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199 : 後日談 / 春の中月の十八日 - 02 -


「……何をしているんだ」


 ヴィンセントが、頬の筋肉をピクリと震わせながら、オリアナとミゲルを見下ろす。

 見下ろされた二人は、ようやく職員室から解放されたヴィンセントを見上げ、「よっ」と手のひらを向けた。


「ちっちゃくなってる」


「抱っこしてる」


「……」


 ヴィンセントは半眼でオリアナ達をねめつける。

 オリアナはヴィンセントにへらりと笑った。


 中庭の一角で、オリアナとミゲルは前後に座っていた。オリアナが後ろで、ミゲルが前である。


 オリアナははしたなくも両足を開き、その間にミゲルが体を縮こめて座っている。股の間に恋人を入れ、抱っこして座っているかのような光景だが、二人とも、用心深く互いの体には触れていない。


「ミゲルがぎゅっとするのは駄目って言うから」

「何を言ってるんだ。駄目に決まってる」

「だからエアーハグしてるの」


 ヴィンセントは片手で顔を覆い、嘆息する。

 オリアナは目の前で膝を抱え、出来る限り小さくなろうとしている百九十センチの巨体を見て笑った。


「今日のオリアナちゃんは、三分の一だから」


「今日だけだもんねー?」とミゲルを覗き込むと、ミゲルも「なー?」と言ってこちらを見た。

 そんな様子にほだされたのか、ヴィンセントは苦々しい顔ではあるが、優しい声を出す。


「……なら、僕も今日だけ」


 そう言うと、ヴィンセントはオリアナとミゲルの間に入り込み、無理矢理座った。


「これなら許そう」


 ミゲルよりは小さいとはいえ、ヴィンセントも長身な男である。押し入られたオリアナは後方に姿勢を崩したが、目の前の魅力的な背中に引き寄せられるように、そのまま前方に倒れ込んだ。


「ふえっへっへっへ」


 許可は貰った。ヴィンセントの背中にへちゃりとしがみついたオリアナは、ヴィンセントのローブに頬をすりすりさせる。


「あ。今オリアナが、三分の一じゃ無くなってる気配がする」

「そんなこと無い。そんなこと無いよ、ミゲル君」


 慌ててすりすりするのを止めたオリアナは、ヴィンセントの背中に顎を載せた。そしてヴィンセントごと、ミゲルを抱き締めようと手を伸ばす。


 なんとかミゲルのローブの端を掴み、オリアナは笑いながら二人まとめてぎゅうううと抱き締めた。


「なんだこれ」


 ミゲルも笑い、ヴィンセントも呆れたような笑みを浮かべる。


「オリアナ、あまり引っ張ると、ミゲルが喉を詰まらせて危ない」

「え! ごめん!」

 オリアナは、ミゲルのローブからパッと手を放した。


「なんで俺が喉詰めるの?」

「飴を舐めてるだろう?」


 さも当然、という風にミゲルを覗いたヴィンセントは僅かに目を見開く。


「飴はどうした?」


 いつもミゲルは飴を舐めていたミゲルが、口に何も咥えていないことにヴィンセントが驚く。


「もう必要無くなったから」

「はあ?」


 あれだけ舐めていたのに必要無いことはないだろうと、ヴィンセントは不信感を露わにした。訝しむヴィンセントを越え、ミゲルはオリアナを見た。オリアナもミゲルを見返す。


 オリアナは以前、ミゲルが「飴が好きではない」と言っていたのを聞いている。


 好きでは無い飴を何故舐めていたのか、いつか教えてくれるかも知れないし、もしかしたら教えて貰えないかもしれない。


 パジャマパーティーも、百年かかる思い出話も、飴の秘密も――自分で無くとも、いつかミゲルがそんな話まで出来る人を見つけられたら良いなと、オリアナは思う。


「喉詰めんし、いっぱい引っ張っていーよ」

「了解した!」


 オリアナはミゲルのローブをぎゅっと掴んだ。嬉しそうに笑うミゲルに、オリアナも笑顔で応える。


 三人で雪だるまのようにわちゃわちゃしている姿を、第二クラスの教室の窓から、クラスメイト達が身を乗り出して見ていた。





- 春の中月の十八日 -  おわり




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死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ)
書籍情報はこちらから(イラスト:秋鹿ユギリ先生)


コミカライズ情報はこちらから(漫画:白川蟻ん先生)
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