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22 : 掛け違った想いの在処 - 04 -


「編み込みぐらい、いつでもすりゃいいやん。ほら」


 ハンカチで涙を拭き始めたオリアナに背を向け、ミゲルが三つ編みを解いた。

 後ろでゆったりと結ばれていた三つ編みが、ミゲルの手櫛で背に流れた。ブルブル、とミゲルは獣のように頭を振って、髪を流す。


「えっ、いいの?」

「いいんじゃん? 別に今オリアナに、遠慮せんと駄目な男がいるわけじゃなかろうし」


 何気なく、的確にミゲルが刺してきた。


 オリアナは胸を押さえた。


「……グサッと来た」

「あ、パジャマパーティーの参加権利消えた?」

「大丈夫……招待状、送るね……もこもこのルームウェア、おそろいで着よう……? 超気持ちいいよ……」


 ミゲルの厚意を無にしたくなくて、オリアナはおぼつかない手つきでミゲルの髪に触れた。男の人の髪に、こんな風に触れるのは初めてだ。


 なんだか悪いことをしている気になるが、先ほど言われたとおり、ヴィンセントに操を立てていてもしょうが無い。オリアナにはもう、不貞を咎めてくれる、彼氏もいない。


 赤褐色のミゲルの髪に、手ぐしを入れる。夏場なので、じっとりと汗をかいていた。地肌に近い髪が蒸れている。


「ミゲルって何で髪伸ばしてるの?」

「んー……長いと、自分がどれぐらい生きてるかわかるじゃん?」

「へ?」

 予想しなかった言葉に、オリアナは手を止めた。後ろを軽く振り返ったミゲルが、犬歯を見せて笑う。


「オリアナは?」

「え、あぁ。えー? 私か。私、あんま自分の顔が好きじゃ無いんだけど、髪の色は好きだからさー。出来れば、こっちの面積を大きく見てほしいというか」

「変なこと考えてんなあ」

「え、それ今私が言われる方の立場??」


 オリアナは編み込む手を動かした。こしのある赤毛は、中々思うとおりにならない。


 ミゲルの髪に言うことを聞かせようと、オリアナが四苦八苦していると、ミゲルが前を向いたまま言った。


「これからどうするん?」


「何を?」


 ミゲルの髪と格闘していたオリアナは、両手で赤髪を掴んだまま、なんとか声を出した。


「俺、そこそこ淋しいんだけど」


 オリアナはピタリと手を止めた。両手で掴んでいた髪を片手にまとめると、広い背中の向こうの、ミゲルの顔を覗き込む。


「ミッ、ミゲルゥ……!」


「すげえ。それ一語一句変わらず、さっき聞いたわ」


 割と本気で驚いてるような顔で、ミゲルが笑う。


「簡単な喧嘩? それとも結構深刻? ――まあ、深刻だよなあ。あのオリアナと、あのヴィンセントが意地張ってるぐらいだし」

「あの私、とは?」

「ヴィンセント馬鹿」


 ぐぅの根も出ない正論に、オリアナは鼻の上に皺を寄せた。


「私は意地かもしれないけど、ヴィンセントは違うんじゃないかな……」

「ヴィンセントは誰にでも親切だから、ちょっとやそっとじゃ距離置かないよ。そうして今まで、甘く見て貰ってたじゃん」


 これもまた、正論であった。オリアナはヴィンセントに認められていたわけでも、求められていたわけでもなく、ただただ甘えさせてもらっていただけである。


「……じゃあいよいよ、我慢の限界が、来た、とか?」

「うーん。まあ、そういう考えもあるかもなあ」


 わかっていたことなのに、ガーン。とオリアナはショックを受けた。しょぼしょぼしながら、ミゲルの髪を紐で結ぶ。


「出来たよ」

 ところどころぴょんぴょん跳ねているが、オリアナがしたいようには十分出来た。ミゲルの整った顔立ちのおかげで、編み込みをしていても女性的には見えず、むしろより彼を魅力的に見せた。正装にも合いそうだ。


「超可愛い。男子寮一の美人さん」

「さんきゅ。後で見せびらかしてくるわ」

「暗い部屋に引きずり込まれないように、気をつけてね」


 花なんかを編み込めば、きっともっと可愛いのだが……それはまた今度、ヤナにでも頼んでやらせて貰おう。


 髪の毛で遊び終わり、二人とも手持ち無沙汰になる。


「……まぁつまり。手を貸すために、来たんだけど」


 ミゲルがちょっと照れくさそうに言う。オリアナは、胸を押さえてその場にしゃがみ込んだ。


「無理……ときめきの導火線が着火した……」

「まじで。爆発しても面倒見きれんよ」

「爆発しないように魔法で助けてよ」

「そんな都合のいい魔法聞いたことあったかな~」


 淋しい、と先ほど言ったミゲルの言葉は、いつも何事も茶化すミゲルの珍しい本音だと、オリアナにもわかっていた。


 そしてミゲルは、自分の淋しさを解消するために、オリアナとヴィンセントを仲直りさせようとしてくれている。


 オリアナは、心の中でミゲルに謝罪した。以前、友達と呼んでいいのか迷ったことがあったからだ。

 心のページを開き、友人の欄に堂々と太字で、ミゲル・フェルベイラ、と書いた。


「なあ。はぐらかしてる?」

 いつまでもまともに返事をしないオリアナに焦れ、ミゲルがこちらに体を向けた。探るような目をして、オリアナを見つめる。


「うううん……そのつもりはー、無いんだけどぉ……」

「じゃあ、仲直りはしたくない、ってことか」


「うううううん……」


 オリアナは唸った。


(ここで今、ヴィンセントの気持ちをねじ曲げて仲直りしても……彼に我慢をさせ続けるだけになんじゃないのかな)


 ヴィンセントの願いは、オリアナが関わってこないこと、だ。

 でも仲直りをしようとすれば、どうしてもオリアナはヴィンセントと無関係のままではいられない。


「そんな器用なら、ここまでこじれんわな」


 ミゲルがベンチから立ち上がり、ぐしゃぐしゃとオリアナの頭を撫でた。


「ま、わかったろ。女子会したくなったら、誰に招待状送ればいいのか」


 立ち上がったミゲルの髪が、ゆらりと揺れる。毛繕いされる猫のように静かに待ってくれていたミゲル。辛抱強くオリアナの――オリアナ自身も上手く表現できない気持ちを、ほぐそうとしてくれたミゲル。好きな時に、自分に助けを求めてもいいのだと、伝えにきてくれたミゲル。


「……うん、わかった。ミゲル、最後にこれだけ言わせて」

「ん?」


 オリアナは立ち上がった。そして誰に憚ることもなく、拳を握る。


「愛してる……!」


「おうおう、今まで我慢出来てたのになあ」


 スティックキャンディを歯で噛んだミゲルが、カラッと笑った。






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死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ)
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