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旅する閉者と世界のトビラ  作者: じょーや
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「現在」の扉

街道で立ち竦む少女に私は猫を抱き抱えながら近づきます。

「あ!その子!」

「この子はあなたの猫ですね?はい、どうぞ」

「わぁ〜!どこ行ってたの?悪い子だなぁ。お姉さんありが...あれ?」

ふふふ。そこに私はもういませんよ。

世界を見た満足感と人助けをした時特有の優越感に浸りながら、戸惑う少女に人混みの中から目を向けます。

そうです。また私は以前の彼の時と同じく、世界を『扉』を通じて拝見していたのです。

悩み、苦しみ、心の闇、その他諸々の負の感情を抱えた人の背には『扉』が目に見えるようになります。

逆に全く心に重荷がない人や、軽い悩み程度としか感じていない人は扉は現れません。

先程の少女は自分の飼い猫に逃げられてしまったようでしたので、私は彼女の『扉』に入り、未来の街を歩き回り、猫を見つけ出したのです。

彼女もまた、「現在」の扉。猫に逃げられた事が、あの時彼女の中で一番の悩みだったのでしょう。悩みの重さは人それぞれですしね。

ですがただで人助けをする程、私は善良な人間ではありませんので。お悩み事を解決して差し上げる代わりに、その方の『扉』の中に広がる世界を楽しませてもらっています。

「現在」の扉は一番所有者の割合が多い『扉』です。中に入れば外の世界では分からなかった事の発端や、時には答えが分かります。どのような感じと言われるとシチュエーションは様々ですが最も多いのは『扉』の所有者に関わる人間、生物の心や脳内を覗く事が可能になる事です。これで大体はお悩み解決ばっちぐーです。

他にも一秒から一時間まで先の未来を見通すことができたり、姿を自由自在に晦ますこともできちゃいます。こうして述べてみると便利ですねぇ、「現在」の扉の権能って。

そんな夢のような能力も現実に戻れば、綺麗さっぱりなくなってしまっていますがね。

残りの着眼点となるとこれは全ての『扉』に共通することですが、まず何かを持ち帰る事は不可能です。別の世界から現実の世界に物を持ち込むと、現実に本来存在していないものとして見なされてしまうので帰還する際に扉に弾かれます。まあ納得はできますよね。「理に反しない」という私の信条にも適っていますし。

その世界の住人に干渉する事は可能です。話そうが遊ぼうが一夜を共に過ごそうが特に咎められることはありません。...最後のは冗談ですよ?勿論。

以上が「現在」の扉の全てです。私は基本的にこの扉から人の世界を見て興味を満たし、人を助けています。これからも、私の方針は変わりません。

感想文の様な事を述べていたら人混みから二人の人物がこちらへ近づいてきました。

片方は背が高く、もう片方はその二分の一くらいの大きさで両手に何か抱えています。まさか...

「あ!やっぱりそうだ!さっきのお姉さんだ!」

「あらあの方がそうなの?ーうちの子の猫を見つけてくれてありがとうございました。この子、かなり気に入っていたから諦めきれない!って聞かなくて...」

「あ...いえそんな。偶然ですよ偶然。」

はぁ...「私の猫を見つけてくれた不思議なお姉さん」みたいな感じでかっこよく立ち去ったつもりだったのに...

若干の羞恥心と人助けの優越感を改めて感じた私なのでした。

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