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16 : 真っ直ぐな道の上 - 04 -


(こんな馬鹿げた話が、あるか?)


 ヴィンセントは拳を握りしめる。


 オリアナの言った言葉の意味を、ヴィンセントは正確に理解していた。


 これまで彼女が向けていた笑みは、心配は、そして好意は――今のヴィンセント(・・・・・・)に向けたものではなかった。


 よく考えれば、わかってもいいものを。

 考えることから逃げていたとしか言い様がない。


 なんと言っても、彼女は自分と知り合う前から、ヴィンス(・・・・)に愛を告げていたのだから。


 彼女の想いはずっと、ヴィンセントでは無く――ヴィンスにあったのだ。


(僕は、馬鹿だ)


 あんな、「好き」に、いちいち心を動かされていたなんて。彼女が自分を、誰よりも好いてくれていると、思っていたなんて。彼女の孤独を埋められるのは自分だけだと、自惚れていたなんて――


(オリアナは、()を求めていたわけじゃ、なかった)


 彼女は、ヴィンセントが好きで、傍にいるわけではなかった。


 かつて自分が愛したヴィンスを救うために、ヴィンセントの傍にいただけだ。ヴィンセントが体の検査さえすれば、無事だと確認できれば、すぐにでも離れると言ってしまえる程度にしか、ヴィンセントには興味が無い。


 オリアナがあんなに必死に勉強していたのも、ヴィンセントの側で、彼が死なないように見張り続けるため。


(彼女が横に座るのが当然になっていたのを――誰もが、僕の隣はオリアナだと認めることを、心地いいと思っていたのは……僕だけ)


 怒りと、なんと名前を付けていいのかもわからない喪失感で、心が一杯だった。

 目を瞑り、感情を堪えようとしても、徒労に終わった。


(オリアナが好きなのは、僕じゃ無い)


 認めるには辛く、けれど見過ごすことは出来ない事実だった。


(決断しなくてよかった)


 ヴィンセントは心の中で、悪態をついた。意地を張っていなければ、この場で大暴れしてしまいそうだった。


(僕がオリアナを好きなわけでも、オリアナが僕のことを好きなわけでもない。そんな相手を、何よりも優先する選択肢もあると思っていたなんて……救いようのない愚かさだ。くそっ……)


 気が収まらなかった。かといって、彼女を傷つけるのだけは絶対に違うと思った。


 人生は違えど、同じ”ヴィンセント・タンザイン”を守るために、オリアナが長い間、一人孤独に耐えていたことは想像に難くなかった。そんな彼女を一言だって責めたくない。


(――けれど、辛い)


 身が引き裂かれそうな辛さだった。


 何故これほど裏切られた気になっているのかもわからずに、ヴィンセントは目を閉じたまま、ひたすらに気を静めることに集中していた。


「……でも、でもね」


 目の前にたたずむオリアナのことを気にかけてやる余裕すら無かったため、彼女が泣き止み、鼻をすすり始めていることに気付かなかった。


 ヴィンセントは全身の力を総動員して、ゆっくりと目を開けた。


「私、貴方と、また、こうして……話がしたかったの」


「……ああ」


「これだけのためにも……今日まで頑張ってきて、本当によかった」


 オリアナは唇を震わせ、またびえびえと泣き始めた。


 また涙に暮れる彼女に一瞬呆気にとられたヴィンセントは、ポケットからハンカチを取り出すと、そっと差し出す。


 自ら拭ってやる勇気は、無かった。


「ありがとう」


「ああ」


 差し出したハンカチを受け取ったオリアナは、涙を拭き始めたというのに、先ほどよりも大きく体を震わせて泣き始める。


「その――『ああ』って言うの、すごく好き」


 ヴィンセントの体がじんと痺れた。これまで幾度となく言われてきた「好き」の中で、これほど心が揺さぶられた「好き」は無かった。


「……そうか」

「言ってよ」


「……今のタイミングで言うのは、さすがに気まずくないか?」

「聞きたいんだもん」


「……ああ」


 えへへ、と、花がほころぶようにオリアナが笑った。

 身のうちで渦巻いていた怒りは、いつの間にか消えていた。




***




 オリアナ・エルシャは、ヴィンセントの進む真っ直ぐな道の上に咲く、決して抜けない花となった。







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死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ)
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