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二人で歩き住宅街まで差し掛かる。
それまで、みゆちゃんは楽しそうに話しかけてきて、僕の返答を聞いては、ほうほう、ふんふんと相づちを打っていた。
この辺りは大きな家が多いため、両脇を壁に囲まれており、その道が続く向こうにある街灯に影が見える。
よく見ると、それはひとつの人影だった。
僕は気にせず前に歩いていると、隣にみゆちゃんがいないことに気づく。
後ろを振り替えると、彼女はいつのまにか立ち止まっていた。
彼女の顔を見ると、先程前の笑顔とは打って変わり、こわばった顔をしている。
「みゆちゃん?」
「あ、いえ、なんでもありません。行きましょう。」
「え、でも……。」
「あきらさん、大丈夫です。」
そういって僕の前に出て進む彼女の後を慌ててついていく。
街灯に近づき、人がはっきり見える、
それは一人の若い男だった。
みゆちゃんは立ち止まり、その男の方をじっと見る。
男がこちらに話しかけてきた。
「鳳魅幽、ひさしぶりだね、」
「……。」
「ふん、相変わらず愛想のない女だ。しかも、鳳家の人間が夜中に誰ともわからない男と二人っきりとはね。」
男が誰かは知らないけれど、その言いように僕はムッとする。
僕の横にスッと影が出る。
みゆちゃんは一歩前に出ると、ひどく冷たい声で男に返す。
「……うるさいですね。相変わらず口ばっかりで。そんなのだからいつまでたっても当主候補の順位が私よりあがらないんです。」
「くっ。」
男は周囲に目をやる。
僕は周りを見ると、いつのまにか後ろ側にも人影が現れる。
前に目をやると、男の周りにも影が現れた。
現れた影は人の顔形がない、炎のようにゆらめく黒い影だった。
みゆちゃんがぼくを庇うように僕の前に立つ。
「あきらさんは私の後ろにいてください。」
そういって僕の方を少し振り返り見る。
ちらりと見えたみゆちゃんの左目が紫色に光っているように見えた。
「みゆちゃん、目が……。」
僕の問いかけを遮るように言葉を被せる。
「あきらさん、巻き込んじゃってすいません。そこじっとしていてください。あの男の目的は私ですから。」
彼女は男の方をじっと見据えた。




