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ボーッと過去に思いを馳せていると、みゆちゃんに「なにさぼってるんですか。」と怒られたので、ごめんごめんと仕事に向き合うことにする。
とは言え、この時間帯にコンビニに来る客はだいたい決まっていて、みゆちゃんの学校の生徒が部活帰りに立ち寄り買い食いするくらいで、みゆちゃんひとりに任せておいても十分人手は足りている。
レジ打ちが終わり品物を客に渡してふとみゆちゃんのほうを見ると、学校の知り合いなのか、制服姿の女子高生達と話をしていた。そちらを見ていると、
「おやおや、女子高生をジーっと見て、いったいどこを凝視しているんですか、弓取先輩。」
犯罪の計画ですかと、レジの前から、にやにやした顔であらぬ疑いをかけてくる女子高生に冷静に言い返す。
「いやいや冤罪だ、それは。それに僕はお前の先輩でもなんでもないだろ。まったく。」
黒髪をストレートに伸ばした彼女は榊瑠唯。彼女もみゆちゃんど同じ学校の同級生で、みゆちゃんとは幼馴染らしい。
ここで長くバイトするうちにそれなりに顔見知りになり、なぜか僕のことを先輩と呼び、さっきみたいにからかってくる。なお、顔は言うに及ばず美少女といえる、黙っていればだけど。
「それでお客様は何をお買い上げで?」
僕がそういうと、
「え、用がなければ話しかけたらダメなんですか?」
榊はガーンとショックを受けたふうな顔をした後、ヨヨヨと腕を顔にあててみゆちゃんの元に走り去っていくと、僕に言葉攻めされたとさらに冤罪を振り撒いていた。
さっきのような榊の行いはいつものことなので、みゆちゃんのあしらい馴れた慰めを見ながら仕事に戻ることにした。
◇◇◇
日が暮れてから大分時間もたち、コンビニの外もすっかり暗くなった頃。客層からは賑やかな高校生がいなくなり、数も減ってきていた。
「みゆちゃんは今日は何時まで?客の数もずいぶん減ってきたし、夜も遅くなってきたからそろそろ帰った方がいいんじゃない?もうすぐエリザさんも来ると思うし。」
すると彼女は「そうですね、準備してきます」と言うと店の裏側に入っていった。
彼女と入れ替わるように、コンビニの自動ドアが開き、銀髪の女性が入ってきた。
「ヨース、少年。ちゃんと仕事してる?」
「あ、エリザさん、お疲れさまです。やってますよ。」
彼女は、あれ、みゆちんはと言うと、キョロキョロ周りを見渡していた。僕から裏にいますよと聞くと、ウシシっと声に出しながらからかってやろっと裏に入っていった。
◇◇◇
少しして 、「もうっ」と怒りながらみゆちゃんが制服姿で出てきて、少し遅れてエリザさんがニヤケ笑いしながらやってきた。
みゆちゃんはこちらを見ると、それでは帰ります、お疲れさま、と言い、そのまま自動ドアから出ていった。
「少年、みゆちんを送っていってあげなさい。
この時間は客も少ないし少しぐらいは私一人でも大丈夫だから。」
夜もちょっと遅いしね、と言いつつエリザさんはレジの前に立ったのだった。
「えーと、それじゃあちょっと行ってきます。」
少し悩んだものの、40分もあれば帰ってこれると思い、みゆちゃんを追いかける。
外に出ると、彼女はコンビニから少し離れたところを歩いていた。オーイと声をかけ彼女に追い付く。彼女は僕に気がつくと不思議そうなでこちらを見てきた。
「あれ、あきらさんどうしました?何か忘れてましたか?」
「いや、家の近くまで送っていくよ。もう遅いしね。」
エリザさんにそう言われたと伝えると、彼女は少し驚いた顔をして、こちらを見て少し考えた後、最後のがなかったらポイント高かったんだけどなあと笑いながら言い、それではお願いしますと一緒に行くことを許してくれたのだった。