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32/201

32 : 最高の誕生日 - 03 -


 庭に広げた絨毯に、木から垂れ下げられた何枚もの布。地面には花びらが撒かれ、近くにある噴水から水のせせらぎが聞こえてくる。


 室内から人数分のソファが運び出され、テーブルの上には、乗り切らないほどの菓子や軽食が並べられていた。


 ガラスのグラスに注がれた色の濃い果実酒、異国から取り寄せた香炉からは、スパイシーでいて甘い香りが庭に煙る。


 無数の小さな魔法灯(ランプ)が枝や衝立にかけられ、ふんわりと場を照らしている。


 パジャマパーティーをしてもいいか、とオリアナは気軽に父に許可をもらいに行ったのだが、随分と大がかりなものになってしまった。


 それもそのはず。招待するのは、伯爵家の嫡男と他国の王女だ。エルシャ家が主催するパーティーと名がつくもので、貧相な場は許されない。


 とはいえパジャマパーティーだ。晩餐会や舞踏会のような会場を設営するのもおかしな話だろう。

 そこでヤナが、エテ・カリマ国でよくある形の、庭での座卓式の会席はどうかと提案してくれた。

 会場の出来映えに、ミゲルとヤナは満足してくれているようだった。


 屋敷中から集めたクッションを置き、パジャマ姿でオリアナは絨毯の上に座っている。


「お誕生日おめでとう、オリアナ」

「おめでとう」

「ありがとう。長期期間中でいつも誰とも会えないから……会えただけで嬉しかったのに、こんな風に祝ってもらえて、めっちゃ嬉しい」


 カチン、と果実酒の入ったグラスを交わし、それぞれが口づける。


「そのパジャマ、とても可愛いわね」

「新品を下ろしてみました!」


 ヤナに笑顔を向けると、オリアナは立ち上がり、くるんと回って見せた。

 オリアナの体よりもゆったりめに作られたパジャマは、ややルーズな仕上がりだ。頭の固い年寄り連中は眉をしかめるデザインだろう。だが十七歳の女の子にとって、可愛いは正義である。

 白地に淡い色彩で描かれた柄が、ゆったりとした雰囲気に合っていた。


 ヤナは優雅なマキシ丈のワンピーススタイルで、彼女の細くはりのある体つきにとても合っていた。アズラクによって分厚いカーディガンを羽織らされ、ヤナの持つ繊細な魅力がぐっと増している。


「ヤナもミゲルもめっちゃ似合ってる」

 既にオリアナによって編み込まれている髪を、ミゲルは両手でぴょこりと揺らす。

 彼が持参したパジャマは中性的なデザインで、男性の寝間着姿という雰囲気では無かった。ミゲルのことだから、配慮をしてくれたのだろう。


「ねえ。なんでミゲルはそんなに気が利いて、顔も格好良くて背が高くて伯爵家の息子なのに、浮いた話の一つも無いの?」


 年頃の男の子にしては不自然なほどに、ミゲルに恋の気配を感じたことが無かった。

 ミゲルの色恋沙汰を耳にしても、大抵は噂が一人歩きしているだけというオチだった。既に相手が決まっているのかと思ったが、婚約者はいないらしい。


「ヴィンセントにべったりだから?」

「えっ……。ミゲルってば、オリアナちゃんの超強力なライバルになっちゃったりする……?」


 ミゲル相手に勝てる気はしない。

 絶望するオリアナにミゲルは笑う。


「オリアナのこと応援してるよ」

 上手く躱された気がして、オリアナはグラスに口を付けた。自分の恋愛のことは話したく無いのかもしれない。


 ミゲルとの友情のために、話を変えることにした。オリアナはグラスの中の果実酒を揺らす。


「パジャマパーティー略してパジャパに、アズラクも参加しちゃえばよかったのに」

 果実酒が喉に流れる。甘く、スッとした香りが口に広がった。


「編み込める髪があればよかったのにな」

「まぁ。アズラクにフェルベイラさんと同じ愛想を期待するのは、酷というものよ」


 女子会と聞いて潔く参加を辞退したアズラクを見る。彼は少し離れた場所に立ち、使用人達とこちらを見守っている。


(参加はしないけど、ヤナを止めもしないんだよなぁ)


 愛想は無いが融通は利く。アズラクが頭が固いばかりのただの護衛でないのは確かだ。そして、ヤナを大切に思っていることも。


「せっかくの席なんだし、是非ミゲルと呼んでほしいな」

「ありがとう、ミゲル。私もヤナでかまわなくてよ。同じ、オリアナの初めてを貰った者同士、仲良くしましょう」

「ヤナ、言い方。含みがすごい」


 初めてなのはパーティーの主催なのだが、なんだかいかがわしい会話に聞こえる。ヤナはふふふと笑っただけで流してしまった。


 オリアナはナッツに手を伸ばした。少し炙ったナッツは香ばしくて美味しい。


「そういえばミゲルは、アズラクの試練に挑戦しないの?」


 ふと、試練は男子生徒の間では有名だという話を思い出した。基本的に、ヤナはいつも決闘に立ち会う。真剣を使わないとは言え、荒事であるには変わりない。ヤナは決闘で少しでもアズラクが怪我を負っていれば、必ず医務室まで付き添った。


「ヤナをお嫁さんに貰えるってやつ? 俺は可愛い女の子の方から求婚されたいタイプなんだよなー」

「あら、挑んでくれないの? 残念だわ」

「姫の望みとあらば、いつでも参戦致しますよ」


 果実酒の入ったグラスを掲げたミゲルに、ヤナも笑いながらグラスを当てる。

 チンッと綺麗な音が、宵闇の庭に響く。


「ふふ、なら私の騎士に特別な情報よ。アズラクは朝が弱いの。挑戦するなら、早い時間が狙い目よ」


 アズラクは朝が弱かったのか。オリアナは一度、朝早くに彼に頼ってしまったことを思い出し、申し訳なさからそっとアズラクを見た。

 直立したアズラクは無表情のまま、じっとこちらを見つめている。


「それでも彼が負けるわけないって、信じてるんだ。愛だね」


 ミゲルが、ここにだけ聞こえるような小さな声で、そう言った。オリアナはヤナを見る。


 ヤナは笑っていた。

 これまで見たどんな笑顔よりも柔らかく、優しい笑みを浮かべている。


 ヤナの回りで光るランプが、彼女をよりふんわりと照らす。


「ええ」


 酒に溶けるような声だった。


 その声が、優しくて、何故かとても切なくて――オリアナは果実酒をぐいっと飲んで、ヤナの隠したがっている気持ちに気付かない振りをした。






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死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ)
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