生は腕を組み、顎に手をあてながらうんうんと頷き本には書かれていない事を考えているようだった。



「因みに前に魔力と精霊について話した事は覚えているか?」


「自身の魔力に見合った精霊さんと・・っていうお話ですか?」


「あぁ、魔力量が足りないと契約時に自身の魔力を全て喰われる事になり、魔力枯渇が起きてしまって、そうなれば数秒で死ぬらしい。全身から血が抜かれるのとそう変わらないらしいぞ。」


「・・そういう事なんですね」


やはり魔力測定器が無い今、精霊さん達と契約するのは中々リスキーな事かもしれない。



「ただな、高位な精霊になればなるほど、魔力量ではなく魔質もここで関わってくるんだ。実は高位精霊達は、膨大な魔力なんかよりも高品質な魔力であればわずかな魔力で契約が可能になるらしい。」


「・・!本当ですか?それなら、魔力枯渇も起きないで済むって事ですよね?」


「多分、そういう事じゃないか?あくまで、記録にそう残されているだけだから、間違ってはいないと思うが、何事も例外があるしな・・。だから、魔力保有量を上げる鍛錬は徹底的にやらないと、危険だと思った方が良い。」


先生は真剣な顔で厳しい眼をしながら私にそう告げた。



「解りました。因みに魔力の質が一番高いとどんな色になるんですか?」


「あぁ、えーと。・・白い光になるそうだ。不思議だな・・黒、青、緑、黄、赤・・本当は赤が最高魔力だと思われていたらしいんだが、過去に数人だけ・・大賢者と呼ばれた者だけは白い魔力を持っていたらしい。最高魔力だと思われていた赤魔力を極めた者だけが習得出来る・・究極魔力が白魔力。今の君はオレンジだから、黄の魔力という事になるらしい。・・・とはいえ本当にもうすぐで赤だな・・。」


先ほどまで厳しい顔をしていたはずなのに、わくわくしたような顔でそう言うので、あまり実感が無かった私もじわじわと実感し始めて、まずは赤い魔力に到達する事を目標に鍛錬を頑張ろうと決心した。








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