森の魔女
僕の村にはこんな話があった。
「森に近づいてはいけないよ。子供は森に入ってはいけないよ。森の魔女に食べられてしまうよ」
おばあちゃんから何度も聞かされる話。
耳にたこができるほど聞いた話。
そんなおばあちゃんは今日死んでしまった。
老衰らしい。とても悲しかった。
葬儀の時こんな話を小耳に挟んだ。
「ああ魔女に殺されたんだ」
「やっぱり噂は本当だったんだ」
「森に行ってはいけないと言ったのに」
どういうことだ?
おばあちゃんが魔女に殺された?
おばあちゃんが森に行った?
頭の中は混乱していたが体は自然と森の方へと向かっていた。
確かめなければ。魔女に聞かなければ。
その一心で僕は身支度をする。
パンにリンゴ、そして魔女を殺すためのナイフ
森は不気味なほど静かだった。
動物の気配もしない。
音がないのが怖くなり僕は走り出す。
どこまでも走り出す。
そして小屋にたどり着く。
小さなボロボロの木の小屋。
身構える。
ナイフを手に持ちそっとドアに聞き耳を立てる。
聞こえる。中に誰かいる。
「誰かそこにいるの?」
中から声が聞こえる。女の子の声だ。
ナイフを持つ手に力が入る。
「誰かいるのね。まあ誰でもいいわ。話を聞いて」
話の内容はいつも来てくれる女の子が数日前から来なくなったという内容だった。
僕はここに他の人も来てたのかと思った。
そして勇気を振り絞って声を出す。
「これからは僕が来るよ」
何を言っているんだ。
こいつは魔女かもしれないんだぞ。
しかし頭の中と口から出る言葉は真反対だ。
「これからは僕が話し相手になるよ」
「まあ!それは素敵。ありがとう僕くん」
変な感じだ。
同年代と話すときとは少し違う。変な感じだ。
それから僕はいろんな話をする。
幸い食べ物を持ってきていたから数日間そこにいることができた。
しかし少女は一度も扉をあけてくれなかった。
寝る時は気付いたら毛布がかかっている。
そんな毎日だった。
そんなある日僕は全身から力が抜けてしまい動けなくなる。
少女に話しかける
「あはは、話してたら力が入らなくなっちゃった」
少女は悲しそうな今にも泣きそうな声を出す。
「ごめんなさい。もっと早く家に帰していれば」
なんで謝るんだ?
そう言おうとしたが口が動かない。
少女は話だす。
「私はね、不老不死の魔女なの。不死っていってもね、命は有限だからさ周りから生気を吸い取って生きるの。だからこの森には何もないの。僕くん騙してごめんね」
理解できなかった。理解したくなかった。
「僕くん最後にお願いがあるの」
「私にキスをして」
「最後のキスを」
「もしかしたら呪いが解けるかもしれないの」
「そしたら私も僕くんと一緒に死ねる」
魔女は小屋から出てくる。
魔女と僕はキスをした。
魔女は笑顔で消えていった。
僕の意識もここで途切れた。
「良かった。貴方がどこかに行くから私心配してたのよ!」
母の声だ。僕は生きているんだ。
それからはいつも通りの日常だった。
あれが夢か現実かどうかわからない。
確かめる方法もない。
でもあれは現実だと思う。
そんな僕の小さな冒険だった。
感想、ご意見お待ちしています。
次回作に生かせるよう頑張ります。
移動中に書いたものなので文章おかしなところがあるかもしれません。