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14 : 真っ直ぐな道の上 - 02 -


「ヴィーンセーント! おっはよ~」


 教室に入ってきたオリアナは、何事も無い顔をしていた。

 いやそれどころか、憂いを無くしたおかげか、日頃よりもテンションが高い。


(さっきは、今にも泣きそうな声を出していたくせに)


 心配事を解決したのがアズラクだと思うと、ヴィンセントは今にも舌打ちしたい気分だった。


 オリアナは教室の段差を上ってくると、いつも通りヴィンセントの隣に座った。

 そこはもうオリアナの特等席になっていて、今ではヴィンセントの隣が空白だろうと、誰も座ろうとする者はいない。


「ミゲルもおっはよ。今日の授業は何処からだっけ」

「おはよ。”陣に対する補助装飾”についてじゃなかったっけな」

「あ、そうそう。ありがとう。助かる」


 挨拶を返しもせず、素っ気ない態度だというのに、オリアナは気にした様子も、気付いた様子も見せなかった。


 それがまるで、日頃から自分がこのような態度をオリアナにとっている証左のように思えて、自分勝手にも酷く傷ついた。


(自分はいつから、そんなろくでなしになったのか)


 ヴィンセントを挟んで何気ない会話を楽しむ二人にムカムカしながら、ヴィンセントも教科書を取り出した。





「これまでも沢山勉強してきた通り、魔法は陣をもって発動します。竜木の葉を混ぜて作られた魔法紙に、特定の文字を書き、杖で魔力を注ぐことで発動する。陣に描くカーン文字は、何十年、何百年と研究されておりますが、魔法塔が抱える大賢者らをもってしても、未だに最適な形状を把握できておりません。君たちのカーン文字の教科書が毎年新しくなるのも、そのせいですね。まあそこら辺は、魔法カーン文字学で学んでいただくとして……」


 口の上に小さな髭を蓄えたクイーシー先生が、よどみ無く生徒達に語りかける。


「君たちがこれまで習ってきた様々なカーン文字……そう、{光}や、{火}や、{舟}や、{矛}などですね。これらを補助する装飾は、{が}や{の}等ですね。そう。勘のいい君たちがお察しのように、これからは二つのカーン文字を組み合わせた、複数文字の陣をやっていきます。……ふふふ、目が輝いていますね。安心してください。今日からの授業はまた、楽しいですよ」


 ”陣に対する補助装飾”の授業は、滞りなく進んでいく。初めて習う複数文字の陣に、生徒達はクイーシー先生のどんな言葉も見逃しまいと、固唾を呑んでいた。


 だが、隣に座るオリアナは、決まり切った定型文を聞いているかのような顔をして、先生を見つめている。クラスの全員に生まれた目の輝きは、彼女には無かった。


 不真面目なわけではない。

 だが、熱心なわけでもない。


 心ここにあらずと言ったような、不思議な表情だ。


(……またか)


 隣に座るようになり、彼女に意識を向け出すと、こういった瞬間が何度かあったことをヴィンセントは思い出した。


(まるで自分だけ、他の世界を生きているような、孤独な顔をする)


 こういう時の彼女は、あれほど好きだなんだと言っているヴィンセントが隣にいることさえ忘れているようだ。


 世界にただ一人きりというような顔をするオリアナに、手を差し伸べたくて仕方が無くなった。自分なら、オリアナの孤独を埋めてあげられると、自惚れているからだ。


(けれど今日は、僕よりも、ザレナがよかったようだけど)


 思い出せばムッとする。

 そして、新たに気付いた事実に愕然とした。


(今日は?)


 いや、それどころか、ヴィンセントはこれまで―― 一度も、オリアナに頼られたことが無いのだ。


 彼女はヴィンセントに愛を告げるが、見返りを求めたことも、何かを期待したことも無い。当然、頼み事をしてきたことも、頼ってきたこともない。


 ヴィンセントは、生まれ持った義務により、人に頼られることに慣れていた。


 けれど自分から、手を貸してやりたいと思ったことは無かった――今日までは。


 授業中に何を考えているんだと思っていても、アズラクの顔は、ヴィンセントの脳裏から中々消えてはくれなかった。







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死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ)
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