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みゆちゃんは男をにらみつける。
「えっとみゆちゃん、あの男は?」
僕は男と対峙する彼女に問いかける。
「……私の実家を継ぐ跡目争いの相手の一人です。」
その言葉を聞いて男が鼻息をならす。
「ふん、忌々しいことにな。さっさと候補を降りればよいものを。まったく当主もなぜこんな女を候補に据えたのか。あるいは今からでも遅くないぞ、私の下につけば痛い目を見なくても済む。」
「……やっぱり他の候補もあなたが?」
「くく、お前の従姉妹だったか、あの候補だったあの女も最初はお前のように威勢よく吠えていたが、最後には許してと泣き叫んでいたのを思いだしたよ。」
「……。」
僕は男の言葉に驚く。
「そ、そんなこと許されるわけないだろ!」
男は僕の方をちらりと見て、まるで今気づいたような顔をした。
「なんだ、まだいたのか、おまえのようなごみが出る幕ではない。」
「なっ。」
「あきらさん。相手にしないでください。あの男に何をいっても無駄ですから。それに当主争い中で起こったことは私の実家になかったことにされす。」
「ほう、その男の前だとよくしゃべるな。その男はお前のお気に入りか?なら、これはどうだ。」
そう言うと僕たちの周りにいた影がゆらゆらと近づいてきた。
みゆちゃんは僕の前にかばうように立つと、手の平を上に向ける。
そこにはバレーボール大の紫の炎が浮いていた。
手を振るうと炎は影に向かう。
影にぶつかった炎は燃え上がり、影を燃やしつくす。
「ひとつぐらい焼いたところで無駄だ。」
「……。」
影が次々に現れ、ゆらゆらと向かってきた。
みゆちゃんは影を次々に焼いていく。
◇◇◇
みゆちゃんは次々に炎を出して対処するがいっこうに影の数は減らない。
「っく。」
みゆちゃんから苦しそうな言葉が漏れる。
「あきらさん、私がなんとか押さえるので、隙を見て逃げてください。私がここにとどまる限りあいつがあきらさんを追いかけることはないので。」
「でも。」
「あきらさん、お願いです。」
そう言ってこちらを見る彼女は覚悟を決めた顔をしていた。
「みゆちゃん!」
とっさに彼女の方に腕を出しこちらに引っ張り、抱え込むような形になる。
こちらを見いていた彼女に向かって影達が腕を振り上げて下ろす寸前だった。
「きゃ!」
こちらに抱え込まれた彼女は小さく声をあげる。
影達は振り下ろした腕を持ち上げこちらに近づいてきた。
「あきらさん離してください!」
「ぐっ。」
影たちが腕を振り下ろす。
僕はサンドバックのように腕を叩きつけられる。
僕は影達に繰り返し殴られ続けるのだった……。




