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すいません。予約投稿の日にちを間違ってました。
店の中に入ると、そこにはいくつものクレーンゲームが並んでいた。
後ろから着いてきていた瑠唯は僕を追い抜くと、そのまま目の前の台に向かう。
「先輩、こっちですよ、こっち。」
彼女はこちらを向くと、急げとばかりに手招きする。
僕は頷くと彼女のもとに向かった。
◇◇◇
「先輩、早く来てくださいよ。もう。」
「いやいや、そんなに急がなくてもゲームは逃げないって。」
僕は宥めるように言うと、瑠唯は顔を膨らませる。
「そんな問題じゃないんです!」
彼女はクレーンゲームの方をむき、中の景品を見て指差す。
「あれあれ、あれが欲しいんです! でもなかなか取れないんですよね。」
彼女の指差す方向を見ると、そこにはあまりかわいいと言いがたい手のひらサイズの豚のような生き物のぬいぐるみがあった……。
「えっと、あれは何?」
「いま学校で流行っているキャラクターなんです。かわいいでしょ、先輩。」
もう一度見てもかわいいとは言いがたい……。
いやじっと見ているとかわいいような気もしてくる。
「かわいい……かな?」
「先輩もあの子の魅力に気がついたようですね! 先輩はクレーンゲームは得意ですか?」
彼女は両手で僕の手を握るとグッと近づいて聞いてきた。
かなりテンションをあげた普段見ることはない彼女の勢いに圧倒される。
「えっと、あまりやったことないし、そんなに得意ではないかな……、なんて。」
そう答えると、彼女はふてくされたような顔をした。
「えー、先輩、得意そうだと思ってたのに。」
(どこをどう見てそう思ったのか……。ていうか、まだ手を握ったままだし、近い。)
僕は引きぎみになんとか答える。
「とりあえずやってみようか。」
台の前に立つと、何かで見たうろ覚えの知識を基につかみやすそうなぬいぐるみを探す。
「あれが取りやすそうじゃない?」
「あれですか? そうですね。確かにとりやすそうな……、いやでも罠かもしれません……。」
僕の指差したぬいぐるみを見て彼女は真剣な眼差しでそれを見つめる。
「やってみようよ。」
そういうと彼女も深く頷き、僕はぬいぐるみの距離を目ではかり始めた。
彼女も台の周りを移動しながらそれの位置を確かめていた
僕は決心すると、静かにコインを投入しボタンを押してクレーンを動かす。
クレーンがぬいぐるみの上までゆっくりと移動する。
「先輩、そこです。」
僕も頷くと、ボタンを押しゆっくりとしたに下がっていく。
クレーンはぬいぐるみのほぼ真上に来ており、開いたアームがぬいぐるみの真横似来ていた。
「やった! これはいけますよ、先輩!」
彼女の声が聞こえると共に、アームはぬいぐるみを掴み、上昇を始める。
無情にもぬいぐるみはアームをすり抜けて落ちていった……。
「あー、そんなー。」
瑠唯はその場で膝をついてうなだれそうな勢いで、暗い顔をしてため息をついた。
◇◇◇
店から出た僕の横にはにこにこ顔の瑠唯が立っていた。
手にはぬいぐるみを持って。
「先輩、ありがとうございます。でも、すいません。」
そう言いつつも顔はにこにことした顔のままで。
(ここまで喜んでもらえると、まあ、いいけど。)
あれからバイトで稼いだお金をつぎ込み、なんとか一匹のぬいぐるみを確保することができた。
かなり手痛い出費ではあったけれど……、いや本当に。
そんな僕の気持ちも知ってか知らずか、瑠唯はこちらを向いて明るく話しかけて来た。
「先輩、少し遅くなっちゃいましたね、それじゃ帰りましょうか。」
僕はうなずくと、二人ならんで駅の方に向かって歩き始めた。
駅まで少し近づいたとき、後ろから声をかけられた。
「え? あきらさん?」
「え?」
振り向くと、そこには私服姿のみゆちゃんが立っていた。




