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朝、眠りから覚めたばかりの時のように、意識がはっきりしない。
あるいは夢かもしれないと思った。
(明晰無だっけ……。)
そんなことを思う。
ただ、横にだれかがいるような気配がした。
おそらく女性であろう彼女は僕の横でじっとしている。
頭に手がそっとのせられ、撫でられる。
(いやにはっきりした夢だな。)
そう思いつつも撫でられる感触が心地よく、意識が深いところに沈んでいく。
深く沈む前にささやくような声が聞こえたような気がした。
「……あきらさん、ごめんなさい。……さようなら。」
◇◇◇
今度は意識がはっきりとしていく感覚がして、目覚めるのが自分でもわかる。
ごそごそとその場で動くと、横から声がかけられた。
「先輩、起きましたか?」
目を開けると突然入ってくる光の眩しさに再度目を閉じる。
今度は目が光に馴れるようにゆっくりと目を開けた。
「先輩、大丈夫ですか?」
横には瑠唯が立っていた。
「えっと、ここは?」
「ここは私の家です。先輩覚えていますか?」
僕は横に首を振る。
「あのあと、先輩は意識をなくされたので、あの場場所から近かった私の家に連れてきて休ませたんです。」
僕は最後に覚えている記憶を思い出した。
「えっと、みゆちゃんは?それにあの男は?」
「魅幽は、私と一緒に先輩を送り届けたあと、少しの間ここにいましたが、家に帰りました。あの男はあの後は特に何もありません。」
(あれは夢じゃなかった?)
朦朧とした意識の中、頭を撫でられた感触を思いだし、手を頭に当てる。
「先輩?どうしましたか?」
「あ、いやなんでもない。」
「そうですか……。私の両親には伝えていますので、先輩は遠慮なく休んでください。」
まだ少し体にだるさを感じていたため、僕は遠慮なく休ませてもらうことにした。
「それじゃあ申し訳ないのだけれど、もう少し休ませてもらえるかな。」
「はい!それじゃあ私は少し部屋から出ていますね。」
瑠唯は立ち上がると、歩いてふすまを開けて部屋から出ていく。
周りを見渡すと、和室にある布団の上で寝ていたことに気がついた。
(ここ、瑠唯の家か……)
少し気恥ずかしい気分になりながらも、疲れがとれていないのか意識がまた沈み始めた。




