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41 : ドレスと恋と花束と - 07 -


 定期試験やダンスレッスンのことや、ヤナの試練のごたごたですっかり忘れていたが、オリアナ自身もパートナーを探さねばならない。


 父から必ず出席するように厳命されているし、オリアナはなんとしても、舞踏会で正装したヴィンセントが見たかった。


 出来ることなら、シャンデリアに煌々と照らされる彼をずっと眺めていたい。たとえ隣にシャロンがいたとしても、ヴィンセントはヴィンセントだ。輝かしい彼を見る機会を、逃す理由にはならない。


 そのためには、とにもかくにもパートナーだ。


 一番頼みやすいのは明らかにミゲルだが、男女ともに人気な彼がまだ売れ残っているとは到底思えなかった。

 それに以前、「ミゲルを頼りすぎている」とヴィンセントに釘を刺された手前、ホイホイと頼りに行くのもどうかと思われた。


 オリアナに、男子の知り合いは少ない。


 正確に言えば、一方的に知っている前の人生の知り合いなら、いる。


 だが、今の人生では全員クラスが違う。

 その上、今生では話したことがあるかないか程度の付き合いしかない。そんな顔見知りとさえ言えない状態で、オリアナが誘っても「うん」と言ってくれるとは、到底思えなかった。


「いや、ルシアンあたりなら胸の一つも揉ませればいけ……いけるかもしれないけど、やりたくないな……」


 女子――主に、女体――に興味津々だったかつての友人を思い出したが、オリアナは首を横に振った。我が身が可愛いし、うっかり惚れられてしまっては困る。前の人生で友人だった彼に惚れられて、困ったなんて思いたくない。


「う~~~ん……」


 唸って、考え抜いた末に、オリアナはダンスレッスンをしている講堂に向かって、歩き出した。




***




 講堂を、ひょいと覗く。

 開け放たれた扉の横には、監督の先生が座っていた。今日は魔法薬学の、だるだるハインツ先生だ。


「おう、立て役者。来たのか」

「はい、お邪魔します」

「タンザインならあそこだぞ」


 煙草を咥えた先生が、生徒の群れを顎でしゃくる。そこには確かにヴィンセントがいた。男子生徒に、ペアの女生徒に合わせたホールドの高さについての説明をしているようだ。


 ヴィンセントがこちらを見たため、オリアナはぎゅんっと首を回して顔を背けた。

 そして講堂の中を見渡して、目当ての人を見つけると、足早に人の波を抜けていく。


 講堂には沢山の人が集まっていた。

 ウィルントン先生公認でダンスレッスンやっていると聞いた、他の生徒らも集まっている。一層の賑わいを見せていた。


 よく見ると、練習をしている男女も固定し始めている。この分では本気で急がないと、パートナーを見つけるのは困難を極めるに違いない。


 講堂の壁に寄せられたテーブルと椅子のところで、休憩しているデリク・ターキーがいた。オリアナは足早に駆け寄る。


 色々な人を思い浮かべたが、イエスと言ってくれそうな人はデリクしか思い浮かばなかったのだ。


(とはいえもう、ターキーさんも相手が決まってるかもしれないけれど……)


 素朴だが人が良く、監督生も務めている。


(ターキーさんになら、当たって砕けたって、別に全然苦しくも無いのになあ)


 多少気まずい思いを向こうにさせるかもしれない。そのぐらいの感覚だ。「この商品、お店にありますか?」と聞くのと、何も変わらない。


 小走りで近付くオリアナに気付いたのだろう。デリクは首にかけた布で汗を拭きながら、オリアナを見つめている。


「エルシャさん? 何かあった?」


 デリクはオリアナがまさかペアに誘おうとしているなんて、夢にも思っていないだろう。単純に、何か問題が起きて、オリアナが伝えに来たのだとしか思って無いようだ。


(ターキーさんでさえこの反応……! そのくらいしか交流が無い人に私は何を頼もうと……! 五年間、ヴィンセントヴィンセント言ってきたツケが……!)


 申し訳なさの極みのような気持ちになりながら、オリアナは眉を下げた。


「ごめんね。別に問題が起きたわけじゃ無くって」

「そうなの? よかった」


「ええと、ようは……舞踏会なんだけど、誰と行くか、ターキーさんはもう決まってる?」


「ぅぃえ?」


 胃がひっくり返った人間って、多分こんな声を出す。

 そういう声がデリクから聞こえた。


「突然で、びっくりさせてごめんね」


 なぜ自分がオリアナに誘われているのか、完全にデリクの顔はそう物語っていた。

 唖然として口を開き、オリアナのいる方向をぽけっと見ている。


 心底いたたまれなくなり、オリアナは早口で言った。


「あの出来ればでいいんだけど、もし、まだ舞踏会のペアが決まって無いなら――」


「オリアナ」


 いつの間にかオリアナが見つめていたデリクの顔が、口を開いたまま蒼白になっていた。何か恐ろしい魔法生物でも見てしまったかのような表情だ。


 ぱちぱちと瞬きしたオリアナは、後ろを振り返った。


 そこには、焦った様子のヴィンセントが立っていた。


「ヴィンセント? 今、呼んだ?」

「ああ」

「どうしたの? 何かあったの?」


 問題でも起きたのだろうか。奇しくも先ほどのデリクと、同じ問いかけをしたことに、オリアナは自分で気付いた。ヴィンセントが苦々しげに顔を歪める。


「――すまない。少し確認したいことがあって」

「急ぎなの?」

「ああ、そうだ」


 オリアナは微かに迷って、ヴィンセントとデリクを見比べた。ヴィンセントの前で彼を誘うのは、なんだか気まずい。


「少し待っててもらえない?」

「駄目だ」


 間髪入れずにヴィンセントが言う。それほど急いでいる用事なのだろうか。


 オリアナは眉根を顰めた。自分の心に従ってしまう、自分に対してだ。


 父に厳命され舞踏会には出ねばならない。それに、ヴィンセントの正装姿も見たい。そのためには、デリクを誘うしかない。


 なのに、それを天秤にかけたとしても、今ヴィンセントについて行ってやりたいと思う気持ちの方が重いのだ。


「ごめんね、ターキーさん。もしよければ、また後で話をさせて」

「あ、うん」


「すまない。少し。借りるよ」


 ヴィンセントがにこりと笑ってデリクに言うと、デリクはまるで自らの潔白を表すかのように、両手を挙げた。





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死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ)
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