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33 閑話

閑話になります。

次回から二章目です。

私、榊瑠唯は今日も先輩の待つあのコンビニに向かう。


今日も先輩に会えるかと思うと、顔が緩みそうになり、歩く早さも急ぎ足になる。


あの日、先輩に助けられてから、私の心はまったく変わってしまったのだった。


◇◇◇


あの日、分家筋の反逆者を二人で倒し、先輩を早々に帰らせた後から、四家の当主と上役に先輩から手を引かせようと大忙しだった。


おかげで先輩に会えるまで少し時間がかかってしまったのだ、あの頭の固い老人どもめ!


私たち榊の一族は、こういった頭を使った工作が得意ではないのだけれど、先輩のためにかなりがんばった。


本音を言えば、こういったことが得意な魅幽を巻き込みたいところだったけれど、今のあの子がどちらに付くか分からない。


このために工作は榊の筋の者だけで行い、万全を期すために時間がかかったのだった。


最初に行ったのは、両親の説得だ。


二人にはある程度は本当のことを話すしかないと思い、先輩に助けられ命を救われたこと 、その時の先輩がどれだけ格好良かったかを熱く語った。


初めは真剣に聞いていた二人の目線が途中から生暖かいものになっていたのが気になったが……。


最後まで聞き終わると母さんは先輩の行いに感動したのか涙ぐむ。


「この子にもとうとう春が……。」


母さんが何か言っていたが、私は、興奮した父さんから先輩に会わせろと詰め寄られていたので、よく聞き取れなかった。

その後、母さんに後ろから殴られた父さんは気絶した。


「るりちゃん、母さんに任せておきなさい。」


全盛期を彷彿とさせるように気を充満させた母さんはそう言い、部屋から出ていく、気絶した父さんの足を持ち引き摺りながら。


◇◇◇


結果的には上手くいった。


父と母がいろいろ動いてくれたようで、先輩の監視と言う名目で私は先輩のバイト先にお世話になることになった。


バイトに行く日には、私が監視という役回りが果たせるか心配なのか、母さんが玄関を出て先にある門の前まで送りに出てくれる。


「あれ、父さんは?」


「ああ、あの人なら気にしなくていいわ。いつものように、そこの庭で寝ているんでしょ。」


そう言って壁の向こうにある庭の方に目をやった。むーむーっと、なぜかくぐもった声のようなものが聞こえた気がしたので母さんに目をやる。


「それより、るりちゃん、しっかり決めるのよ!」


「えっと。……はい!」


まったく気にした風もない母さんを見て、気のせいかと思った私は元気に返事すると、バイト先に向かうのだった。


◇◇◇


バイト先に着くと、真っ先に先輩の姿を探す。


「おはようございます、先輩。」


「おはよう、瑠唯」


そう返してくれる先輩を見て、胸が暖かくなる。


ただ、何とかして先輩のことを名前で呼びたいけれども、なかなかきっかけが掴めないのが悩みではある。


仕事が始まると、分からないことは先輩が教えてくれる。


横に付いて丁寧に教えてくれる先輩をちらりと見て、思わず顔が緩みそうになるのを引き締める。


少し暇になってくると、心の中から声が響く。


(ほら、もっと押していきなさいよ、瑠唯!)


(いや、押していくって言ってもバイト中ですし……。)


(あんた、何のためにここに来たの! アキラに合うためでしょ、まったくこの子は。)


ノーツさんは先輩とバイトをしている時、暇になるとよく話しかけてくる。


私とはかなり相性が良かったみたいで、あの時以来、魔力のパスが通り近くにいるとこちらに来れるそうだ。


それに私のところに来た方が、ノーツさんの魔力の回復が早くなるんだとか。


彼女とは友達のような関係を築いており、ちょくちょく先輩のことを聞いたり、相談している。


◇◇◇


先輩のことを目で追いかけながら考える。


改めて先輩の周りにいる仲が良さそうな女性のことを思い浮かべる。


魅幽に茉莉さん、エリザさん、それにノーツさんもどちらかと言えば女性だそうだ。


しかもこの地の旧家が揃っているのがかなり悩ましい。


他の家は今はまだ伝聞のみだろうけれど、先輩のあの力をその目で見ると、おそらくどの家も取り込みに動くだろう。


そうなるとかなり競争率が高くなる。

特に魅幽と茉莉さんの家は動く可能性がかなり高いと言えた。


魅幽は実家から何か聞かされているのか、私がバイトを初めて以来、かなり怪しまれている。


幼馴染だけあって、あの子のことはよく知っている。

鳳家の当主候補の一人だけあって、本当の考えは一切読ませない。


ここ最近も、表面上はいつもの笑顔だけれど奥では何かを考えているであろうことだけは分かった。


まあ、家の事情が絡まなければ、あの性格のままだから、付き合いやすいんだけれど……。


何はともあれ、私の想いにいつか気づいてもらえるようにと願いながら、今日も先輩にこっそりとアプローチするのだった。


ノーツさんのお叱りを受けながら。

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