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30

次回で一区切りとなります。


榊が放った矢は、初めは上手く当たらなかったものの、回を重ねる毎にその弓のもつ能力を発揮したものに成っていった。


(あれは……、相棒が力を貸している?)


あの気まぐれで気難しい相棒をその気にさせるなんて何があったんだろう、と考えていると、彼女が放つ矢は分裂し、避ける男を追うように曲がり、相棒の力なしにはできない技を使うようになっていた。


刀も折れ、武器もない状態の僕は、この隙に距離をとり少し離れた位置で二人の様子を見る。


(それにしても、弓を構える榊は何をニヤニヤしてるんだろう……。)


今の状況でにやける要素なんてどこにも無い筈の榊を見て思う。


(矢を射つと笑う危ないやつなんだろうか、いやいやそんなはずわ、でも無表情で刀を振り回す時点で危ないやつだよな……。)


そんなことを考えていると、榊が放った矢は八つに分かれて、男を襲いかかっていた。


八つの矢に射ぬかれた男はさすがに耐えきれなかったのか膝をついた。

男は呻くような声を出したあと、榊を睨み付ける。


「おのれ、お前のような裏切り者に……。」


榊は無言で油断なく弓を構えた。

男は周りに少し目をやり、僕の方を見た後、再度、榊に目をやった。


少しよろけながらもなんとか立ち上がると、榊に向かって、大きな鉈を構える。


「ここまでのようだが、ただでは済まさん。」


そう言うと男はニヤリと嗤い、僕がいる方向に跳躍した。


「お前の大事そうなものを頂いていこうか。」


榊は一瞬焦るような表情を見せた後に、矢を慌てて放った。


男の方が僅かに早く、僕の目の前に現れる。

現れたときには既に鉈を振り上げた状態でまさに振り下ろさんとしていた。


男がこちらに目をやったときから、何かするつもりだと、油断なく構えていた僕は咄嗟にしゃがみながら斜め前に飛び出し、降り下ろされた一撃をかわす。


何度か射ぬかれたことが効いているのか、振り下ろす速さは先ほど衰えているものの、常人より速く、その鉈は地面を叩き割る。


男は背中に迫り来る矢を気にせず、その顔はこちらを見て、僕を狩ることだけを狙っていた。


男は振り下ろした鉈をそのまま横から薙ぐように、僕の背に向かって振り上げる。


ふと僕は目の前を見ると、その後の光景が想像できたのか榊が泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。


僕は男の鉈には目もくれず、男の背中に向かっていた矢の一本を掴む。


相棒から生み出されたこの矢には相棒の意思が宿っており、直接掴むことで、正式な契約者の僕の想像を実現してくれる鍵となる。


掴まれた矢は、その速度を増し、キンという音と共に上に曲がり、僕が掴んだまま跳ね上がった。


その勢いのまま空中でクルリと回り、頭を地に向けた僕の少し前を鉈が通過する。


男は驚愕の表情を浮かべる。その直後に男の背中に複数の矢が刺さった。


「ぐっ。」


男はまだ諦めないのか、空中の僕を睨み付け、振り上げた鉈をこちらに向けようとする。僕はやらせまいと、姿勢をそのままに、男の背に向けて矢を投げつけた。


ザシュっという音が響き渡る。


放たれた矢は速度を増し男の背中を貫き、地面に突き刺さったのだった。


男は動きを止め、その場に倒れこむ。


「こ、こんなところで……、我らの悲願が……。」


そう言って、倒れた男は動かなくなった。


地面に落ちて転がった僕の目の端に、榊が慌てて走ってくるのが見えた。

閑話を1話はさんで二章にいこうかなと思います。

二章は魅幽がヒロインになるはず……。

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