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入学初日



王立学院は15歳になれば誰でも入学可能になる為、姉も本来は15歳になる年で入る予定だったが、何故か突然体調を崩してしまい、来年にしようと両親が決めたのだが、マリアが16歳の時も同じ事が起きてしまった。



今年は私の入学が決定事項な為、姉が後から入学では色々とややこしいだろうという事で入学だけでも済ませようという事らしかった。




それならば、最初からそうすれば良かったのにと思わなくもないが、サラ曰く姉が駄々をこねた事が原因でここまでずれたのも1つの原因だとか…。






「それでは、お母様、お父様行ってきます」



お姉様が笑顔でそう言うとお母様もお父様もとても心配そうな顔で頻りに「本当に大丈夫か?」「少しでも辛くなったらすぐに帰ってきなさい」等と心配の言葉を口にする。


私には目もくれないので、先に馬車へと乗りお姉様が入られるのをただ静かにじっと待った。







-ガタッ バタンッ



お父様とお母様がやっと納得したのか、お姉様が漸く馬車へと乗り込み、馬車が動き始めるとお姉様は突然俯き、肩を震わせ始めた。



「…ふっ、ふふふ。ねぇ、ユーリ。今、どんな気持ち?両親の愛を一切貰えないのは、どんな気分?」



お姉様は心底嬉しくて堪らないといった恍惚とした表情で前のめりになり、手に顎を添えて私に聞いてくるけれど、私は正直言って--胸が高鳴った。



「お姉様、は…嬉しいのですか?」


「ええ、とっっても。」


「そうですか…なら私も嬉しいです」


「………はあ?」



だって、お母様もお父様も私には笑顔を見せてくれない。いつだって、険しい顔で私を批難する。お姉様だって、こんなにも嬉しそうな満面の笑みを私になんて向けてくれたことなど、1度もなかった。




だから…


「お姉様が嬉しくて幸せなら私も嬉しいです」




こんな満面の笑みを私に見せてくれた。その事が何よりも嬉しくて心の底から嬉しいと気持ちを伝えれば、姉はいつも通りの冷たい眼差しに戻り…いや、それ以上に酷くまるでゴミでも見るような眼差しで私を見る。


「…さすが、腹黒クソビッチ。」




お姉様がボソッと呟いた言葉の意味が私には分からなかったけれど、お姉様の機嫌を損ねてしまったという事だけは解り、何がいけなかったのか…と私は反省した。



「…ごめんなさい。」







そして、お互い無言のまま学院に着いた私達は一緒に行くのかと思えば「先に行きなさい」と促され、私はお姉様の言う通り先に教室へと向かった。










◇ ◇ ◇




迷う事も無く真っ直ぐに教室へ入れば、皆は顔見知りなのかとても仲が良さそうに各々グループを作ってお話していた。席は自由だと黒板に書かれているのを見て、空いている席を探していると1人の女性と目が合った。



「あら、初めまして!私、ミリア・ヒュース!ミリアって呼んで!貴女は?」


「初めまして、ユーメリア・ラフィトスと申します。えと、ユーリと呼ばれています。」




サラサラな少し赤みが強いブロンズヘアーに気が強そうな印象を持つ黒い瞳は興味津々に私を映す。



「ユーリね!にしても…へぇー、あのラフィトス家の!……貴女とっても病弱なんでしょ?」



有名よ?と彼女が少し心配そうに私を見てくるので、ちゃんと否定をする。



「いえ、私ではなく姉の方です。」


私がそう言えば明らかに周りの者がヒソヒソし始めるので私が小首を傾げているとミリアもびっくりしたように私を見ている。


「…え、姉妹がいたなんて話、初めて聞いた。あれ、となると貴女のお姉様は学院へ来ないの?」



初めて会ったから当たり前なのでは?と思いながらも、どうやら皆もラフィトス家を知っているようだったので不思議に思いながらも質問に答える。




「姉も今日、一緒に入学しましたよ」



「あ、なるほど…そうよね。妹の貴女が先に入学してしまうと色々とややこしいものね。姉が下級生で妹が上級生だなんて、聞いた事無いし…お身体は大丈夫なの?」


「確かに今年は無理をしてでも入学を済ませる予定だったみたいですけど、数ヶ月前から大分安定し始めているので、これならば大丈夫だろうとお医者様に。」




サラから伝え聞いといて正解だった、と内心ホッとしつつも余りに根掘り葉掘りと聞かれるのは好きじゃないので、そろそろ逃げようかと思ったその時、お姉様が教室に入ってきた。



--何故かポロポロと涙を流しながら。




「…あ、ユーリ…ぐすっ」


「…!お姉様?どうされたのですか?」




私が慌てて駆けよれば、お姉様がハンカチで涙を拭いながら私を見つめ項垂れる。



「…ユーリ、ごめんなさい。私が病弱なあまり迷惑ばかりかけて…。次からはちゃんと発作が起こらないように気を付けるわ…っ、でも、それでも発作が起きたら私を置いていかないで…とても苦しくて、不安なの…」



お姉様の言葉がまた理解出来ない私は何と返答すれば良いのか解らず、固まってしまう。


すると、教室内は一瞬ザワつき私達を取り囲むようにして皆が私をヒソヒソと非難する。



「…苦しんでた実の姉を置いてきたの…?」


「確かに先にユーメリアさんが入ってきたものね」


「…まぁ。では発作中の姉を見捨てて?」


「なんて酷い人……」


「お可哀想に…」




お姉様が発作を起こした事など、私は1度も見た事が無かった。朝は先に行きなさいと言われて来ただけなのに…と考えて7歳の頃に姉に言われた言葉を思い出し、私はここでもひとりぼっちになるのだ、と瞬間的に悟った。


気が付けばお姉様の周りには沢山の人が居て、私の周りには誰も近寄りもしなかった。



-そうか、これは姉の復讐の始まりなんだ。



それでも、正直言って私はどうでも良かった。

お友達を作りに来た訳では無かったから。


1人で生きて行くためには絶対に知識は必要だ。私は将来の夢があり、その為には技術も必要だということ。素質があればの話にはなってしまうけれど、私は将来の為にここへ真剣に学びに来ている。



だからこそ、何があろうとも私は気にしないのだと、決めている。



それに…期待しなければ傷つく事も少しで済む。





生徒達も皆、私の事は既に興味を失い何の授業を受けるのかで話は盛り上がっていた。



この王立学院には様々な科目があり、1シーズン毎に1度、自由に選択出来るようになっている。女生徒に人気なのは社交科や家庭科だ。


家庭科では刺繍や料理がメインであり、社交科ではダンスやマナーといった社交界においての基礎を学べる上に、男子生徒もいる為ちょっとした男女の出会い場の様にもなっている。



とはいえ男子生徒に人気なのは騎士科や文官科が主だ。そんな中、最も不人気と言えるのが魔法科と歴史科なのだとか。



そして、王立学院では3年目に試験を受ける事が可能となり合格した者はその資格を得る事が出来る。毎年、300人程が入学し合格はたったの2割程度という厳しいものではあるけど、合格者は将来安泰だ。



そして、ユーメリアが選んだのは--。










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